8・俺の理解は完璧である
「今あるのは、これくらいだのう」
ビルゼンに戻り、パーティで集まったところへ、ノルムルが依頼書を提示する。
すでにガラドミアは席についており、自身がこれと思う依頼が無かったことを示している。
ターヤも同様らしい。
マタザはいつもの事だが、マツの事しか考えていない。
「ああ、ベヒモスかぁ」
ターヤが依頼書を見て気のない返事をする。
ベヒモスはS級としても実入りが良いが、出費も多いモンスターである。斥候や軽戦士にとっては関わり合いになりたくない相手と言っても良いだろう。
なにせ、ダンジョンそのものが重量級モンスターの巣窟と言って良く、ノルムルならばともかくターヤには不向きと言える。
「まあ、そうじゃろうがのう」
ノルムルもその事は分かってはいたらしい。
「象に河馬か!面白そうじゃねぇか」
マタザにとって面白くないモンスターなどいないのだから、聞くだけ無駄だ。
そして、なぜか何も言わない俺へと注目が集まって来た。
「ジャンはどうなの。いつもなら騒ぐのに、今日は静かね」
ガラドミアが代表したかのようにそう聞いて来た。
なぜ静かかって?それは俺が提案を持っているからさ。
「これだよ」
満を持して皆へと見せたソレ。
「どういう風の吹き回しじゃ?」
まず疑問を呈してきたのはノルムルだった。
「何でまた、そんなモノに興味を持った?」
ガラドミアが疑いの目を向けてくる。
「ハッハー、俺に斬れないモンはねぇぜ!」
マタザに聞くだけ無駄である。
「なんかさ、ワリが良すぎない?これ」
ターヤはたかが調査にしては報酬が良すぎる事に目ざとく気が付いたらしい。
「そりゃあ、鉱山迷宮中層の異変だからな!俺のシマをしっかり知るのは当然だろ!!」
理由はとても簡単である。先日の採取では不満だからさ。上手い具合に魔性ミスリルゴーレムが中層上部で討伐できた訳だが、鉱山迷宮としては特異事例なだけに事態を重く受け止め調査をしたいらしい。
これほど好都合な依頼があるか?
「魔性ミスリルゴーレムの件か。早々お目に掛かれない相手だと思ったが、中層に入ってすぐに表れるとは、ちと異常じゃな」
ノルムルが調査理由に納得した様だ。
「えー、なんかあるんじゃない?ジャン」
ターヤが怪しそうに俺を見るが、俺にヤマシイ考えなど何一つない!
「鉱山迷宮の異常は分かるけど、動機がとても個人的ね」
ガラドミアが呆れているが、何か問題が?そもそも、ガラドミアの矢だって鉱山迷宮産の魔鋼ではないか。俺個人の問題では無かろうに。
「いつものジャンだのう。動機はそんなもんじゃろう。さて、どうする?」
こうして、ノルムルが提示したベヒモス、俺が提示した鉱山迷宮調査、もしくはもう少し様子見か、ここで採決である。
「ワシは鉱山調査を推したい」
まず第一声はノルムルであった。
それも意外なことに俺の提案を推すという。
「意外ね。どうしてかしら?」
ガラドミアがその理由を尋ねる。
「ちょっと昔の話が気になったからじゃな。もし、同じ様な事が起っておれば、中層にアダマンタイトゴーレムが居るのやも知れん」
俺はその言葉に驚いた。いや、驚きどころではない。ソイツは噂に聞く下層のゴーレムだからだ。
「すげーな!」
「250年前の氾濫ね」
俺の歓喜を遮るようにそう口を開くガラドミア。なぜ、俺を遮った?
「ああ、駆け出しだったワシも、話にしか内容を知らんがな」
「そうね」
ノルムルとガラドミアだけで何やら共通の理解が出来上がっているらしいが、俺には全く意味が分からない。
「250年前?もしかして、鉱山騒動のことかな?」
そこに、ターヤが何か思い出したように問いかける。
「詳しいわね。それの事で合っている。当時解放されたばかりの中層下部にアダマンタイトゴーレムが現れ、ミスリルゴーレムが上層にまで上がって来たのよ。わたしも直接その場にいなかったから、周りから聞いた話でしかないけれど」
長命種のエルフやドワーフは200年や300年を冒険者として過ごす事はザラだ。その経験や技術が次代へと受け継がれ、俺たちはその事に助けられながら冒険者をやれている。
そうした経験の中には古い時代の氾濫や事件についての物がある。お貴族様や商人でもない俺たちは、学者の記した小難しい報告書など読む読解力などなく、当然だが冒険者ギルドにはそう詳しい過去の記録など所蔵されていない。あっても誰も利用できないのだから置くだけ無駄なのだ。
その代わりとして、年長の冒険者であるとか、長命種の経験や技術、口伝が重要になる。
多くの冒険者が年長者に敬意を持ち、長命種を頼りにするのはそうした理由からだ。ま、中には力に溺れた跳ねっ返りも居るが、そう言った奴らは長続きしない。俺のように真面目で素直じゃないとな!
そして、ノルムルやガラドミアの昔話を聞き流し、早速出発の準備を始める事になった。
向かう先は鉱山迷宮である、だが、魔性ミスリルゴーレムと遭遇する可能性が高い上にアダマンタイトというとんでもなく強固な金属のゴーレムとやり合う可能性があるというのだから、斫り師では心許ない。
「どうしたものか。いっそ、剣豪を斫り仕様に改造するか?」
今回は採取ついでに中層の調査を行う必要があるとノルムルが言っていた。ガラドミアが俺の考えを頭から否定しにかかって来たが、理解は完璧だ。アダマンタイトという希少金属の採取が最終目的な事はしっかり理解しているのだ!
「持ち帰る鉱石も増えるし、行きに採れた鉱石をどうするかも問題だな。やはり、あのスーツは必須、お!俺自身も斫りスーツで仕事に励むか!」
そうと決まれば、ノルムルに渡してなお有り余る魔性ミスリルをふんだんに使った剣豪の斫り化、さらに斫りスーツとツルハシの製作を行い、万全の準備で集合場所へと向かった。
「ジャン、アナタ本当に今回のクエストを理解している?」
その姿を見て、ガラドミアの第一声がそれであった。
「理解しているからこそ斫り仕様の剣豪を仕上げて来たんだが?何か問題でもあったのか?」
俺の準備は完璧である。
「アナタのその姿は何?」
どうやら気になったのはスーツであったらしい。
「それは向こうについてのお楽しみだ!」
こればかりはいくら口で説明しても理解させるのは無理がある。見せるのが一番の早道だ。
「まあ、いつもの事だし、良いんじゃない?」
ターヤがそう宥めている。理解があって助かる。




