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父さんな、ラーメン屋で食っていこうと思うんだ  作者: メモ帳ぱんだ


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第19話 メディア対応

 新地にあるウチの店の行列は、途切れることがない。

 最近は朝11時から夜1時までの通し営業だが、行列が一秒も途切れない日も出てきた。

 師走に入り、凍てつくような寒さが行列に直撃している。

 それでも客たちは寒そうに肩をすぼめながら、どこか楽しげだ。

 期待に満ちた目で、自分の番を待っている。


 行列が途絶えない理由は単純だ。『美味い』、ただそれだけだ。

 その背景にあるのが『原価の高さ』だ。

 もちろん、原価が高いだけで美味くなるわけじゃない。

 だが、高原価だからこそ出せる美味さがある。


 ――もっとも、今日はその行列もない。


 今日は店の定休日だからだ。

 店先には定休日を知らせる張り紙がある。そこへ時々、客がふらりとやって来ては、残念そうに踵を返していく。


 定休日だからといって、シャッターを下ろしているわけじゃない。

 今日は、取材対応のために店を動かしている。

 最近の定休日は、ほぼ一日メディア対応に充てていた。


 店員たちは自宅でゆっくり日頃の疲れを癒しているが、俺は定休日こそが忙しい。

 そして今も、まさに取材の真っ最中だった。


 カウンターの向かいで、ピンクのセーターを着た男性がラーメンを絶賛してくれている。


「うーん、美味い! 大行列ができているだけありますね」


「ありがとうございます」


 今回の取材は準キー局の取材だ。

 この放送は近畿地区だけでなく、東海と山陰地区でも放送されると聞いている。

 何万人もが視聴する番組だ。定休日に店を開ける価値はある。


 今回来てくれたのは、有名な漫才師のツッコミ役と女子アナだった。

 収録の前には丁寧に挨拶をしてくれた。

 続けて横にいる女子アナが一言。


「この半熟の味玉、見た目が綺麗ですし、すごく美味しいです」


 和やかに取材は進む。

 ツッコミ役が、麺を箸ですくい上げながら言った。


「この麺、スープと最高に合ってますね」


「はい、合う麺を研究して特注しているんですよ」


 口ではそう答えながら、内心では否定する。

 開店から半年。スープに合う麺は、まだ見つけられていない。

 最近は、購入した製麺機で試作を繰り返す毎日だ。


 収録は四十分ほどで終わった。

 カメラが止まると空気が一気に緩み、ツッコミ役が笑顔で話しかけてきた。


「このラーメン、テレビ向けの感想じゃなくて本当に美味しかったです。またプライベートで来たいです」


「ぜひぜひ、前もってお電話頂ければ歓迎しますよ」


 多分、この人はラーメンにはあまり詳しくないだろう。

 本物のラーメンマニアは、このラーメンを食べて「麺が合っている」なんて感想は口にしない。


 だが、彼の言葉は素直に嬉しかった。

 単純な『うまい』。

 それが、俺にとっての最大の褒め言葉だからだ。

 評論家の素材当てクイズじゃない、真心がこもった一言がそこにある。


「ありがとうございましたー」

 

 俺と遥香ちゃんは店の前で並んで、取材クルーを見送った。

 頭を下げながら、午後の段取りを組み直す。


 今日は午前中に一件、午後に三件の取材が入っている。

 これだけ取材を回せるのは、遥香ちゃんが日程調整をしてくれているからだ。


 実はラーメン屋というのは、取材を断る店がかなり多い。

 その中でウチは、人気店になってからも取材を積極的に受けている。

 しかも定休日が週に二日あって、取材日程を組みやすい。

 だからこそ重宝がられる。


 テレビは流行を作るだけじゃない。

 流行の後追いも必要になる。

 特に視聴率の低い深夜番組は、その傾向が強い。


 積極的に取材を受けてきた効果は、確実に出ている。

 テレビの影響力は本当にすごい。

 影響は売上だけにとどまらない。

 商社時代の知り合いからも連絡が来たし、少し疎遠になっていた大学時代の同期とも再会できた。


 そしてなにより、店の前の行列は相当長くなった。

 ピークタイムは三時間待ちが当たり前になってきた。

 カラーコーンで待ち時間を明示しているので、さすがにここまで来ると、列の最後尾に並ぶ人はかなり減っている。


 店に戻ってカウンターに腰掛けると、横に遥香ちゃんが座ってきた。


「敦史くん、行列が長すぎて苦情が出始めているのに……テレビの取材受けすぎじゃない?」


 とはいえ、一昨日、町内会長からやんわり小言を言われたばかりだ。


 それでも、深夜まで行列ができている割には、苦情はかなり少ない。

 亡き父が地域と上手くやってきた、その積み重ねのおかげだろう。


「これから何店舗も作らないといけないから、宣伝しすぎるくらいがちょうどいいんだよ」


「そんなもんなのかなぁ」


 行列については、もちろん対策もしている。

 近くのタバコ屋の使っていない駐車場を借りたり、列の導線も調整している。


 とはいえ、行列も悪いことばかりじゃない。


「それに行列に対して、お礼を言われることもあるんだよ」


 商店街の住民は、だいたいが商売人だ。

 行列客相手に、好きに商売している。


 先週、金物屋の娘が、寒さに震える客に温かい豚汁を売って小遣い稼ぎをしているのを見かけて、爆笑してしまった。

 飲食店の行列に並んでいる客に食べ物を売るのは、さすがにマナー違反だ。

 ……だが、あの子は毎日挨拶してくれるし、俺によく懐いてくれるかわいい子だから見逃す。


「それに向かいのおでん屋も、最近ずっと満員だし」


 俺の店に並ぶのを諦めた客は周囲の飲食店に流れる。

 だから、近くの飲食店は大盛況だ。


 テレビの中でも商店街の宣伝はしている。

 閑古鳥が鳴き始めていた通りに、少しずつ活気が戻ってきた。


 ラーメンが文化に昇華するには、地域の理解が必ず必要だ。

 数々の有名店を襲った悲劇を思い浮かべながら、俺たちは近隣住民に持っていく菓子折りを買いに行った。

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