第百九話 遺跡の町を去る
とりあえずと、ルインの場所に戻ると、熱狂的な町民たちの歓声と、その歓声を浴びている洋一の姿が見えた。洋一の隣には誇らしげに胸を張るリリアが立っている。
「あー、なるほど?」
あれだ。この町を救った英雄みたいな感じで、洋一が祝われている状態なんだろう。ということは、あの場に俺が近づくべきではない。
「あ、ユートさん!」
「あ、エレノア。無事だったんだな」
町の外から覗き込んでいたにも関わらず、エレノアは俺を見つけたらしい。エレノアはトコトコと寄ってきて、にこりと笑った。
「ご無事でよかったです。お怪我はありませんか?」
「怪我はあるけど、歩けないほどじゃないな」
「歩くって、この町を出られるおつもりですか?」
休憩もしないのか、とエレノアの顔に書いてある。そりゃ休憩はしたいが、洋一と、何よりリリアがいるところにいるわけにはいかない。
「ああ、このまま行くつもりだ」
「私も同行させてもらっても、いいでしょうか?」
エレノアが困った顔で問うた。
まあ、エレノアもリリアのいるとこにいるのは避けたいだろう。
「ああ。次の町くらいまでなら」
「ありがとうございます!」
エレノアは目を細める。
「……町を出るのか」
「誰だ?」
がさりと茂みから出てきたのは、ノラだった。
「ノラ……さん」
「ノラでいい。事情はアランから聞いた。お前、この町を救ったあの[ろぼ]とやらに乗っていたんだろ。あの勇者様から協力者がいたと聞いて、アランからの話を合わせれば予想がつく」
「……だとしたらどうする?」
「あの場に自分も今回の件の功労者だと、名乗り出なくていいのか?」
「いい。余計なことに巻き込まれたくないからな。ただでさえまだいろいろしがらみがあるんだ」
「ふっそうか」
ノラは最初にあった時のようなトゲトゲしさがない。俺としては拍子抜けしてしまう。
「この町を出るなら、これを持っていけ。隠れた功労者への、私なりの礼だ」
そういうと、ノラは鞄と首飾りを投げてよこした。
鞄の中には魔法薬と食料、そして首飾りはこの町へ入る許可証だ。色はガラス部分が白で、縁が金。……そんな色の許可証ってあっただろうか。
「その許可証があれば、この町にはいつでも入ることができる。滞在期間は未定。ギルドとその時々で要相談、ただし相談次第では無制限も可能、という許可証だ。この世で一つだから、なくすなよ」
「え、それって……」
かなり特別扱いではないだろうか。
俺の言いたいことをくみ取り、ノラは頷いた。
「ギルドマスターからのお達しでな。その真意はあたしにもわからないが……。ギルドマスターの許可が出ている以上、それは正式なものだ」
「……わかった」
「それと、ギルドカードの旅券機能を追加しておいた。これで世界中どこへでもいける」
「え、それはありがたいな」
「それはクロワルドからの申請が通ったから、ということだ。話は以上。達者でな」
「あ、イゼキエルはどうなった?」
「ああ、もう一人の功労者か。あいつは、早々に立ち去った。お前と同じだな」
そう答えると、ノラは去っていった。
「まあ、ありがたくもらっとくか」
「はい」
「さて、じゃあ行くかね」
俺はまた道のない場所を歩き始めた。




