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俺の異世界姉妹が自重しない!  作者: 緋色の雨
第四章 過去の想い

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エピソード 3ー3 危険に見合う報酬

「はいはい、ストップだ」

 リックの肩を押しやって、その突進を止める。そうしてため息まじりに言い放った。

「……あれ、その声は、さっきの兄ちゃん!? ……どうしてここに?」

 俺に気付いたリックが驚いて離れる。


「どうしてここにじゃないぞ。無闇に人に殴りかかったら危ないだろ?」

「だって、外からダニエルおじさんの話し声が聞こえてきたからさ。姉ちゃんを連れて行こうとする冒険者かと思ったんだよ」

「あぁ、それは俺のことだな」

「なにいいいいっ!?」

「だあああっ、だから殴りかかってくんなって」

 サラといいダニエルといいリックといい、この街は人の話を聞かない奴が多すぎる。

「――なにをしてるのリック!」

「ね、姉ちゃん!?」

「こっちに来なさい!」

「ち、違うんだ、姉ちゃん。これには……」

「良いから正座する!」

「はい……」

 そして繰り返される説教。リックはシュンと項垂れてしまった。


 その後、店の奥から出てきた店長。彼等のお兄さんらしい――が現れて、リックくんは店の奥にドナドナ(連行)されていった。

 そうして、店の片隅の席。俺達の前にはレミーだけが残される。


「リオさん、本当にすみません」

 レミーが申し訳なさげに頭を下げる。さっきに続いて二回目だからな。かなり気にしてるみたいだ。

「いやまぁ顔を上げてくれ。じゃないと俺も頼み事をしにくいしさ」

「それは……ガイドの件ですか?」

「そうそう。受けてくれないかな?」

「本当はお断りするつもりだったんですが……」

 レミーは店の奥へと視線を向ける。リックの件を借りだと考えているのだろう。それに関しては気にする必要なんてないんだけど、追い返されたら困るので黙っておく。

 するとレミーは「取り敢えず、詳しいお話を聞いてからでも良いですか?」と続けた。

「もちろん、返事は話を聞いてからで良いよ。それに断られたとしても怒ったりはしないから安心してくれ」

 という訳で、俺達は改めて身分を隠して自己紹介。リュクスガルベアのキモが必要で、狩りをするために森を案内して欲しいと言う話をした。


「リュクスガルベア……ですか」

「うん。ガルベアの希少種らしいんだけど、知ってるか?」

「実際に見たことはありませんが……ガルベアより一回り大きくて、かなり凶暴だって聞いてます。失礼ですけど、その……冒険者になったばかりの方だと、ガルベアを狩るのも難しいと思います」

「うぅん。俺は狩れると思ってるんだけどな。まあ戦ったことがないから絶対とは言えないけどさ」

「森の中で負傷をしたら、他の獣だって集まってきます。戦って無理だったら、生きて帰れないかもしれないんですよ?」

「だとしても、俺達に他の道はないんだ。理由は話しただろ?」

「お薬の材料に必要だという理由は分かりますけど……死んだらなんにもならないんですよ? 分かってますか?」

「分かってる。だからもし無理そうなら撤退する。絶対に無茶はしないから、俺達のガイドをしてくれないか? 引き受けてくれるなら、報酬は希望に添うようにするからさ」

「……報酬、ですか? それはその……いくらくらいを考えているんでしょう?」

「逆に聞きたいんだけど、いくらなら引き受けてくれる?」


 俺が問い返すと、レミーは迷うような素振りを見せた。そうしてしばらくしてから、金貨三枚で、前払いなら引き受けると言った。

 サラさんから聞いた話だと借金があるみたいだからな。恐らくはそれが借金の総額なんだろう。

「……いかがですか?」

「良いよ。前金で金貨三枚と必要経費。後は内容に応じて追加料金を払うよ」

 迷わず答え、テーブルの上に金貨四枚を並べた。そんなにあっさりと出てくるとは思わなかったのだろう。レミーは目を丸くする。


「……自分で提示しておいてなんですけど、ものすごおおおおおおおく、吹っ掛けていますよ? 本当に良いんですか?」

「事情が事情だからな。妥当な金額だろ」

 普通にガイドを雇うことを考えれば、相場よりずっと高いのは分かってる。

 だけど、レミーは俺達が弱いと思っている。つまり、生きて帰れない可能性を考慮した上での値段。恐らく、金貨三枚はレミーにとって、自分の命の値段だ。

 そう考えれば、報酬が高いなんてことは絶対にない。


「確認ですが、私は案内をするだけ。戦闘は一切出来ませんがよろしいですね?」

「ああ。それで大丈夫だよ。魔物の類いは全部、俺達が引き受けるから」

「……そうですか。分かりました。では用意するので、待ち合わせは……そうですね。明日の朝。東門の前で……」

「――ちょっと待ってくれ」

 俺は思わず口を挟む。生け捕り目当ての競合相手がいる以上、のんびりとはしていられないと思ったからだ。

 だけど、レミーはそんな俺の内心もお見通しだったのだろう。「ダメですよ」と首を横に振った。


「森は広大です。そんな中で、一頭のリュクスガルベアを探すんですから、数週間は森に籠もる覚悟が必要です。今すぐ出発だなんて無理です」

「そう、だよな。悪い、ちょっと焦ってた」

 反省しようと、自分の頬をぱんぱんと叩く。

「いえ、気持ちは判りますから。でも、私を信じてください。森に精通したメリッサさんたちが相手だとしても、引き受けた限りは負けないよう全力で頑張りますから」

「メリッサたちも知り合いなのか?」

「ええっと……はい。ダニエルさんが私と同郷なんですが、ギルドで宣伝をしてくださったみたいで。最近は冒険者の方が良く食事に来てくれるんです」

「なるほど……」

 メリッサたちはここの常連か。そして、ダニエルは同郷。それでダニエルはここに先回りしてたんだな。

「……あの。メリッサさんたちの知り合いじゃ、信用出来ませんか?」

「いや。レミーにガイドを任せるって言ったからな。キミを信じて指示に従うよ」

 こうして、俺達はレミーにガイドをして貰うことになったんだけど――


「俺は絶対に認めないからな!」

 レミーから話を聞いたリックくんはお冠だった。そしてこの店の店長である、彼らのお兄さんも同じように反対、レミーの説得にかかる。

「レミー、そんな危険なことは止めるんだ」

「危険なのは分かってるよ。でもね、金貨三枚だよ。こんなチャンスは二度と来ない。このチャンスを逃したら、私達はいずれ……」

「だとしても、だ。どうしてもと言うなら、俺がガイドを引き受ける」

「それは……ダメだよ」

「何故だ?」

「兄さんより、私の方がガイドとしての実力は上だから」

「そんなことはない。俺だって……」

 なおも言いつのろうとする。そんなレミー兄のセリフを、彼女は静かに遮った。

「うぅん、私の方が上だよ。それに……分かってるでしょ。兄さんが家を空けたら、この店はどうなるの? 本末転倒だよ?」

「それは……だが、しかし……」

 彼等の話し合いは難航している。平均的な農民の給料一年分とは言え、レミーの命の価値だと思ってる訳だからなぁ。無理もないだろう。

 ――という訳で、


「みんなはサラさんのことを知ってるんだよな?」

「サラお姉ちゃんですか? もちろんよく知ってますよ」

 レミーが答え、他の二人も頷く。と言うか、サラお姉ちゃん……いや、実年齢的にはなんら間違ってないんだけどさ。見た目年齢的にこう……違和感が。

 ま、まぁいいや。


「そのサラさんからの伝言がある。『リオさん達の実力は私が保証します。物凄く美味しい依頼ですから、ぜひ受けて下さい』だってさ」

「…………え? で、でも、Aランクはお金で買ったってダニエルさんが……」

「ダニエルはそう言ってるな。でも俺は誓ってそんなことをしてない。それに、Aランクだって言い出したのはサラさんなんだ」

 レミーは意味が判らないとばかりに、目をしばたたいている。そんなレミーに代わって、レミーの兄が口を開いた。


「キミ達は、サラと面識があったのか?」

「ああ。以前に少しだけ」

「以前と言うと……レジー村に暮らしていた頃か?」

「うっそだ~。俺、村で兄ちゃん達なんて見たことないぞ」

 レミーの兄にリックが続く。

「知り合ったのはその後だよ」

 悪戯っぽく言ってみるけど、レミーの兄とリックは首をかしげている。だけど、レミーがもしかしてと声を上げた。


「ミューレ学園で知り合いだったんですね?」

「まぁそんな感じかな。実は俺、あの学園の創設者なんだ」

「なるほど、それで…………………………え、創設者?」

「改めまして、俺はグランシェス家の当主、リオン・グランシェスだ。よろしくな?」

 俺がさらっと身分を明かすと、三人の目が点になった。けれど僅かな沈黙のあと、何故かレミーの顔が青ざめていく。


「あ、あの。グランシェス家の御当主様って。思いっ切り伯爵様じゃないですか!?」

「え? うん、そうだけど?」

「あわわわわわわあっ、リックっ、ああああっ謝りなさい! 今すぐ謝りなさい! じゃないと打ち首にされるわよっ!」

「いやいや、斬らないからな? と言うか、そのつもりならあの時に名乗ってるから」

 とまあ、そんな感じでレミーを宥めた。

 けど、それよりも――だ。二度あることは三度あると、俺はリックに対して身構えた。案の定、我に返ったリックは飛び掛かってくる。

 俺は慌てず騒がず、リックの突進を止めようと――突き出した手をリックに捕まれた。


「うおおおおおおっ、リオン様! 初めまして、俺、リックって言います!」

「お、おう?」

 何で今更になって自己紹介? と言うか、やっぱり貴族じゃないか、嘘つき! って感じで殴りかかられると思ったのに、この反応は予想外だ。

「握手して下さい!」

 ――と、既に俺の手を握りしめながら叫ぶリック。どうしたら良いんだと思っていたら、リックはレミーに頭を叩かれて崩れ落ちた。


「失礼なことは止めなさいって言ったでしょ! と言うか、少し落ち着きなさい。……申し訳ありません、リオン様」

 そう冷静ぶるのは、さっきまであわわっとか言っていた少女である。……まあ、慌てるリックを見て、自分は冷静になったって感じかな?

「いや、良いんだけど……と言うか、俺はそう言う面倒が嫌で身分を隠してるから、普通に接してくれた方が助かるんだけど……リックは、その……なにを興奮してるんだ?」

「実は……その、グランプ侯爵様が私達を支援して下さった時に、お前達を救えたのは、グランシェス伯爵が支援をしてくれたおかげだと仰っていたので」

 ……クレインさんってば、そんなことまで言ってるのか。何気に義理堅いよな。

 でもまぁ、事情は分かった。

「それで、リックは俺に感謝してる、と?」

「うん! 貴族は嫌いだけど、リオン様は別だよ!」

 目をキラキラさせるリックくんが可愛い。しかし残念、彼は男の子だ。


「もちろん私や兄も感謝しています。本当に、ありがとうございました」

「そっか……まぁ、どういたしまして、だ」

 あの頃は自分達の居場所を護るのに必死で、誰かを護るために支援した訳じゃなかったからな。そんな風に言われるとちょっとくすぐったい。

 ……って、待てよ。

「なあ、レミー。さっきメリッサたちは森に精通してるって言ったよな? 彼女たちも、森の集落出身とかだったりするのか?」

「ええ、そう聞いてます」

「じゃあもしかして……メリッサたちの村も、クレインさんが救ったのか?」

「……いえ、あのお二人の村は私達の村よりも酷い状況で、皆は早々に村を捨て、散り散りになったと聞いています」

「そう、か……」

 なら、レミーたちと同じパターンと言うことはなさそうだ。俺が彼女たちの恩人なら、話は早かったんだけどな。

 なんて思っていたら、レミーが金貨を俺の前に押し返してきた。


「……どういうつもりだ?」

「リオン様は私達の恩人ですから、報酬なんて受け取れません」

「悪いけど、それは既に契約して渡したモノだ。今頃になって突き返されても困る」

「ならせめて、金額を変更させて下さい。サラお姉ちゃんの保証があるのなら、危険はそれほどないと考えます。通常なら銀貨で――」

 俺はレミーの言葉を手で遮った。そんなの、言われるまでもなく理解している。

「言っただろ、既に契約したモノだって。それに契約をした時点では、命の危険がかなりあったんだ。その金額は正当なモノだ」

「貴方は……」

 俺がどうしてサラからの伝言を先に伝えなかったのか理解したのだろう。レミーは大きく目を見開いた。

「案内、よろしくな?」

「……リオン様。ありがとうございます」

 レミーは深々と頭を下げた。


「助けない――とか言ってたくせに」

「お兄ちゃんって、かっこつけだよね」

 両サイドでアリスとソフィアが呟くけどスルー。だって俺は、ちゃんとリスクに見合った報酬を支払うって約束をしただけだからな。

 そもそも、二人だって口出しせずに黙ってたんだから同類だ。

 ともあれレミーは納得してくれたようなので、俺はリックとその兄に視線を向ける。


「そう言う訳だから、レミーをガイドに借りても良いかな?」

「リオン様なら信じるよ!」

 リックが勢いよく答える。俺はリックにありがとうとお礼を言って、改めてレミーの兄に視線を向ける。

 彼はレミーと無言で視線を交わしていた。そうしてレミーと頷きあった後、再び俺へと視線を戻した。

「俺……いえ、私達は貴方に命を救われた身です。妹の力が必要だというのなら、どうか連れていって下さい」

「ありがとう。グランシェス家当主の名に懸けて、必ず無事に連れ帰ると約束するよ。……そう言う訳だからレミー、よろしくな?」

「はい。お任せ下さい、リオン様! 必ずリュクスガルベアを見つけてみせます!」

 レミーは元気よく頷いた。俺に恩返しが出来るのが嬉しいんだろう。興奮気味に叫ぶレミーの頬は少し赤らんでいた。


「……ねぇリオン? レミーを妹にするつもりなら、先にグランプ侯爵様に許可を取った方が良いと思うよ?」

 後ろでアリスがぼそっと呟く。

 ――って、違うからな? 俺はただ、ガイドを欲してるだけだからな?

 だからソフィア、「レミーさんは恩を返せるなら、なんだってするつもりだよ」とか、心のうちを暴くのは止めて差し上げろ。


 とまあ、そんな感じでガイドは無事に決定。森で数週間過ごす可能性を考慮して、準備に今日一日。出発は明日と言うことになった。

 だから俺達は一度屋敷に戻ることにしたのだけど……この時の俺はまだ、凶報を告げるクレアねぇからの手紙が屋敷に届いていることを知らなかった。

 

 

 ダニエルとサラとレミー兄弟は同じ村の出身で、メリッサとマックスは別の村の出身。それぞれ、飢饉でグランプ侯爵に切り捨てられた集落に住んでいました。

 つまりは、当時は立派な幼女だったレミーなどが住んでいた村も切り捨てられています。

 なので後の歴史家は、グランプ侯爵は無類のロリコンであったが、情に流されず最大多数の最大幸福を願う政治家でもあったと分析しています。


 ――と言う茶番はこれくらいにして、ギルドと医療知識について、ちょこっと設定を活動報告に上げておきます。大したことは書いていませんが、本編では説明を省いた部分なので気になる方はどうぞ。

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