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オリジナルマスター   作者: ルド
魔法使いと魔導杯【前編】。
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第13話 禁じられた研究と傾き続ける歯車。

やっとここまで来たのだと、少々感動を覚えています。

と言っても、まだまだ先が長いのですが。



ジークの試合が終わろうとして、トオルの試合が行われている中、エイオン学園の拠点内でのことだった。


エイオンの学生や教師達に混じって、水晶の魔法石に映っているトオルの試合を見ていた二人の密かな会話が行われていた。


「上手く機能しているようだな」

「はい、少々人格が削れてしまっているが、問題ない範囲」


一人は真っ白な髪を後ろに流した老人。分厚い胸板と巨人のような印象のある膨れた筋肉を持つ黒い上着を着ていた。──────聖国の総ギルドマスターのリヴォルト・ビートル。


もう一人は短な紫髪の女性。感情が窺えない色のない瞳をして若くも見えるが、エイオンの学園長であり、ウルキアのリグラやジークの師シィーナの同期でもあった人物─────学園長グレリア・フルトリス。


二人はトオルと戦っている生徒を観察の目で見ながら、軽い口調で感想を述べ合っていた。


「まさか、最強の魔法使いであるシルバーの魔法をここまで模倣できるとは……。聞いた当初は半信半疑だったが、大したものではないか」

「例のゴーレム(・・・・)の魔法を利用したからできた芸当。これまでシルバーが大戦で使用した場所に留まっている魔力。そこに残っていた魔法式の残滓を採取して封印していた魔石をゴーレムと。そして彼自身のオリジナル魔法を合わせることで成功させた。……その代わり発動中は感情の欠落が出てしまうようだがな」


画面を見ながら驚いているリヴォルトに平坦な口調でグレリアが説明する。

内容を聞く限り、かなり危ない話をしているようだが、グレリアの表情には一切の迷いもなく、ただ自分が行ったことを淡々と口にするだけ。


「『吸収(ドレイン)』か、それでもまだ一部と言うのだから厄介なゴーレムだ……。少年の方も『再現模倣(コピー・リバイバル)』と言ったか? 聞いていたが、想像以上だ」

「そうでもない。シルバーが使用していた魔法式は感情の一部欠落で補えたが、魔力自体は不可能であった。取り込ませようとする度に、拒絶反応を起こしてまったく使えない奴だった」


使えない奴と口にしながら、ちょうど画面で勝利を収めていた生徒に目を向けられるが、その表情には失望の色が濃く出ていた。

完勝であるのは明らかであるのに、グレリアの言葉は冷め切っていた。


「私の理想には程遠い。アレもいつまで保つかな。髪と目も気分で変えたしな」

「オイオイあまり派手なことをするなよ? 陛下にバレて粛清を受けるのは貴様だけではないのだぞ?」

「分かっている。いつも情報操作には感謝しているよマスター・リヴォルト」


叱りつけるような声音でリヴォルトが言うと、肩をすくめて叱責を受け入れるグレリア。


ここまで語れば分かることだが、この二人は密かにシルバー・アイズの魔力と魔法について研究しては、エイオン学園の生徒や冒険者を使い、何度も実験を行ってきたのだ。


と言ってもシルバーが去ってから、ここ数年は大した成果も出せず、次々と失敗してはその者に対する情報操作をして、街の外で死んでしまったか、或いは別の街に旅立ったなどとして処理してきた。


その情報操作には聖国の代表的な一人でもある老人。総ギルドマスターのリヴォルトの力が必要不可欠であった。


リヴォルトもまたシルバーの力をどうにか利用できないのかと常々考えていたのだ。

シルバーの失踪の際、ガイに対して何度も居場所を聞き出そうとしたり、一部の貴族が彼を探し出そうとしていた時も、何度も支援してきた程に。


なのでグレリアから研究に対しての協力要請が来た時には、迷うことなく手を貸した。

グレリアもその辺りの考えを利用して、リヴォルトに相談を持ちかけた節もあるが、結果これまで外に情報が漏れてしまったことは一度もなかった。


何度か王宮の諜報部員などから目をつけられそうになったが、リヴォルトによってそれも隠蔽されてきた。


「だが、いつまでも誤魔化せれるとは限りれない。今回のゴーレムの魔法使用もかなり無理をしてしまった。……流石に奴らに目をつけられる。そうなると彼からも協定違反だと言われてしまう」

「……分かっている」


そんな彼らが警戒する者がいるとすれば、王族、陛下を除けば総団長かギルドマスターのガイ、要注意人物としてSSランク冒険者のギルドレットであろう。


まだ確かではないが、何度か身辺を調査していた諜報部員はガイの指示で動いていたのではと、リヴォルトとグレリアは聞いている。


そしてガイは監視の眼を所持しているギルドレットと共、ギルド関係でよく話をしている。密かに手を組んでギルドレットに調査せていてもおかしくない。そういう理由もあってか、彼の弟子については一切手を出してない。


「幸いギルドレットも会場や街の監視で手が離せない。……大会にまでは手が出せない筈」

「その間に取り込ませている魔法をすべて扱えれるようにする為、大会で慣れさせて徐々に強くしていく。解析もできず封印するしかなかった魔法式の残滓は、まだまだ残っているからな。……それそうだが、グレリアよ?」

「なんだ?」


締め括られようとしていた会話であったが、どういうことかグレリアが話を終えようとする前に、リヴォルトが思い出したように口にしてくる。


「先程、あの雷槍に勝利したウルキアの青年、見覚えはないか?」


青年というのはジークのことである。リヴォルトは雷槍戦もしっかり見ていたようで、そのことについてグレリアに尋ねていた。


「見覚え? 別にない。……ただ、不可解な学生であると思う。少なくとも去年の大会では居なかった」


─────不可解(・・・)、というのはジークの戦いぶりであろう。

途中から目当ての試合が始まってしまったので、あまり見れていないが、リヴォルトもグレリアも他の観客と同じように唖然として試合を見ていた。


Sランク技法の融合を扱い、魔法ではなく技での対応を得意とする魔法使い。

最後のオリジナル魔法については二人とも画面では見てはいなかったが、試合内の一角で激しく光る銀の渦はハッキリと見えていた。


なのでその直後に雷槍が破れてしまったのだと知った時は、試合を見るのも忘れてしまい、しばし茫然としてしまっていた。


それでもあくまで珍しい学生。グレリアはその程度にしか考えていなかったが。


「何か気になるのか、リヴォルト」

「……少しな、嫌な予感がな」


話を振ったリヴォルト本人も上手く答えられない。……だが何か予感があった。


(なんだ? あの青年を見ていると記憶が刺激される……)


あのジークという青年を見ているとリヴォルトは何故か、あの銀髪の少年───────シルバーを思い浮かべてしまった。



◇◇◇



「……何が起きた?」

「っ、ジークくん!!」


拠点に戻ったジークが目にしたのは、異様な空気に包まれた拠点内である。

誰もが水晶魔石に映し出されている光景に目を奪われていた。近くにいたミルルに声をかけるも彼女も混乱した様子でいたので、深く聞くのはやめておいた。


その時点でジークは自分の試合が関係している訳ではないと理解するが、同時に一体なにがあったのかと少々困惑した様子で、皆と同じように画面へと目を向けてみた。


「……」


そして固まってしまった。

疲労の所為もあり思考が追いつかず、理解ができなかったからだ。


(…………なんの冗談だ? あれは……)


(ほとん)ど思考が回らない様子で画面を見ながら、ジークは呆然と心の中で呟いてしまう。


映っているのはトオルの試合である。

既に負けているのも見れば分かることだが、問題はその立ち去っていく相手である。


制服からして王都の生徒であるのは間違いないが、問題はその姿であった。


背丈や体型はジークと同じくらいであるが、一番に目に留まったのはその銀の髪と同じく銀の瞳。……顔こそ似ていないが、もし成長していれば、あんな感じの青年になっているとジークは思った。


トオルと対戦しているのは王都の学生で、名前はカルマ・ルーディスとなっているが、ジークはまったく別の名を思い浮かべた。


──────銀の瞳と髪をした最強の魔法使い、シルバー・アイズの名を。


「何をしたんだ。王都の連中は……」


思わず手で頰を覆ってしまう。ここにいる皆が彼と同じ答えにたどり着いて驚愕しているのか、それは分からない。試合の流れを見て驚いているだけかもしれない。


だが、それでも伝説の魔法使いと同じ髪と瞳をした学生。

既にトオルを圧倒していることを考えるなら、警戒しているのかもしれない。


「……」


しかし、この動揺している生徒達の反応が納得できない。

トオルに勝ちシルバーの特徴と同じというだけで、これほど注目を集めれるとは思えない。


「ミルル、ちょっといいか?」

「あ、ジーク君」


気になったジークはやはり訊くべきだと、再度ミルルに声をかけてみた。


「トオルに勝った奴、何かしたのか? この騒めきようだとかなりのことを仕出かしたみたいだが……」


ある程度予想を立ててジークが尋ねる。無駄な返答を避ける為もあったが、その嫌な予想は的中しており、呆然としたままミルルは頷いて説明した。


「あのエイオンの学生さんだけど、最初は殆ど攻撃しなくて、どうしてかトオル君の攻撃をずっと避けてたの。 ……それでトオル君の剣技もまったく当たらなかった」


何処か落ち込んだ様子でまず始めの辺りの説明から入るミルル。できれば今何をしたのか聞きたかったが、話の内容が思ったよりも興味深くつい耳を傾けた。


「トオルのあの剣技を……か?」

「そう。全然当たらなくてカスリもしなかった。で、一向に当たらない所為でトオル君が疲労していって、このままだとマズイと思ったんだろうね。居合の連続剣技で勝負に出たの。……け、けど」

「……どうなった?」

「……ちょっ、と、まって」


そこで呼吸が間に合わなくなったのか、息を切らしている。興奮が冷めない様子な為、しばし目を瞑り呼吸を落ち着かせる。


「はぁ、……あのねジークくん」


そうして、なんとか落ち着いたところで、ジークに目を向けたミルルの口から驚愕な事実を飛んできた。


「なんとか攻撃が通りそうになったところで、トオル君の刀が折れたの。まるで紙でも切ったみたいに真っ二つになって、あと一瞬で背後に移動したりもしてた────────多分オリジナル魔法だよアレって」



◇◇◇



三日目は波乱を呼んだ。

多くの観客や大会関係者。

そして王族は二つの試合に心の底から仰天した。


一つはジークと雷槍との試合。

優勝候補一人でもあった雷槍のまさかの敗北。

しかも相手はこれまで大会に参加したことのない選手。前半では雷槍と互角に渡り合って、後半あの雷槍を圧倒。雷槍のオリジナル魔法も破ってしまい、一方的に追い詰めて倒してしまった。


最後は見たこともない白銀のオリジナル魔法。雷槍が使う同じく大会では見せたことのない切り札と思える獄炎の槍を消し去ってしまった。


ジーク・スカルス。聞いたことのない名であるが、この試合で、そしてこれからの試合の中で確実に広まっていくであろう。



もう一つはトオルとカルマ・ルーディスの試合。

どちらもこれまで大会に参加した経験はなかったが、トオルの繰り出される剣技によって、見ている者の視線は彼に釘付けとなった。


だが、その相手をしたカルマにはさらに多くの者、貴族、王族も釘付けとなった。


トオルが放つ剣技をすべて躱してみせるや、手刀で剣を折ってしまい、一瞬で姿を消して一撃で彼を倒してみせた。


しかし、一番に皆が注目したのは彼の髪と瞳。

あの伝説の魔法使いシルバー・アイズと同じく銀色の髪と瞳をした青年。その彼から繰り出されたオリジナル魔法と思われる二つの魔法。


まさかと皆が思う筈、同時にありえないとも。

だが、この先の戦いの中でジーク。そしてカルマの存在はより一層、大きくなって行き、気付けば皆の意識を自然と集めることなって────────ふと観客達は思った。


この二人が戦ったらどちらが勝つのだろうかと。


三日目が終わり、大会の歯車は大きく乱して出していた。

大会もあと二日、気付けば大会参加者はジークを含め、残り十名となった。


ジークの目的が成就するかもしれない日もあと僅か。

立ち塞がる試練の前に彼は決断する。


神を殺す為、人々を見捨てるのか。

人々を助け、神を殺すのを諦めるのか。


一度は停滞も受け入れた彼が再び、選択に迫られる時が近付くが、果たしてどちらを選ぶのであろうか。


それとも────




「良い具合にこちらに運命が傾いているようですね。ふふふふ、実に素晴らしい! 後は最終日に決勝で彼と打つけるだけ! それで彼の中のアレを(・・・)覚醒させれば……!! 私の復讐も成就するッ!! ……ククククッ! ハハハハハハハハッッ!! ああ、待っていろよッ!! シルバーッッ!!!!」




────何もかも投げ出して、憎しみ(彼の心)のままにすべてを滅ぼしてしまうか。


必死に忘れようとしていた彼の怒りが、この星を喰らう日も近いかもしれない。
















「そんなことはさせません。破滅の未来(彼の運命)はここで変えてみせます」


しかし、そんな乱れて壊れかけている歯車を、絶望に進む運命を修正してみせようと。


一人の師が立ち上がった。




そして四日目、彼は──────













「─────殺してやる」




────忘れようとしていたあの日々を、殺意を、蘇らせてしまった。


次回から次の章に移ります。

更新は来週の土曜日です。


それと新作についてお知らせがあります。

活動報告にもあげる予定ですが、8月の中ほどに新作(タイトルまだ未定)の第一章を出したいと考えています。理由は気分転換ですハイ。

詳しいことは活動報告に載せようと思いますが、内容として異世界モノ(……またです)。今やっている『オリジナルマスター』と前作の『苦労人』(作者的には黒歴史)と少々繋がりがあるお話となっています(たぶん)

また、内容が固まったら、報告したいと思います。

……中止なるかも知れませんので、あんまり期待はしないでください(汗)






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