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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第六章 海の向こうの大陸で――

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エピソード 1ー2 様々な準備

 エルフの里からの呼び出しに応じることにしたものの、俺達が同時にミューレを留守にするにはそれなりの準備が必要になる。という訳で、出発は三日後に決定。

 おのおのが担当している部門に留守中の指示を出して回る。

 そんな中、俺はアカネ商会を訪ねた。なにかの会議をしていたようで、通された会議室には三人の少女が座っている。


 機能性を重視した服を身に纏うのは、アカネ商会の主であるアカネ。

 赤い髪と瞳の持ち主で、俺の一つ年下だから現在は十五歳。この世界の子供は成長が早いので、日本人に例えるとそろそろ高校を卒業するくらいの見た目になるはずなんだけど……相変わらず胸は育っていないようだ。


 続いて、その向かいに座っているのはティナ。

 黒い髪に黒い瞳と、日本人を彷彿とさせる容姿の彼女は、アリスブランドのブラウスにミニスカートを着こなしており、ここが異世界であることを忘れそうになる。

 ちなみにクレアねぇの右腕とも言える存在であり、俺達が留守のときはグランシェス領を支えてくれている、非常に頼りになる女の子だ。


 最後はそのあいだに座る、鮮やかな色のドレスを身に纏ったリーゼロッテ。

 青みを帯びた銀髪に紫の瞳と神秘的な容姿を持つ彼女は、平民達から歌姫とあがめられている正真正銘のお姫様だ。

 しかしその実態は――みなにリズと慕われる、愛すべきどじっ娘である。先日十四歳になったばかりで小柄な体格だけど、その胸だけはやたらと育っている。


「もしかして取り込み中かな? それなら出直すけど?」

「ちょうど話が終わって、みんなでお茶にしてたところやから問題ないよ」

 肩からこぼれ落ちた赤毛を指で払いのけ、アカネが笑みを浮かべる。会議で良い話でも纏まったのか、機嫌は上々のようだ。

 そういうことならと、俺は空いている席に座る。


「それで、今日はどんな用事なん?」

「実は二、三週間ほど出掛けることになったんだ、だから今のうちに、あれこれ話しておこうと思ってさ」

「ふぅん? またなにか厄介事なん?」

「エルフの族長に呼び出されたんだ。旅行のつもりなんだけど、厄介事の予感も……」

「――旅行でしたら、わたくしも連れて行って欲しいですわっ!」

 リズが喰い気味で言い放ち、テーブルに身を乗り出した。やたらと育った胸がドンとテーブルの上に乗っかり、それを見たアカネが戦慄している。

 どっちかって言うと控えめなのに、そんなに自己主張してくるなんて意外だ。もちろん、胸の話ではなく、性格の話である。


「リズはエルフの里に興味があるのか?」

「そういう訳ではありませんけど……リオンお兄様との旅行なら、わたくしも行きたいですわ。最近、ずっと置いてきぼりばかりですもの」

「あぁ……なるほど」

 リズは精霊魔術を三日にもわたって持続させられるという特殊能力を生かし、アカネのもとでナマモノの輸送を支援するという仕事をしている。

 リズ自身が望んだことでもあるけど、年末年始を除いてミューレの街に拘束されっぱなしだからな。さすがに出掛けたりしたくなって来たんだろう。

 でも……困ったな。今回は婚約の記念旅行みたいに考えているから、ほかのみんなを連れて行くつもりはないんだよな。どうしたものか……


「リーゼロッテ様。今回の旅行は婚約の記念だから、邪魔したらダメですよ」

 クレアねぇから聞いて事情を知っていたのだろう。答えあぐねていた俺を見て、ティナがやんわりと諭してくれる。

「そう、だったんですの?」

「実はそうなんだ。だからごめんだけど……」

「そういうことなら、邪魔したりしませんわ。存分に楽しんできてくださいませ」

 柔らかな微笑みを浮かべる。その瞳の奥に寂しげな色が宿っているように見えるのは……たぶん気のせいなんかじゃないだろう。

 ……まったく。リズが俺やアリス達の気持ちなんて考えず、自分の気持ちだけを押しつけてくるような女の子なら、迷ったりせずにすむんだけどな。


「……ありがとう、リズ。今回は連れて行けないけど、次の機会は一緒に遊びに行こうな」

 俺がそう言った瞬間、リズは目を軽く見開いた。

「……よろしいんですの?」

「ダメなんて言わないよ。ただ――」

 輸送のお仕事の方は大丈夫なのかという意味を込めて、アカネに視線を向ける。


「輸送の件なら馬車鉄道次第やね。レールの設置や宿場町はどうなってるん?」

「リゼルヘイム側の許可ももらえたし、今年中には敷き終わると思う。宿場町は……」

 俺は最近のデータを持っていそうなティナを見る。

「宿場町は現在急ピッチで開発中です。あいだの村々に設置している、馬を交換する中継地点についてはほぼ完成していますが……率直に言って人手不足が深刻ですね」

「人手不足か……」

 アヤシ村を襲った連中はレリック領の鉱山送りが決まったし、そもそも単純作業以外を犯罪奴隷に任せるのは難しい。

 どっかに、働き口を探している集団とかいれば良いんだけど……技術革命の影響で、今はどの領地も人手不足なんだよなぁ。


「とは言え、街道の整備は最優先事項ですからね。レールを敷き終わる頃には、宿場町も完成する予定です」

「そっか。なら安心だな」

 という訳で、俺は次の機会にはリズを連れていくことを約束した。もちろん、同席しているティナやほかのシスターズも、機会があれば連れて行くことを約束する。


「ところでにーさん、うちを訪ねてきたのは、その件なんか?」

「あぁそうだった。実は今度は船を作ろうと思うんだ」

「……また唐突やね。このあいだの盗賊が、隣国の手引きって噂と関係あるん?」

「無関係とは……言えないな」

 あの事件の真相は分かっていない。分かってはいないけど……一つ推論がある。

 俺は前世の記憶にある技術を、独占することなく国中に広めた。それは、グランシェス領だけが豊かになり、他の領地との軋轢が生まれるのを嫌ったからだ。


 だけどそれでも、グランシェス領は莫大な利益を得ている。

 ばらまいた技術の数が多いのが原因だけど……それで他の領地が不利益を被っているかと言えば、そんなことはない。うちには及ばずとも、どの領地も以前より豊かになっている。

 その一番の理由は、食料の生産効率が上がり、生活に余裕が出来たからだろう。

 でも、それだけじゃない。グランシェス領に莫大な金貨が流れ込んでいるのに、国全体が金貨不足に陥っていない。それはつまり、他の国から金が流れ込んでいるから。

 ようするに、貿易摩擦が発生している。今回の一件はそれが原因だと考えているのだ。

 そしてそれが事実であると仮定すれば、黒幕はただ隣国の人間だと言うだけじゃない。国が関わっているとみるべきだ。


「現状じゃ単なる予想だけどな。取り敢えず、船の開発はしておこうかなって」

 最初はボーキサイトからアルミを抽出して――とか考えてたけど、アルミの精製は現状では非常に難しいので取り敢えずは断念した。

 むしろ船に関してだけ言えば、原油を掘り当ててプラスチックの原料となるナフサを抽出。一足飛びに繊維強化プラスチックの船を作った方が早いかもしれない。

 ――と、アリスが言っていた。

 とは言え、いくらアリスチートででもすぐに出来る話ではない……と思う。なので、差し当たっては既存の船の改修が妥当だと考えている。


「なんやよう分からんけど……儲け話の匂いがするわ」

「儲かるかは……分からないぞ?」

 貿易摩擦が原因だとすれば、それを緩和するのが主な目的となるからな。儲け話とは対極の話な気がしないでもない。

「うちの勘やけどね。船を開発する言うんやったら、うちにも一枚噛ませて欲しいわ」

「俺としては助かるけど……そう言うことなら新しい船の建設と、中古の船を何隻か買い集めてもらっても良いか?」

「引き受けたで。それで、新しい船に関しては……また技術を提供してもらえるんか?」

「少しだけな」

 実際のところ、俺もアリスも造船技術なんて持ち合わせていない。俺が知っている知識と言えば、様々な未来に作られるであろう船の形や、スクリューなどの概念くらいである。

 まずは少しの改造から初めて、造船技術のある人間を使って研究を重ねる必要がある。チートクラスの船が完成するのは、今よりずっと先になるだろう。


「船の改造計画については、あとで纏めて提出するよ。俺からの話は以上だけど、なにか他に話しておくこととかあるか?」

「いや、うちは特にないけど……」

 アカネが周囲を見回すと、ティナが軽く手を上げた。

「実は新学期から娘をミューレ学園に通わせたいと、グランプ侯爵様からお話が来ているんですが……(うけたまわ)って構いませんか?」

「あぁ……マヤちゃんか」

 このあいだの新年を祝うコンサート。さらっとシスターズの一員として参加していたクレインさんの愛娘である。

 ちなみに、なぜかシスターズ入りを果たしてはいたが、義妹になった訳ではない。

 義理の姉妹が一人でも増えたら、マヤちゃんを義妹にするというクレインさんとの賭はいまだ継続中なので、義妹に昇格しそうな要素は排除したいところなんだけど……


「学園に通いたいって言うだけなら、断る訳にもいかないだろうな。希望どおり受け入れてやってくれ。あぁでも……あの子って何歳なんだ? たしか、結構年下だよな」

「現在十歳ちょうど。来月で十一歳と言うことです」

「二月と言うことは遅生まれか。入学する年度に十二歳なら本科で問題ないな。学力は大丈夫だと思うけど……一応確認だけはしておいてくれ」

 いかにもお金持ちの子供っぽいのが、学力も満たしていないのに本科生。なんてことになったら、周囲から白い目で見られたりするかも知れないからな。

「かしこまりました。ではそのように手配しておきますね」

「ああ。詳細はティナに任せるよ」

 とまあそんな訳で、俺はエルフの里へと出発することにした。

 

 

 次話は15日に投稿予定です。

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