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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【中編】。
144/265

第4話 準決勝戦と魔道具の力。

「“術式解放”」


ルーシーは手をかざして、ルカに向かって無数の魔法陣を展開させる。

それぞれから光の粒子が集まっていくと、異なる形態で発動された。


「一斉攻撃です。どうしますか?」


光の槍や鎖、ナイフ、細いレーザー、杭、巨大な鎧の腕が発現されていく。

どれも魔導書に書き込まれている魔法であり。


Bランク魔法『光の閃槍(ライト・ランス)』『輝く光線(シャイン・レイ)』『輝きの縛り杭(ライト・パイル)』『光輝なる騎士の腕シャイニング・ナイトアーム』。


Cランク魔法『光の捕縛(ライト・バインド)』『光の千本刀(ライト・ナイフ)』。


魔導書によって解放された魔法の数々は、一斉にルカに叩き込まれようとする。


「はぁ……面倒な人ね。来なさい────“ヴェノム”」


しかし、対するルカからは慌てた様子もなく、溜息を吐いただけで手を振るってみせた。

彼女周囲から巨大な召喚魔法陣が出現した。


「────それはっ!」

「払いなさい」


そうして魔法陣からルカの守るように大きな黒紫の蛇が出現する。

巻き付くように動き、その尻尾ですべての攻撃をかき消すように弾き返した。


「っ……! 術式───」

「くどいわ」

「───っ!?」


脆く弾かれてしまった光景に焦りながらも、次の攻撃に写ろうとするルーシーであったが、それよりも先にルカが一瞬で魔法を発現させる。


ルーシーの足元に闇の鎖『闇の捕縛(ダーク・バインド)』によって、縛られてしまい逃げられなくなった。


そこから闇系統のオリジナル魔法『迷走へ誘う闇曜(フィンスタニース)』が発動される。

ルーシーの上空より闇の光が照らされると、一直線に彼女の元に光が投下された。


「……っオリジナル!」


攻撃魔法を中断して防御魔法を展開させよとしたが、魔導書から切り替えが間に合わず、やむなく下級障壁の『光の壁(ライト・ウォール)』で張ってみせたが、出力が弱いせいで何割か闇の光を受けてしまう。


そんなルーシーをつまらなそうに見ているルカが、吐き捨ているように口を開いた。


「ええ、確かにオリジナルよ。あなたには縁がないでしょうけど」

「……どういう意味でしょうか?」


なんとかルカの魔法から抵抗するルーシーであるが、彼女の告げた言葉に反応して反発的な目を向ける。


「その魔導書が何よりの証拠でしょう? 出来損ないが、恥ずかしくないの? そんなに魔法式を登録してある魔導書を堂々と使って?」

「……まぁ、そうですね。最初の頃は色々と陰口もありました。今も少しばかりありますし」


言われてしまうルーシーだが、とくに否定もしなかった。


魔法式が記録されている魔導書を経由して魔法を使う行為は、ハッキリ言うなら魔法素質が乏しい者の逃げ道、邪道な物である。

複雑な魔法を扱う為に補助として使うこともあるが、それでも先程までの魔法の数々は上級魔法も含まれていたが、中級魔法も含まれて明らかに武器として使われていた。


────ただ


「ですが、少し訂正してもらいたいのは、私はこの魔道具をただの魔法補助の為だけに使用している訳ではありません」


闇の光を浴びてフラつく中、どういう訳か魔導書をしまってしまうルーシー。

困った様子で早く拘束を解いて回避すべきであるが、逃げず魔力を溜めていた。


「私が魔導書を扱うのは使える魔法のタイプに限りがあるからです」

「限り……?」


次第にルーシーの魔力が高まっていくの感じ警戒するルカ。

一気に発動させている迷走へ誘う闇曜(フィンスタニース)』で沈黙させたいが、障壁に加え魔力が高まっている為に、反発されてルーシーの精神を落とし切れなかった。


そうしているとルーシーの両手から凄まじい輝きを発する魔法球が出現する。


「くらいなさい! 『光輪の砲弾(リヒト・キャノン)』っ!」


上空の浮かぶ闇の光の集合体に向けて、Aランク魔法の魔法球を飛ばすと直撃と同時に光はヒビ割れて消えてしまった。


「……」


オリジナル魔法を通常魔法で強引に破壊してみせる、その魔力の放出量にルカは、黙したまま警戒の色を強めて目を細めていた。先程一度に弾いた魔法の威力のとは、明らかに桁が違っていたからだ。


そして、上からの鬱陶(うっとう)しい干渉も消えて、スッキリとした笑顔でルーシーはルカを見据える。


「私これでも一応生徒会の長を務めていますが、恥ずかしながら火力重視の攻撃魔法しか使えないもので。だから普段は魔導書に登録している魔法を使っているんですが、出力が安定せず、なかなか思うようにいかない時もあります」


魔導書はあくまで補助でしかないので、魔法師自身が発現させるのと比べればやはり性能は落ちる。……だがしかし、その魔導書はたった今仕舞った。


ジークと似ているが、ルーシーも火力を抑える為に魔導書を使ってきたのである。

そしてルーシーをセーブさせる魔道具は今はない。


「いきますよ? 冥女」

「……いいわ。来なさい」


ルカも認識を改めることにしたようだ。

闇の精霊である蛇も飛びかかれるように構え、ルカも両手に魔力を集めて強力な闇系統の魔法の発動できるようにした。


「……」

「……」


ルーシーの手のひらから先程以上に強い光の集まり、ルカの手のひらからも闇の光が集まっている。


「って、これはヤバイよね!?」


両者共、超火力でぶつかり合うようだ。

それを理解して先程から影のように、気配を消していたミルルが急いで離れていく。


いくら何でもあの魔力のぶつかり合いに巻き

込まれたら、自分のような外野でもタダでは済まない。障壁を張りつつ距離を取っていると。


────その時はきた。


「『閃耀の爆撃フラッシュ・プロージョン』っっ!!」

「『混沌の爆撃(カオス・プロージョン)』っっ!!」


強大な眩い光と同じく強大で何処までも混沌な闇が激突し合った。










「“神隠し”────発動」

「「ッッ!?」」


────瞬間、間に割り込むように、彼がまた今度は上から狙ってきた。


「『無絶の爆撃(プロージョン)』『竜巻の爆撃トルネード・プロージョン』」

「──アレは! Aランクの魔石!?」


制服の袖によってブレスレットは隠されたままであるが、封印状態の魔法に詳しいルーシーは、一目で見破り驚きの声を漏らした。


しかし、彼はルーシーの考えのさらに上をいく。


解放された二つの魔法を重ねて、上から魔法を発現させた。


「融合────『空襲の爆撃エアレンド・プロージョン』!!」


二人の魔法に叩き込むようにして、融合で作られた魔法弾をジークは迷わず投下した。


「「……!!」」


ゆっくりと淡緑色の砲弾が落ちてくる中、二人は魔法を放っている状態の所為で身動きできず、砲弾が落ちて爆破するまで、焦りの顔を見せるが回避することができなかった。


次の瞬間、眩い光と混沌の闇が間に、緑の光が激しく煌めき、広がり辺りを一面を巨大な暴風で巻き込み穿ってみせた。


爆風が発生して対決していたルーシーとルカをあっという間に隠してしまった。



◇◇◇



「私のこと、絶対忘れてたよね?」

「いやいや、そんなことない……よ?」


騒然とする会場の中で、ミルルに詰め寄られてつい惚けるジーク。

煙立つ惨状を眺めるだけで、彼女とは視線を合わせようとしない。


「なんで目を逸らすの……かな?」

「え? ま、待──いっててててっ!? わ、悪かった、悪かったっ!! 悪かったからナイフを刺すなって!? イタイっ!?」

「なんかね。わざとかなって思っちゃうんだよね……??」

「首傾げながらツンツンしないで!? 地味に痛いから!」


ミルルからジトの目にジークはつい目を逸らしていると背中から、ツンツンとナイフで突かれてしまい慌てて謝るジーク。


ジークとしてあの二名を狙って攻撃したのだが、その際ミルルについて配慮を行なったかどうかを、問いかけられると少々答えにくいものがある。


「ま、まあ良かったじゃないか」


そっちから協力を申し込んでおいて、放置するはうっかり忘れて巻き込もうとするは、と色々と文句を言いたくなるミルルであったが、その前に確認したいことがあった。


視線を移して彼がうつ伏せで、倒れているところに目を向けジークに聞いてみる。


「もう天魔を倒したの? いくら何でも早過ぎない?」

「……倒したんじゃない。倒されてくれたんだ。アイツがな」

「え? なにそれ?」


訝しげにジークの方を向くミルルに、ジークは嘆息した様子で口を開いた。



◇◇◇



「僕を倒して早く戻るといいよ?」

「なに?」


数分前のことある。

ジークがミルルと離れて、シルベルトと対峙していた時だ。


ジークは『零の透斬(ノーマル・ブレード)』を出して、シルベルトの光と闇の二刀流剣術に応戦していたが、途中、剣を交差している状態で、シルベルトがそんなことを言い出した。


ジークは怪訝そうな顔をして意図を探るが、その前に笑顔でシルベルトから答えてきた。


「実は師匠から言われてたんだよ。準決勝か決勝でウルキアのジーク・スカルスと当たることがあったら潔くやられておけと、お前じゃ百回戦っても勝てないから。ってね?」

「……《天空界の掌握者(ファルコン)》か」


脳裏で得気な顔をしている男を映ったが、すぐにかき消した。


シルベルトがSSランクの冒険者であるギルドレットの、ただ一人の弟子であることは知れ渡っている。四年前の大戦時、孤児となったシルベルトをギルドレットが引き取り、弟子として育てたのだ。

ジークも話は聞いていた。


「ならなんで出てきた? 最初から勝負を譲るのなら棄権すればいいだろう」

「僕も最初は考えたけどね。やはり学園の看板を背負わされているから、真っ当な理由なしに棄権をするのはまず無理だよ。それにあの生徒(・・・・)のことも気になってね。師匠からは深入りするなって言われてたけど、可能なら君と一緒に間近で見てみたいと思った」


互いに懐に入って剣で攻め合う中、少しずつ力を抜いてシルベルトが楽し気な笑みを向けた。あの生徒というのはもう一人の王都の学生であろう。


「あの師匠が念を押すほどの相手だ。可能なら本気で戦ってみようかと思ったけど、昨日の雷槍くんの件もあるしね。僕のオリジナルも取られたくないから、ここでリタイアさせてもらうよ」

「……」


ジークもそれ以上は聞こうとはしなかった。

可能ならオリジナルがどんなものか確認をしたかったが、警戒されている以上、それは難しい上、あのギルドレットの弟子だ。


余計なことをしてあの男の逆鱗に触れたら、相手をするなど絶対お断りだった。


(それに恐らくこの男はハズレだ。体内魔力からアレの気配がまったくしない)


古代原初魔法(ロスト・オリジン)を所持していることで、他の古代原初魔法(ロスト・オリジン)を感じ取ることが可能である。


といっても普通の方法ではまず不可能あり、ジークは魔眼を使うことで感じ取れるようになった。勿論、ある程度近付くか対象が分かっている時であるが。


その後、ワザと隙を作ったシルベルトを専用技の一撃でダウンさせて、ジークはミルル達の元に戻った。


その際耳元で『じゃあ、死んだフリをしながら見学させてもらうよ』と苦悶に混じって聞こえたが、一切無視して地面に落とした。



◇◇◇



「まぁ、こんな感じで以上だ」

「うん、全然よく分からないんだけど。なんでそんな凄い冒険者の人にジークくんが目を付けれているの?」


まったくその通りであった。

何故SSランク(超越者)がジークを警戒しているのか、何も知らない彼女のような立場からしたら当然の疑問であった。


「あははは、気にするな」

「気にするよ! それとその作り笑いも久しぶりだね!」


ジークのなんとも無理がある対応に呆れて笑うミルル。

そうしてジト目で別の方を向いている彼を睨んでいると煙も晴れて、状況がより明確になった。


次回の更新は来週の土曜日です。

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