24話・アバスの装備を買おう
次の日になり、アバスに人化の巻物を使用した事をトトに伝えた。
「へぇ〜アバス女やったんか、性別無視の種類かと思ってたから、やっぱりなってかんじやけどなぁ」
当然と言えば、当然だが、トト自身も出会った頃は手鏡の姿をしていた。人化の術が使えるからこそ、このような人の姿をしているに過ぎないのだ。
「トトは分かってたんだね」
「当たり前やんか」
「オレは姿を見るまで女性だと思ってなかったからさ」
「主が雄ならウチらは雌になるんがあたり前やんかって、普通は知らんよな、うんうん」
賑やかな朝を迎えてから、食堂で朝食を済ませるとアバスの服や簡単な装備品を見る為に鉱山都市の街にある商店へと向かっていく。
因みに、アバスには服を買うまでは今まで通りに鎧姿で移動してもらう事になった。
とりあえず向かう店は魔導具屋“サンムーン”だ。
アバス曰く、女主人のキチチルトン・ミリトンに言えば何とかなるらしい……
軽く会話をしつつ、以前と同じように外見からは客商売とは思えない魔導具屋“サンムーン”へと辿り着いた。
店の扉を開き、変わらぬ鈴の音が鳴るとキチチルトンがカウンターに座り、ラムコーンのレイナとクッキーを食べていた。
こちらに気づき、キチチルトンが紅茶を軽く飲むとオレ達に視線を向けた。
「またこんな時間に客か、カム君、君達は暇なわけ?」
余り機嫌が良くないのか、口調が辛口だが、嫌がっている感じはしない。
「キチは、“もぐもぐ” まったく “もぐもぐ” イライラだな!」
ラムコーンのレイナがクッキーを食べながら喋ってから小さなカップに入った紅茶を飲んでいる。
とりあえず、挨拶を済ませると、二人が食べ終わるまで軽く店内を見て回る事にした。
アバスに必要な物がどれかを見てもらい、品定めをして貰った。
トトも色々と見ているが、今のところパッとした物が無いようだ。
「欲しいものは決まったの?」
片付けを終わらせたキチチルトンが質問してきたので、本題に入らせて貰うことにした。
説明はアバスが行うことになるとキチチルトンがアバスの鎧の中を確認する。
「カ、カ、カムくん! ダメでしょ!」と、いきなり怒られた……
理由は明らかだが、かなりの大声に正直、びっくりした。
「アンタね! 服なんか、そこら辺で買えるでしょ! わかる! 鎧があるから、服は着てませんはダメ!」
当たり前の事を正座で説教される事……30分、やっと開放された。
とりあえず、落ち着いたのを確認したアバスがマジックバックから取り出した “迷宮酒” をカウンターに置く。
「悪かったな、我が服は“サンムーン”でと言った為に迷惑をかけた」
「はぁ、かまわないし……寧ろ、本当に迷宮酒があるとか、有り得ないんだけど」
呆れたようにそう口にすると、すぐにキチチルトンは迷宮酒に視線を向ける。
視線を向けた途端、キチチルトンの目が軽く光ると一呼吸入れてから口を開く。
「間違いないね、上位鑑定眼でも間違いなく、上級迷宮酒だわ、何処で手に入れたのよ、こんなもん?」
「企業秘密だ、それよりもオークションに出品する為の鑑定書を頼みたい」
「いやいや、こんなん、鉱山都市のオークションになんか出せないわよ、オークションに出しても誰も買えないから」
完全に困った顔を浮かべるキチチルトンにアバスは不思議そうに首を傾げる。
「買い手は引き手あまただと思うが?」
「買い手はいるわよ、ただ、ただね! 普通に買えるような奴がこの鉱山都市に居ないって話しよ!」
キチチルトンの説明では、普通の迷宮酒なら問題なく、ぼちぼちの貴族や領主様なら買えるだろうが、オレ達が持ち込んだのは上級の迷宮酒であり、ダンジョンでドロップする条件も分かっていないレア中の超レアドロップ品だそうだ。
普通に考えて、オークションに出してもその場で支払いが難しく、悪目立ちして敵を作る可能性があると教えてくれた。
「そこでなんだけど、幾らで出したいの?」
キチチルトンの質問にアバスが軽く悩むと指を一本立てる。
「白金貨10枚だ」
「馬鹿じゃないの! そんなん買えるかぁぁぁぁ!」
いきなりキレだしたキチチルトンにレイナが軽く頭をポンポンと叩く。
「落ち着けよ? キチは幾らで買いたいの?」
「うぅーん、私が出せるのは白金貨2枚ってところよ」
因みに、白金貨は1枚で金貨10000枚と同等になるらしい……らしいとは、オレなんかが見た事のない物だから仕方ない。金貨1枚が1万シルバと考えれば、1億シルバって、頭が痛くなる……ゼロが何個だよ!
そこから、アバスとキチチルトンの交渉が開始されると思ったが、トトが間にはいり、キチチルトンとトトが交渉する事になる。
激しい交渉をしている二人の横でオレとアバスはレイナからクッキーを手渡されそれを食べている。
因みに結構大きいクッキーなんだが、小さなラムコーンのレイナはそれを次々に食べている。何処にはいってるんだろう?
そんな事を考えていると、交渉が終わったのか、トトが腕を上げ喜び、キチチルトンは悔しそうに舌打ちをした。
「よしゃ! 決まったで、白金貨6枚と店の好きなもんゲットや!」
結局、こちらの提示した金額分を店内の商品で賄うという事で決着がついたようだ。
そこからアバスの装備を何点か選んで貰う。
・魔鉄糸の洋服──魔蜘蛛の鋼鉄の糸で編まれた服、自動復元のスクロールが使用されている。
・記憶のリング──衣服の情報を記憶してリング内部に服限定で収納可能。
・魔喰いの眼帯──魔物を倒した際に魔物の残留魔力を吸収し自身の魔力に変換できる。
・獣人の指輪──獣人族の魂が封じ込められた指輪、召喚具であり、一体の獣人を眷属として召喚できる。
三つのアイテムは魔鉄糸の服と記憶のリング、帰還石10個がついて白金貨1枚。
魔喰いの眼帯が白金貨2枚。
獣人の指輪とトト用のマジックバックで白金貨1枚という形になった。
思ったより手に入ったアイテムは少ないが、アバスに気に入った装備を渡せた事とトトのマジックバックが手に入った事実は大きい。
「しかし、そんな大金よくあるよな?」
オレは思ったままを口にした。
「私達、魔導具屋は、ある程度の大金は持ってるものなのよ。だから、守護獣が必ずいるし、それなりの商品も扱うのよ。鉱山都市みたいな街にいるのも、王都より安全だからよ」
そう言うとキチチルトンはレイナを頭から膝の上に乗せて頭を撫でる。
「あと、カム君達には、鉱山都市のオークションに入れるように連絡しておいてあげるから、明日にでも行ってみなさい。明日がオークション最終日だし、いい経験になると思うからさ」
話が終わり、オレ達は魔導具屋“サンムーン”を後にした。
キチチルトンとレイナは数日、鉱山都市を離れて、王都へ向かうそうだ。
鉱山都市で出せなかった上級迷宮酒を王都のオークションに出す為らしい。
今、アバスは鎧をマジックバックに収納し、白い服に黒いズボン、そのどちらにも赤い模様が刻まれた動きやすそうな格好をしている。
白い服は袖がなく、腕が顕になっているので剣を振る際に動きやすいのが気に入っているみたいだ。
どちらも記憶のリングで登録してある為、アバスの手には記憶のリングや力の腕輪といった装飾品が装備されており、美しい見た目もあって女性らしさが際立ってみえる。
そんなアバスの片目には禍々しい黒い渦を描いたような柄の眼帯がされているのもミステリアスな雰囲気があり、それが魅力にすら感じる。
トトに関しても、自分のマジックバックが早くも手に入った事で鼻歌を歌いながら上機嫌だ。
道中で見つけた酒屋で店の酒を全て買おうとして、流石に止めたが、それくらい浮かれているのだ。
まぁ、全部を諦めたトトは金貨6枚分、酒樽で三つ分を購入して、マジックバックにしまっていた。
他にもキチチルトンに言われた通り、必要な服を見る為に服屋に向かう、アバスが選ぶ物はやはり戦闘を意識した男性物の服ばかりであり、動きやすさや伸縮性などをメインに探していた。
戦闘用の服はキチチルトンの店で買った服となり、普段使いの服はYシャツに黒の革チョッキ、ズボンはトトと同じダボッとした物になった。
買い物をしながらの道中、明日はオークションに向かう事を考えて、宿屋にもう一泊する事に決める。
再度、宿屋に行くと、鎧を着ていないアバスの姿に宿屋の主人が軽く驚いていたが、問題なく宿代を先払いして部屋へと向かう。
室内に入るとすぐ、アバスが新しい服を記憶のリングに登録して、服を一瞬で入れ替えて着心地などを確かめているのがわかる。
なんか、そう言うところを見ると女性だな、なんて考えてしまう。




