第二十話 調査、そして──
ダキニ天が祀られている寺のヒントは、山の中、花火、祭……。
このワードだけで考えうるのは、八月の夏越まつりに打ち上げられる花火だろうか。
海上から放たれる花火は、夏の名物詩となっている。
父に相談してみたところ、山の中に花火がよく見える人気スポットがあることを教えてもらった。
「今日、父さんが連れて行ってあげようか?」
「いいの?」
「ああ。このあとすぐでいいのならば」
「だったら、お願い」
父に車で連れて行ってもらう。ミケさんも車に乗り込んだ。
本日はもちも一緒だ。見つけられない場合、もちレーダーを頼ろうという魂胆である。
もちは喜んで車に跳び乗り、どこに行くのかとワクワクした様子を見せていた。車の移動が好きみたいで、行先が病院でも喜んでついて来るのだ。
どんどん山道を進んでいったら、街が一望できる開けた高台のようなところに辿り着いた。ここは花火大会の当日、人が集まって花火鑑賞するらしい。
駐車場は二十台くらい停められるだろうか。
地面はセメントで固められ、ベンチがいくつか置かれている。他、落下防止の柵や公衆トイレに自販機などもあった。
車から降りたが、神様を祀っているような特別な物は見当たらない。
「ここの高台を作る時に、壊してしまったとか?」
「どうでしょうか?」
神聖な気配など、何も感じないようだ。もちも、無反応である。とりあえず、歩き回ってみることにした。
「う~~ん」
ここではないのだろうか。
「山の中、花火、祭……」
このワードが一つに繋がる場所とはいったいどこなのか。
そこまで広くはない敷地内を一時間ほど歩き回ったが、本当に何も感じないようだった。
ここはダキニ天を祀る寺はないと判断してもいいだろう。
「このまま何も起きなければ、別にダキニ天の寺を付き止める必要はないのですが」
「そうだね」
今後、何も起きませんようにと祈りを捧げる他なかった。
しかし、そんな願いも空しく、事態は急変する。
夜、一本の電話がかかってきた。修二のお兄さんからだった。
「え、修二の容態が、急変したって!?」
一瞬、意味が理解できなかった。
だが、今夜が峠だと言われ、ハッと我に返る。
ダキニ天が──修二を連れて行こうとしているのだろう。
すぐさま電話を切り、母に報告した。すると、部屋で勉強していた紘子を呼びに行く。
修二の急変を聞いた紘子は、顔を真っ青にして膝から頽れた。母は紘子を支え、しっかりしろと励ます。
「紘子、修二君のところに行くでしょう?」
「え?」
「頑張ってって、応援をしなきゃいけないわ」
そうだ。ショックを受けている場合ではない。
急いで病院に行って、修二を励まさなければ。
母は紘子の腕を掴んで立ち上がらせる。ハンガーにかけてあった制服を手渡し、すぐに着替えるように言った。
俺も、制服に着替えなければ。
「とむ!」
巫女服姿のミケさんがやってくる。手には永久の花ツ月を持っていた。
「私も行きます」
「うん」
今は緊急事態だ。巫女服は目立つとか、言っている場合ではない。
永久の花ツ月も刃は付いていないので、銃刀法違反にはならないだろう。
俺も急いで制服に着替える。
家族総出で病院に向かった。空は暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷が鳴っている。
今日に限っては、神鳴り、と言ったほうがいいのか。
車を駐車し、外に出る。すると、ミケさんはハッとなり、病院の屋上を見上げた。
「女狐!!」
紘子が叫んだ。どうやら、何かが屋上にいたらしい。
「車で追いかけましょう!」
母がそう言って、運転席に乗り込む。
「お父さんは修二君のところへ」
「あ、ああ」
「みんな、シートベルトはきちんと締めていてね。可能な限り飛ばすから」
「了解」
ミケさんと紘子、俺は車に乗り込む。
母はアクセルを全力で踏み、病院の駐車場から飛び出した。
どうやら前に、ダキニ天の眷属の狐が走っているようだ。俺には見えないけれど。
母は法定速度で狐を追いかけている。
「ううっ!」
どんどん車を追い越し、曲がる時も減速なしだ。
「修二お兄ちゃんの、魂が」
「狐が、持って行っているのか?」
「そう」
なんてことだ!
またしても、修二の運命は死へ傾いていたらしい。
「酷い……ううっ!」
「紘子、まだ大丈夫!」
泣きそうな紘子を励ますように、母が叫ぶ。
だんだんと町から山のほうへと入っていく。狐は車道を悠々と走っているようだ。
山道を登っていき──辿り着いたのは、彼岸花が咲き乱れる場所だった。
「こ、これは──!?」
真っ赤な彼岸花が、辺り一面に咲いている。
彼岸花が咲くのは初夏のはず。いったいどうして?
「これは、ダキニ天が見せている幻の彼岸花です」
「ってことは、ここがダキニ天を祀っている場所ってこと!?」
「そのようです」
山の中、花火、祭というワードはいったい何だったのか。
「彼岸花の別名は、花火」
「そうなんだ」
紘子の解説に、母が付け加える。
「ここは毎年百万本の彼岸花が咲く場所で、お祭りもあったはず」
「なるほど」
そんな祭があるなんて、知らなかった。
紘子は彼岸花祭のことを知らなくて、母は彼岸花の別名を知らなかった。
だから、すぐにピンとこなかったのかもしれない。
ちなみに、彼岸花の別名は他にもあって──死人花、とも呼ばれているのだとか。
彼岸花の花びらはぼんやりと光っていて、まるで狐火のようだ。
修二の魂を奪った狐は、彼岸花畑をぴょんぴょんと舞うように跳びはねている。
それは、巫女が踊る舞のようにも見えた。
狐が空中で一回転すると炎となり、それは人影になっていく。
「あ、あれは──」
姿を現したのは、残酷なる神──ダキニ天。




