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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いの出会いと再会。
91/265

第5話 説得?

戦闘少なめ。

本日多め。

『属性転換』による属性変更。

それによってジークの体から漏れ出していた無属性のオーラが、闇属性の黒きオーラへ変化した。


「終いだ」

「なに?」


ジークに斬り掛かろうとした寸前で、体勢を止めたリン。訝しげな顔で薄い笑みを浮かべる、勝利を確信した彼の顔を見たからだ。


「『夜極・四層の黒き秘密箱(ブラック・ボックス)』」


Aランク魔法『黒き秘密箱』を改良した、ジーク専用の魔法を発動させた。

発動と同時にリンの周囲から闇の箱が、彼女を覆おうとするように出現してみせた。


「なにっ!?」


出現した箱────といより闇の壁に動揺の色をハッキリと露わにしてしまったリン。


「くっ、ハァッ!」


これも本能であるか、周囲から出現し出した闇の壁を危険と感じたリンは突破を試みる。

気で強化した筋力と同じく気を纏って強化した剣で闇の壁を叩き砕こうとしたが……。


「無駄だ」

「───なっ!?」


衝撃とともにリンの大剣が大きく弾かれてしまった。

その気になれば、Aクラスの防御でも破壊できるほどの力を瞬時に出せるが、……この異常事態にリンは自身の身に起きている状態にすぐさま気付いた。


「まさか、闇の精神干渉で気を!?」

「ご名答、狂わせてもらった」


濃縮された魔力の塊で頑丈であったことだけが理由ではない。


黒き箱の内側は、闇属性の特徴である精神干渉領域となっている。攻撃力は下げられているが、特性は強めにしてある為、彼女の精神を乱すと同時に気を乱すことによって威力を下げさせた。


「こ、こんなも───」


精神干渉の影響か、次第に動きが鈍くなりフラつき始めるリンを飲み込むように黒き箱が閉じようとする。


魔力耐性もそれなりも持ち合わせているが、今回相手にしているのは、魔法に関してだけは一流を超える、《大魔導を極めし者(マギステル)》の異名を持つジークであった。


闇魔法による彼女の精神縛りは、僅か数秒で完了させてみせた。


「このまま……閉じろ(・・・)

「てぃ、ティアさ、ま……!!」


なんとかこじ開けようとフラつく体を動かそうとするリンをよそに、ジークの指示によって遂に改良型の『黒き秘密箱』はリンを完全に飲み込むように閉じた。



◇◇◇



「やり過ぎです」


背後からジークに近寄ってきたティアが発した第一声がそれであった。

呆れた表情で部屋にできた真っ黒な箱を一度見て息を吐き、ジークの方を見てもう一度息をつく。信頼する護衛騎士であり仲間であるリンがやられてもっと激昂するかと、ジークは疑問に思ったが。


「相手は相性の悪い気使いだぞ? 無茶言うな。それにここでこれ以上暴れらるとこっちが困るんだよ」

「それはそうですが……。はぁ、仕方ないですね。この事態を招いたのもわたくしですし。無理を言ってすみません」


どうやらこの騒動について、少なからず責任を感じていたようだ。怒りたいが、怒るに怒れない。そんな複雑な表情で謝罪を口にするティア。


(しかし、ティアの言う通りかもしれない。やり過ぎ……いや、出来過ぎというべきか、いつもの俺ならこうも簡単にはできなかった)


戦いの振り返って彼はふとそう感じた。


大戦後、ジークは戦うのが嫌なり非常時を除いてほとんど戦うことがなくなった。時々、強敵と戦うことがあっても、それもで大戦時、修業時代に比べれば圧倒的に減っていた。


その結果、当然のようにジークは弱くなった。

知識や魔力を除いた、あらゆる技術、戦闘での感や状況判断能力など戦いおいて大事な物が彼の中で薄まっていた。


そのせいで彼は、この街に来てから何度も危険な状況へと追い込まれてきた。

大戦時の彼なら余裕で対応できる程度のことであっても、彼は動揺し隙を作ってしまい、そこをつけ込まれてきた。……学園でティアに追い込まれたのもその所為である。


だから不思議であったのだ。

ティアの護衛を務めるほどの実力を持つ、彼にとって相性の悪いリンが相手であるのに、彼は普段のような油断を見せず、動揺することなく彼女を倒した。


しかも封じ込めるという倒すよりも難しい生け捕りで。


(……《消し去る者(イレイザー)》の影響か? 俺の魔力が戦いの本能を呼び起こしたか)


あくまで憶測でしかないが、頭の中で考えついた答えにジークは少しも疑おうとは思わなかった。


異質な魔力だ。それぐらいは勝手にやってもおかしくない、と彼は苦笑気味に心の中で呟くと、ティアとの会話に意識を向けた。


「心配するな。あの『黒き秘密箱(ブラック・ボックス)』は殺傷能力を下げさせてる分、精神干渉が強くなってるんだ。……意識は飛んでると思うが、怪我はないさ」


そう言ってジークは、改良型の『黒き秘密箱』を指しながらティアを納得させる。一応こちらは気を遣ったのだと分からせたいのだ。……と呟きながら剣で貫通した床を見る。


(『透視眼(クレアボヤンス)』)


透視魔法で下の階の様子を視て確認をし出した。視たところ真下にある部屋の主は居らず、慌てて出て行ったような気配もなく、まだ帰宅してなかったようだと確認してホッと安堵の息をついたのだ。……流石にさっきの突き刺しで被害者が出たとあっては、本当に色々とマズかったので本当にいなくてホッとしていた。


「そうですか、……それならいいですが。そういえば、さっき聞こえたんですが、アレってもしかして私と試合した時に使った技法が使われてるんですか?」


確認を終えたところでこちらも少し不満そうであったが、納得顔でジークの話を聞いて頷くティアが先ほどの戦闘についてジークに質問してきた。口振りからして先ほど、そして先刻ティアと試合した際に使った技法についてであろう。


「ああ、アレか……。あれは『術式重装』て呼んでるんだが、要するに魔法を二重〜三重に重ね掛けして一つとした扱う魔法技法だ」

「か、重ね掛けって……!?」


軽い口調で説明するジークに、閉じ込められてるリンのことも忘れて、見開いた目でジークを見るティア。


使用する魔法は使い手によって威力が様々であるが、それは使い手が一度に出せる魔力量と体内魔力量が原因である。


なのでどんな使い手でも一つの魔法の出力を上げるなら追加として魔力を注ぐだけだ。それは精々五増しぐらいで倍までいくかというレベルであろう。


だがジーク自身の魔力にはそういった制限がない。放出量の限界値が未知であるジークは例外であった。だからこそティアは驚いているのだ。そんな本来はあり得ない。できる筈のない技法に。


「もしそれが本当なら凄い技です。あなたならほぼ無制限に重ね掛けができますしね」

「いや、それは違うんだよなぁ」


ジークの底なしの魔力量と放出量を知っているので恐ろしげに彼女が言うが、ジークは苦笑を浮かべて彼女の考えを否定した。


「違う?」

「俺の魔力は暴走しやすいからそもそも無制限じゃない。それによって発動させる魔法も重ね掛けには制限が掛かる。量もそうだが、元々魔力消費が高い魔法はそんなに重ね掛けができないのさ」


たとえば、ジークが使用する『零の透矢』の改良型『零極・矢』はランクこそAランクであるが、一発分の魔力消費量はCランク〜Dランクと普通の『零の透矢』と同じ程であるのだ。


それによって重ね掛けが何重にできるため、千単位から万単位まで重ね掛け可能なのだ。だが、もともとの魔力消費が少ない魔法の場合は重ね掛け際、少ないとかえって安定しにくいので、なるべく高くする必要があるのだ。


「まあ、それはいいだろう? それより、どうするんだよ。こ───」


────これ。と『黒き秘密箱』を指しながら言うとしたジークだが。背後からティア以外の別の気配に言葉を詰むんだ。




透視魔法を発動させたままのジークは、気配がする方へ視野を広げて視ようとする。本来なら念の為、全体を見回したいがティアも側にいるので範囲を気配がする場所だけに固定する。


(『透視眼(クレアボヤンス)』を発動しておいて良かった。……おかげで先制攻撃せずに済んだ)


気配がして攻撃を加えなかったのは、透視魔法で素早く確認したおかげであった。周囲に溶けこませている幻惑魔法越しに彼女の姿を確認することができたのだ。


「ティアさんそういや〜、……居たよな? もう一人」


正体に気付いたジークは呆れた顔で魔法を解くと、ティアの方へと振り向いって聞いた。


「え……あっ!?」


ティアにだけに聞こえるような声で告げるジーク。そして彼の言葉で思い出したか、驚いた顔して後ろに振り返るティア。ジーク同様、その気配に気付いたようだ。


「フウ! いるのですか!?」

「────はい、姫様」


威厳のある厳しい声音で何もない部屋の隅へ向かって叫ぶティア。


すると、その声に答えるように女性の声が部屋からする。……返事と共にブゥーと低い音がして振り視線の先にある部屋の隅で霧が晴れたような揺らめき。同時に青いローブを着た薄ピンク色の髪をした女性が現れる。


「ご命令に背いてしまい、申し訳ありません姫様。尋常ではない魔力量を感知したため、感知石を辿って来ました」


主人に向かい謝罪の姿勢を取るのは、ティアの専属護衛魔法師のフウであった。無表情な顔つきで立つ彼女だが、その視線は時折、ジークの方へ忙しなく向けられていた。


「いいえ、私も感知石については失念していましたから……。それにしても、いつからそこに?」

「俺がリンに接近したあたりか?」


いつもと違うフウの目線に焦る感情を隠すつもりで、ティアが問う。彼女はいつフウが侵入して来たか、気付けなかったのだが、本人が答える前にジークが言った。


そのジークの言葉に反応して、今度は顔ごとジークへ視線を向けたフウ。向けてくるフウの様子にティアにはどんな心境なのか見て取れており、ジークも少しであるが把握できた。


……確実に気付いているのだ。フウはジークの正体を。


「……その根拠はなんですか? 《大魔導を極めし者(マギステル)》……」

「俺の死角に潜んだ時かな? 《風炎精の翼(フレアアーラ)》」


互いに互いの二つ名を口する。間違いなく気付いているのだと確信した。


(魔力の僅かな気配や仕草か……。よく見られてたようだ、目に迷いが全然ない。誤魔化せれるレベルを超えて、完全にバレてるな)


大戦時、彼がティアの兄を通してティアと行動をすることが多くなっていた頃、専属の護衛と一緒にいたフウから魔法を通じて、尊敬な眼差しで見られることも多々あった。


……普段のジークからは想像もつかないが、この頃の彼にはそれなりの威厳と風格があった。

大戦時の僅かな休息期間に何度も弟子入りを志願されたほど。勿論頼まれる度に拒否をし続けたが。


……ただ、必死に熱願しているフウを見て、可哀想に思った主人のティアやジークの仲間達がフウに助勢して、少しくらいは教えてやれと言ってきた。トドメが彼女(・・)だったのがなにより大きいが、呆れながら大戦の合間に時々軽く教えていた。


大したことは教えたつもりはないが、フウは大満足していたように当時のジークには見えていた気がした。……無感情に見えても、熱の込もった瞳でジークを見詰めているように見えた。それだけ指導(影響)は大きかったようだ。


「しかし、誰かと間違えてないか? 俺は二つ名は《真赤》だぞ?」

「え?」


誤魔化すのがもう不可能なのが明らかな状況で、何故かこの場で関係のない、ウルキアでの二つ名を口にする。その言葉にフウ、そして聞いていたティアも何を言っているのかと疑問符を浮かべた。


「《真赤》? 何ですかそれは」

「《真赤の奇術師》。こっちの───────ジョドの姿では」

「───!」


理解できず、眉を寄せているフウに、ジークは『偽装変装(ハロウィンハロー)』を発動させる。

服装をそのままにし、赤い髪と赤い瞳をした《真赤の奇術師》、冒険者ジョドの姿へと変えてみせた。


「そ、その姿……」

「そんなに驚くことか? お前の主人であるティアも変装系の魔法を持ってるだろう?」


姿を変化させたジークに僅かに目を見開くフウを大袈裟だと言って肩をすくめる。


しかし、そうして変化した彼を見ても、何が狙いが分からず、困惑したまま立ち尽くしてしいた。


「───! フウ、彼はシルバーではありません」

「へ?」


二人の様子を外から窺っていたティアだけは、姿を変えてフウと対面した彼の意図が読むことができた。一瞬だけニヤリと笑みを浮かべる。彼に助力するため自分も会話に交ざる。……何が理由でそんなにもフウが驚いたか、共感しながら。


「で、ですが、私にはシルバー・アイズ様にしか……」

「彼の名はジーク・スカルス。ウルキア学園の学生ですよ(・・・・・・)


彼の名を伝え、シルバーでなく学生だと強調しながら教える。彼にだけ見るように片目をウインクして任せなさいとアイコンタクトしフウに向き合う。


フウの方は、目の前の男性どころか主人までおかしなこと言い出した、と困惑の色を濃くした顔で察しながら、主人に倣って向かい合うと積もる疑問を口にする。


「あの……姫様? この方はシルバー様じゃないんですか? ここに来る前から肌に感じるこの感覚は……大戦の際、肌に感じたシルバー様の魔力に酷似しています」

「……」


(分かるのか? 凄い魔力感覚だ)


フウの言葉にジークはバレない程度に息を呑む。予想はしていたおかげでそれ程顔には出ていなかったが、まさか自分の感知困難な魔力を肌の感触だけで覚えていた。流石の彼もフウの記憶力に少なからず驚いていた。


(だが、ここで認めるわけにはいかない。認めたら最悪この街から姿を消さないといけなくなる)


フウにその気があるかどうか知らないが、どのみちフウをどうにかしないければ、今度はリンにバレる可能性がある。お役所的な性格のリンであれば、間違いなく王宮に伝えるであろう。


そうなれば近いうち必ず、王都から貴族直轄の役人や騎士団など厄介な連中がジークを王都に連れ帰るため、やって来る筈だ。


理由は色々とある。聖国のSSランク冒険者としての立場、大戦で聖国を勝利に導いたり英雄、……あと国宝級の大剣(・・・・・・)を借りたまま持ち逃げした。……云々などなど。


(剣に関しては絶対言い逃れできないなぁ。ラインから貰った物だから陛下は許してくれてると思うけど、アレって一応国宝剣だし……。やばいよなぁ、やっぱり)


しかし、幸運なことに厄介なリンは今、音と視界を封じた状態で閉じ込めてある。今のうちにフウだけを黙らせれば、事は最小限で済むのだ。


ティアはそんな彼の意図に気付いている。だからフウを口止めさせようと協力してくれている。


「そうですか、似てるんですか。ですがフウ、彼は違います」

「───! ……姫様、その根拠とは?」

「……」

「……姫様?」


違う理由を聞いてくるフウにティアは黙り込み、一瞬だけジークにアイコンタクトをする。


「────(ぱちぱち!)」


──────今が好機、逃してはいけない。と


「……! (コクコクッ!)」


そんなティアのメッセージをジークはしっかりと受け取り、力強く頷き参戦した。


「フウ」

「姫様?」

「フウ」

「───!?」


突如、主人から両肩を掴まれるが、僅かに動揺程度で冷静なものであったフウだが、ティアに便乗するように近寄ってきたジークの存在であっさり決壊してしまった。


「フウ」

「っ!?!? シ、シ、シ、シルバー様っ!?」


忍び寄ってきたジークに目を見開いて驚くフウ。普段は表情をあまり顔に出さない彼女だが、この街に来てから激しく変化してばかりである。

僅かに見開いたり、少し動揺する程度でもあるが、それでも普段の彼女の無情な顔を知るジークとティアには、それがとても新鮮に見えてしょうがなく……ふつふつと何か込み上げてくるのを感じていたが、その感情に任せるのは危険だと直感で察知したので、二人とも慌てて引き返した。


(いかんいかんっ! つい、弄りたくなってしまった!)

(これが愛でしょうかっ! いけない扉を開けてしまいそうです!)


少しばかり考えがよそに向きそうになるも、二人は懐で捉えているフウに─────渾身の笑みで微笑みかける。


「違うんですよフウ」

「そうだぞ。違うんだぞ」

「え!? あ、あのぉぉ……」


ティアとジークのコンビによる満面のスマイル攻撃がフウを襲った。……もの凄い威圧感があるが。


ジークもティアもそうだが、別に言葉巧みにフウを誤魔化せれるとは最初から思っていなかった。

シルバー時代に感じた魔力と彼の魔力が似ていると言われた時点で、本気で誤魔化すのは不可だと判断した。

だから協力してくれるティアと一緒になって、フウに言い聞かせ─────丸め込むことに決めた。


……そういうことだから黙っていろ。と伝わせるため。


「フフフ……」

「あはは……」

「は、ははは…………わ、わかりました」


フウの目の前で二人による謎の圧力がのし掛かった。

ジークとティアは、小動物であるフウを手懐けることに成功した。


その後、閉じ込めていたリンを出し、放心状態で意識が定まってない彼女を連れて、ティア達は寮を出て去っていた。


ちなみにその最中、ティアの側でプルプル震えている小動物がいたような気がしたが、ジークは気にせず見送った。


「はぁ、ホント……疲れた」


そこで、ようやく一番の問題が帰ってくれた。


最後あたりが強引なのはお許しください(汗)

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