48話・魔狼王2
魔狼王ゲルムは、ヨルン達の姿を見て、怪訝な表情を浮かべたが、オレを危険視する必要のない雑魚だと考えているからなのか、警戒したような雰囲気はない。
少なくとも、魔狼達はオレさえ倒せば終わりだと理解して襲って来ているのだから。
通常のウルフも加わり、多勢に無勢の形になるが、スピードでヨルンを超える魔物はいなかった。その為、ブレードを回避できる存在はこの場にはいない。
次々に舞い上がる血飛沫と倒れていくウルフ達、オレに近づく魔狼の群れにもエイルとスルトが間に入り、スルトの鉄壁の盾が攻撃を防ぎ、エイルのブレードが魔狼を確実に始末していく。
三体に任せてばかりも居られないので、オレ自身も鋼糸を紡ぎ、ワイヤーと同時に両手から撃ち放つ。
鋭い鋼鉄のワイヤーが魔弾のように撃ち放たれると数体の魔狼の頭部を貫き、その加速速度で貫通した頭部が砕き散っていく。
やば、なんかグロいな……人に使うのはやめとかないとな……
だけど、これはかなり使えるな、ならもう一つ試すかな。
今までは、ワイヤーを手に繋いいだまま、鞭のように操っていたが、糸使いの手袋を手に入れた今、好きな時にワイヤーを出し入れできる。
更に魔玉の異能でワイヤーは好きに操作ができる為、オレは二つの能力を合わせる事にした。
人差し指を此方に向かってくる魔狼へと向ける。
「ばん!」っと口にした瞬間、人差し指から、短くした状態の返しが付いたワイヤーを高速回転させて、弾丸のように発射する。
サイズで言えば、ワインのコルク栓くらいのサイズだろうか、小さすぎる気もするが、先ずは実験みたいな物だから、実戦で使えるのはありがたいと思う事にした。
撃ち出されたワイヤー弾が魔狼の額に命中した瞬間、回転してその頭部をエグりながら、貫通していく。
恐ろしい威力だった。むしろ回転を加えた結果、かなり威力が増したんじゃないかと思う。
次は回転を加えずに発射する。
魔狼の頭部に命中するが、貫通までには至らなかった。中途半端な威力に死にきれないでいる魔狼の姿がそこにあり、回転は必要だと気付かされる。
そこからは、回転の威力を調整しながら、次々に魔狼を撃ち抜いていく。
魔狼とウルフが倒れ、血溜まりが広がると血液から鉄分が集まり、それを糸のように連結させて減ったワイヤー分を回収する。
当然、撃ち出したワイヤーも回収していく。
その光景に苛立ちを我慢出来なくなったのか、魔狼王ゲルムが初めてその場で身を起こし、口角をつり上げる、怒りに震える唸り声と牙、オレを睨みつけるその瞳は殺意に満ち溢れ、弱者を見るそれではなくなっていた。
「キサマ! よくも……よくも……ワタシを謀ったな……ユルサヌ……ユルサヌゾ……下等ナル人間ノ分際デェェエエッ!」
魔狼王ゲルムが動き出した瞬間、空気が変わった、言葉的な意味じゃない、事実的に空気の温度が変わったんだ。
まるで極寒の中にいるような、冷たさ、呼吸が急に上手く出来なくなるような感覚、その場の温度が一瞬で下がった事は直ぐに理解出来た。
「ワタシをこれだけ怒らせた存在などそうは居らんッ! 命一つで償えると思うなよ人間!」
オレが必死に理解しようとしているのに、アイツはなんにも変わらないみたいに迫ってくる。
「スルト! 頼む……」
向かってくる魔狼王ゲルムにスルトが盾を前に構えるとその鋭い爪に大盾がぶつかり、鈍器がぶつかり合うような打撃音が鳴り響く。
スルトが防戦一方になるも力強く振り下ろされる爪と巨体から放たれる体当たりがスルトを推していく。
背後から襲い掛かったヨルンを尻尾で薙ぎ払い、攻防において、どちらも抜きん出ている事を無理矢理に分からされていく。
「この程度か、この程度で、我らに逆ろあいたか、愚かな人間がァッ!」
怒りに任せた一撃にスルトが押され、連続攻撃に盾が次第に削れていくのが目に見えて分かる。
「守るだけじゃだめなんだ! スルトッ! 悪い、一瞬でいい、前に奴を押し返してくれ! ヨルン、一度戻ってくれ、エイルはスルトの回復を頼む!」
スルトとエイルが二体がかりで魔狼王ゲルムの攻撃をギリギリで防ぎながら、前に押し返す為に奮闘する。
オレの指示で戻らされたヨルンを即座にゴーレムマスターの収納リングないで、別の形状に変化させる。
ゴーレムマスターの収納リングには、ゴーレムの形を記憶して量産する事もできる為、本来のヨルンの姿と別の形状もこの数日で記憶させている。
オレが考えたヨルンの形状は槍だ、巨大で禍々しい槍、鋭く強固なすべてを貫き止まる事のない最強の槍をイメージして記憶してある。
そして、その僅かな瞬間が訪れる。
振り上げられた爪をスルトが片腕を対価に、体当たりをして一瞬だが、魔狼王ゲルムを押し返したのだ。
直ぐに前方へと向き直る魔狼王ゲルムは、片手を失ったスルトに視線を向ける。
その視線にオレは入って居ないのがわかる。
「ばん……」、ただ小さく、息を吐くように口にした言葉、その瞬間、細く強固な槍となったヨルンがオレのリングから姿を現し、指さした方向に撃ち放たれる。
オレの行動に気を取られた魔狼王ゲルムが距離を取ろうとした瞬間、エイルがスルトの腕を復活させる。
スルトは復活した両腕で魔狼王ゲルムの腕を掴み、身動きを封じる。
「離せ! デク人形の分際で、離せ! 離せ!」
頭部を砕く勢いで腕を振り下ろすが、スルトは決してその手を離す事は無い。
そして、次の瞬間、槍となったヨルンが魔狼王ゲルムの胸部を貫いた。
「ぐあぁァッ……バカな、ワタシの……クハッ……体が貫か……れた?」
超高速回転を加えた槍の一撃、更にヨルンには黒い短剣が素材として使われている。
過去に黒い短剣で切れなかった者はなかった。その能力を引き継いだヨルンが槍となっているのだから、その破壊力は凄まじいに決まってる。
「こんな、こんな、事が……下等なる人間が……我らの餌でしかない……人間の……ぶ、ん、ざい……が……」
力尽きたのか、その場に魔狼王ゲルムのその巨体が倒れ込む。
それと同時に複数の人影がオレに向かって走ってくる音が聞こえた。
多分、アバス達が騒ぎを聞いて来てくれたのかな……
振り向いた先には、アバス達、ではなかった……武器を手にした冒険者だった。
「誰だ?」
オレはボロボロながらに、そう問い掛けていた。
「私はアルン、商業の街の冒険者ギルド所属の【B】ランク冒険者パーティー【魔導の剣】のリーダーだ。失礼だが、君は?」
アルンと名乗った顔が整った男、鎧も剣もかなりいい物に見える。体格もよい為、かなりの手練なのだろう、パーティーで【B】と言っているのだから、本人は【B】ランクかそれ以上の可能性もあるんだろうな。
「オレはカシーム。【亜人の団】のパーティーリーダーだよ」
「そうですか、カシームさん、私達はギルド依頼でこの【獣の森】を調査にきたんだが……どうやら、私達だけだったら、全滅していたかもしれないな……」
アルンの視線の先に倒れる魔狼王ゲルムの姿にパーティーメンバー全員の表情が恐ろしく怖ばっていた。
そして、オレの側に集まる三体のゴーレム達にも警戒してるのがわかる。
「それで、カシームさん、その……側にいる魔物達は……」
「オレの大切な仲間だよ」
「仲間ですか、分かりました……それに、もし戦闘になっても、勝てる気がしませんからね」
何ともぎこちない会話にオレも困ってしまっていたが、そこにアバス達が慌てた様子で駆けてくる。
「カシームッ! ハアァァッ!」
「ボクのご主人様に何してんだよッ!」
「チッ、やらかしたわ、マスターッ!」
「若様、申し訳ございません!」
「兄貴ッ! 来たっすよ!」
ゴーレム三体を呼び出し、ボロボロのオレを見たからだろうか、アバスが大鉈を両手に握り締めて飛び掛かってくる。
それと同時に全員が得物を手に飛び掛かる。
「待ったぁぁぁぁぁぁ! ストーーーップ!」
間一髪だった、本当に間一髪だった。
アバス達の刃が、アルン達のパーティーを襲うギリギリで、オレの声に反応して咄嗟に攻撃を止めた。
「……ひっ」っと、アルン達【B】ランクパーティー【魔導の剣】のメンバーがその場で膝をついて倒れ込む。
「か、彼らも君の仲間なんだよね、カシームさん」
両手を前に出して、此方に視線を向けるアルンさんの姿は何となく、情けなく見えた。
一旦、その場を落ち着かせた後に、アルンさんから言われたのは「Aランクの魔物を相手するような威圧感と殺気を感じて焦った」というものだった。
「君のパーティーは、本当に凄いな……正直、私達のBランクなんかより、強いのがわかるくらいには凄いパーティーだな」
「それより、なんでアルンさん達は此処にきたのさ?」
「ああ、私達は本来来るはずじゃなかったんだがな……」
アルンさんの説明では、本来は【赤の世紀末】の三人が調査に来るはずだったのだが、ギルドに二人の子供が走ってきて、森でウルフの群れに襲われた事と、一人の冒険者に助けられたと話したらしい。
多分、オレの事だろうな?
それを聞いたギルマスのモルバさんが、急遽、ギルド内にいた高ランクの【魔導の剣】に緊急クエストとして、調査と討伐依頼を出したそうだ。
あのギルマスが……やっぱりギルマスらしいところもあるんだなと、少し感心した。
「まぁ、私達程度じゃ、返り討ちにあって食われてたかもしれないがな……魔狼の群れくらいなら、何とかなるが、魔狼王がいるなんてな……」
「あ、そうだ? 魔狼王が、喋れるなんて知らなかったからオレもびっくりしたしな」
「え?」「は?」っと、そんな声がオレに向けられる。
「魔物が喋った! 本当ですか……それは、すみませんカシームさん、私達は直ぐに報告に戻らせて貰います。後程、ギルドでお会いしましょう。待ってますよ!」
そう言うとアルンとパーティーメンバーさん達が慌ててその場を後にした。
なんか、厄介事になった気がするなぁ……




