11話・うさぎの洞穴2
突進してきたウサギ達にアバスは大剣をマジックバックから取り出すと、一歩踏み込むようにして、豪快にウサギ達へと大剣が振り抜かれる。
ウサギ達が軽々と吹き飛び、更に飛び掛かるウサギに対してオレも前に出て短剣をウサギ達に向けて切りつけていく。
アバスが短剣の使い方を教えた際、魔玉【鋼鉄】の力を合わせる方法を教えてくれていた。
短剣に魔玉の力を重ね、切っ先には禍々しい黒に赤い模様が確りと刻まれ、切ったウサギの体内から鉄分を刃に吸い上げている。ただ、この時のオレはその事実を理解していない。ただ、強くなったんだと喜びに震えていたからだ。
十数分の戦闘が終わるとオレ達はウサギが出てきた洞穴へと進んでいく。
洞穴は奥に続いていて、階段の時にあった横穴のようなものはなく、ただ真っ直ぐに続く道を歩いていく。
突き当たりまで歩くと土壁を掘って作った巣があり、その中央には、3メートルはあろう巨大なウサギが入口に立つオレ達に視線を向けている。
目は赤く血走り、こちらに対して威嚇するように「フゥッ! フゥッ!」と息を荒らげている。
「これがラビットクイーンだな」
「デカくないか──なんか、怒ってるし」
「だろうな、奴からしたら、仲間殺しの憎き敵、だろうからな……」
会話をする最中、ラビットクイーンが突然走り出し、地面を爪で弾くように加速し、開かれた口はウサギでは有り得ないほど、大きく開かれ鋭い前歯がギラつく、まるで狼のようにすら感じさせる威圧感は身を震わせるのに十分な迫力があった。
「来るぞッ! カシーム構えろ!」
「はいよッ!」
ギリギリまで接近したラビットクイーンの突進にアバスがマジックバックから巨大な盾を取り出し、受け止める。
直ぐにラビットクイーンは、腕が力いっぱいに振り上げると、全力で振り下ろされる。
ガキッンッ!っと、激しい金属音がぶつかり合うように激しい音が室内にこだまする。
怒りに任せた激しい攻撃は次第にアバスを押し始めている。
直ぐにラビットクイーンの背後に回るとオレは短剣を脇腹に突き立てる。
アバスに気を取られていた為か、短剣はスっと脇腹に吸い込まれるように突き刺さり、ラビットクイーンは慌てて爪をオレに向けようとする。
「ピギャァァァァァッ!」
「やらせんよ!」
振り向こうと体勢を変えたラビットクイーンの手をアバスが全力で掴む。
痛みと動きを封じられたからだろうか、激しく体を上下、左右に動かそうとするがガッツリとアバスが腕を掴み、ボキッ!っと鈍い音がなり、骨が折れたのであろう、ラビットクイーンの片腕がダラりと力無く地面につく、それと同時にオレの短剣は傷口から体内の鉄分を吸収していく。
次第に刃に集まった鉄分が刃先のように鋭くなり、最大になった瞬間に、一気に腹部へと刃を走らせた。
「ピギャーーーー!」と奇声をあげて、その場に倒れ込む。
土煙があがり、視界が微かに霞む。
初めて倒した巨大な魔物にオレは手を震わせた。
灰色山羊やブラックスパイダーなんて目じゃないサイズの大物をオレは何とか倒したのだ。
直ぐに解体したかったが水場もない事を考えてだろう、アバスが「解体は川でやろう、今はマジックバックに入れよう」とラビットクイーンの死体を収納する。
来た通路を戻り、最初の広場にたどり着く、そこには最初にみた壊れた祠があり、何処か儚く悲しげにみえた。
「なぁアバス、ちょっとアレ見てきていいか?」
「構わないが、なにか気になるのか?」
首を軽く傾げるようにするアバス。
なんで気になるかと聞かれても説明出来ないが、なんとなく目が離せないと思ってしまう。
まるで弱々しい光を暗い部屋に見つけた時のような感じと言っても、わからないかもしれないが、本当にそんな感じなんだ。
祠に被さった瓦礫をどかし、ゆっくりと本来あったはずの壊れた祠の扉に手を伸ばす。
(──助けてぇ、一人はつらいんよ──ややねん──暗いのも一人もいややねん……)
扉に触れた瞬間、聞こえた幼い少女のような声に周囲を見渡す。
「どうしたのだ、カシーム?」
そのセリフからアバスには聞こえていない事がわかり、今聞こえた声の事を話すとアバスは祠を凝視した。
「──精霊かもしれん」
「え? 精霊ってアバスみたいな?」
「もし、声が聞こえたなら、それは精霊の可能性があると、言うだけの話だが、本当に聞こえたのか?」
アバスはゆっくりと祠に近づいてくると、再度、オレを見てから祠に手を伸ばす。
バチッ!っと、アバスの伸ばした手が弾かれる。
「だ、大丈夫かアバス!」
「大丈夫だ、この祠には間違いなく精霊が封じられてるがな、今ので理解できた」
アバスは祠の内と外に精霊封じの結界が張られており、その為、アバスの伸ばした手が弾かれたのだ。
「頼む、助けてやってくれないか……」
「わかってるよ。アバスの仲間だもんな」
祠を完全に開き、中に置かれた小さな手鏡を手に取り、祠の外に引っ張り出す。
引っ張り出した瞬間、手鏡が眩く輝きだし、次第に光が人の形を成して、その場に顕現した。
短めのサラサラの白銀、整った綺麗な顔と薄紫の瞳、細身の褐色な肌、出るとこが出ている為、目のやり場に困るタイプに思う。
身長はオレより高い、むしろアバスより少し低いくらいで長身美女と言える。
服装はダボッとした感じの足周りがふわりとしたズボンに踊り子のようなヘソ出しの服を身に纏い、金の装飾品、腕輪、ピアス、首飾りを身につけている。
「ありがとうな、アンタさん。本当に感謝だよ、ホンマにずっと一人で気が狂いそうやってん」
「おう、てか、とりあえず離れてくれ」
真っ赤になっているオレに抱きついていた手を離しその場に立ち上がると、オレに手を伸ばして起き上がらせてくれた。
「いきなり悪ぃなぁ、久々の解放にうれしゅうてな。堪忍な、あ、ウチはマトナットって言うねん。よろしくなぁ!」
「オレはカシーム、それと相棒のアバスだよ」
「うむ、よろしくだな、マトナット嬢」
二人が軽く挨拶すると直ぐに、マトナットがアバスの周りをぐるぐると回り出した。
「アンタさん、相棒って、言うてたが? 契約してるんやな、羨ましいなぁ、ウチも昔は契約精霊で旅しててんでぇ、懐かしなぁ、アンタがいいなら契約せんか? なんてなぁ、無理は言うたらアカンな」
「え、いいのか? オレは構わないが」
その場でそう返事をした瞬間、アバスとマトナットが驚いた顔をオレに向けた。
二人がオレに驚いた顔を向けた理由は直ぐに理解出来た──
オレはアバスと同じようにマトナットと契約が結ばれていた。それと同時にアバスとマトナットから予想外の説明をされる事になる。
場所は変わって、別の巣穴を発見する事が出来た事でオレ達は三人パーティーとして、ウサギ狩りを行っている。
マトナットは契約後に「ウチの事はトトって呼んでな」と、明るく言ってくれたのでそう呼ぶ事にした。
「トト、そっちに三匹抜けたよ!」
「わかってる、いくでェッ!」
トトはダンスを踊るようにステップを踏み、討伐した角ウサギの角を二本両手に握りそれを武器としていた。
アバスは最初から大盾と大剣を装備して守りながら大剣を振っている。
パーティーが三人になった事でオレへの攻撃に対して、余裕をもって対応が可能になったからだろう。
夕暮れ迄に巣穴を二つ攻略、ラビットクイーンを二匹討伐、他の有象無象のウサギも考えれば、200体近いウサギを狩っている。
角ウサギの角も80本近くになっており、ギルドへの報告が楽しみで仕方ない。




