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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いは巻き込まれる。
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第9話 再度訪問と裏切りと無感情。

遅くなりました。

修正。

「ハァーなんか気が重い」


ジル・ガルダとの対話後、なんとか寮に戻ったジークであったが、その心境は大変ブルーな状態であった。


(ブルーどころか真っ黒な気分だけど。風紀委員会とか勘弁してほしい)


色々と思うところがあるが、残念なくらい落ち込んでる暇が彼にはなかった。

多少気が重いままであるが、予選会に向けて対策を練ろうと思考を切り替えることにした。


「だけどなぁ。対策練ろうにも結局は勝たないといけないからなぁ」


対策といっても考えることと言えば、予選会、さらに大会での戦闘方法。要するに自分のスタイルを決めることぐらいしかない。


(スタイルか……マジでどうしょう?)


目的のために予選会というか魔導杯に出場を決めたが、正直ガーデニアンと対話した際、結構あと先考えてなかった節があった。今さらになって後悔してきた。


「最悪実力がある程度バレるのはいい。もうすでに手遅れな感じだし。……だがオリジナルに関してだけはなるべく見せたくない。ていうか見せれない。絶対」


今さら実力云々がある程度明るみになっても構わないと考えている。

オリジナルについてもたまに学園内で使用した際に、少人数ではあるが目撃された記憶もあるので、ヤバイのだけ使わなければ問題ないと考えている。……出来れば使いたくない。


(問題は基本戦闘スタイルだ。シルバー時代のは使えないから、新しいのを考えないと……)


今回は大会出場者を決める予選会。大勢の人の視線が密集している場所で魔法を使用する。


(使えるかなって思ったけど……やっぱり無茶か)


その時点で攻撃系のオリジナルの使用は諦めていた。

幾ら大抵のことに無関心、どうでもいい思考の彼でも流石に人が多過ぎる場での使用は躊躇うようだ。


(バレたら洒落にならないしな)


なのでそれ以外の選択、通常魔法による戦法を模索していたが。

───ここでさらなる問題が。


「俺の通常魔法って全然普通じゃない」


自身の魔力が原因で、発現される通常魔法はどれこれも規格外のものばかりなのだ。


「ていうか、どれも殺人級になるから下手に使うと大惨事になるぞ」


本当に笑いごとではない。

低級魔法も魔力が化け物級である彼が使用すれば、上級魔法に匹敵する規格外な物に変わってしまう。

魔力コントロールが大きな原因であるが、彼としてはこれでもかなり注意しているつもりなのである。


(あ、ヤバい。よくよく考えたら他よりも俺が一番問題じゃねぇ? 存在自体が破壊者じゃん)


もし神隠し越しではなく、自身の手で上級魔法で発動してしまったらと思うと……寒ざむと背筋を震わしてしまうジーク。


(い、いや、まず落ち着け。相手は学生なんだ。本気を出す必要なんてないんだし……ただ、どのくらいの力量で戦えばいいんだ?)


勿論、最低ラインの魔力だけを利用して戦うという手もあるのだが、果たしてそれで戦えていけるかと疑問を覚えてしまう。

目的達成に近づけるためには上手く勝たねばならいが、戦うであろう相手はジークでも知っている二つ名持ちの者達である。


(二つ名持ちはどいつもこいつも一筋縄にはいかない。学生でも手こずるかも)


加減をミスれば負ける可能性もある。

慎重に対策を模索していきたいが、なかなか良いアイデアが思い付かない。


「けどオリジナル以外となると、もうアレしか『ピンポーン』……ん?」


そんな悩むジークの耳に。

本日二回目となる呼び鈴が鳴った。



◇◇◇



「ちょっと意外。今度はぜったい門前払いされると思ってた」

「え、あ、あ〜〜追い払ってもよかったけど……まあアレだ。改めて伺いに来るって今朝言ってたし、ね?」


意外そうな目で見る訪問者のリナに苦笑気味に理由を口にするジーク。

部屋に配置してある椅子に座るリナと向かい合ってるせいか、どこか居心地が悪い気がする。


「……なんだかあとづけで言ってるように聞こえるんだけど?」

「はははは、ソンナワケナイダロウ?」

「うん、全然笑えてないね。から笑いで片言だよ先輩?」


その取って付けた言い回しにリナは胡散臭げな目でジークをジトと見る。


男子寮でありながら平然とジークの部屋にやって来たリナ。本日でまだ二回目であるが、慣れた感じで部屋に入りたい意思表明をして来た。清々しい彼女に思わず追い払うのも忘れて、自然と中に招き入れてしまった。


「もう丁寧な口調はしないのか?」

「朝のアレは単純に先輩をからかいたかっただけだから。ずっと続けたらボクも疲れるしもういいかなって……楽しかった?」

「いいや、全然」


まったく悪びれもなく口にする。首を可愛らしい傾げて、イタズラっぽくニコリと聞いてくるリナ。

ジークは困った顔で狙いが掴めない彼女の行動に困惑していた。


「正直者だな君は。あの姉と違って良い性格だよ」

「先輩は噓つきだけどね!」

「あ〜〜まったくその通りだねぇ」


リナの言葉に今度は笑顔で肯定するジーク。誤魔化しても仕方ないと思ったか、白けた顔で適当に相槌を打った。……再びリナがジト目になったのは、言うまでもない。


「正直と開き直りは違う。そんなんだから姉様に嫌われるんだ」

「アハハっ耳が痛い……!」


的確なリナの攻撃に胸を撃たれたようなリアクションを取るジーク。

……だが悪ノリもここまで。


「 それで? 話したかったことってなにかな? 朝のこと以外になにかあるんだろう?」

「……!」


口は笑みまま探るような鋭い視線でリナに問い掛けた。

雰囲気を変化をいち早く気付いたか、鋭い視線を受けたリナから微かに緊張の気配が見え始めた。


(何を知ってるか知らないが、今度は簡単にボロは出さない。こっちもいい加減、お前ら姉妹の相手に疲れたんだ。……そろそろ目的を明かしてもらうぞ)


普段より二割弱ほど真剣な状態でリナを迎える。

しかし、そんな彼の問いかけに対して、何故かリナの方から待ったが掛かった。


「その前に聞かせてほしいだけど、予選会に出ることにしたってホント?」

「ん? ああ、そうだよ」

「へぇー」


ジークの返答にどこか納得がいかないような顔をするリナ。

緊張の気配が揺らぎ、怪しげな視線で彼を見つめ出した。


「何かなその顔は?」

「あ、うん。もしかして誰かが変装したニセモノさんかと思って……先輩だよね?」

「俺も結構失礼な人間として扱われてきたけど、君も大概だよね?」


清々しいほど本音をぶつけてくるリナに、不快感通り越して感心してしまうジーク。

とても噂に聞く清純で天使のような女性とは思えない。普段どれだけ猫を被ってるのかと逆に興味すら持ち始めた。


(いや、冗談だ。少し興味なんてない。ていうか近付きたくもないから、とっとと帰ってくれ)


「まあ話って言っても、ボクがしたい質問なんてあんまりないけど」


すると本題から引き延ばした彼女が企むようないやらしい笑みをして、唐突に切り出してきた。


「そうなのか?」

「ん〜只一つか二つほど聞いてみたくなったからかな」

「なんか予想したより少ないけど、何が聞きたいんだ?」


どうせアイリスかジョドについての質問だろうなと予想を付ける。

不意打ち狙いからする質問なんて、その程度ぐらいしかないと思っていたからだ。



「ジーク先輩が以前倒したっていう指名手配中だった人物だよ」



しかし、振られた質問はジークの予想をかなり外しており……。



「Sランク犯罪者、《黒蛇》のクルドル・バイソン」



尚且つ彼女が知る筈のない(・・・・・・)内容であった。



「……」



────その瞬間、ジークは走馬灯の様に過去を思い出す。


「四年前の大戦時、聖国側で戦って終盤で裏切った(・・・・)っていうその魔法師をどうやって先輩が倒し……た…………」

「……」


彼女の口が途中で止まる。

リナが名を言ったところで部屋の気温が一気に下がった感じがした。

その感覚を自覚しながらリナは、表情を一変させたジークの顔から視線を逸らせずにいた。


「……」


──笑みが消えたと思ったら、次に顔から表情が消えた。


顔だけでない体全体から無の感情を。

纏わせて彼はリナを見る。


──まるで、そこに居るようでいない。表現するなら幽霊のような感覚だ。


(な、なんで……何が……)


リナはなにがなんだか分からずにいた。

自分はただ、気になって彼に質問してみたのだが。


(お、怒っているの? それとも……悲しいの? あ、ダメだ……全然分からない)


決して彼を怒らせる意図などなくただ純粋な問いかけだった。悪意など一切なかった。

いや、これは怒っているのか彼女には判断がつかない。人の感情に敏感だった彼女ですら、彼の隠れされていた何かを読み取ることが出来なかった。


───だが


「せ、せん───、……っ!?」


(っ!? 声が……!)


更なる異常が彼女を混乱させる。今までに感じたことのない感情が……無意識に彼女の心を縛り上げていた。


「……リナ。……お前に聞きたいことがある」

「あ……え……」


何故か声がうまく出せなくなってしまった。

特に威圧感、殺気を感じない謎の金縛りにリナは困惑していると……。


「どこでその名を訊いた?」


冷たい声が掛かる。それはまるで悪魔の囁き。


「被害にあったアイリスも……いや、彼女の父も知らないことだ。ギルドも騎士団も情報を得てない。引き取って以降、調べてもあいつに関する情報は一切入手出来なかったと聞いた」


いつもののほほんとした声音が一切ない。

彼は無感情の淡々とした声音と口調で訊ねる。


「なぜ……お前が知っている? 答えてもらおうか?」

「そ、それ……あ、あの……」

「朝の件についてはまだいい。絡んでくるのもまだ許そう」


逆らっているつもりなど彼女にはない。

ただ、声が……声だけが喋ろうとする彼女とは逆に凍り付いていた。


「しかし、こればかりは無視できない。だから答えてくれリナ。自覚はないだろうが、お前は今、超えてはいけない一線を───越えかけてるんだ」


ただ意識を向けられてるだけで萎縮してしまう。

なんとか答えようにも、声が上手く発せれなくなってしまっている。


なぜ声が上手く出ないのかと彼女は激しく焦る。


(どうしたんだボクは!? なんでちゃんと喋れない!? は、早く言わないと……)


「どうした? 何故黙っている?」


(心がっ! 潰されるっ!)


ジークからの無感情の質問に必死に口を動かそうとするリナ。

しかし、声は引き攣って言葉にならず、次第に得体のしれない恐怖からか、体から嫌な汗を流し始めた。


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