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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第一部 見習い神主と狐神使の、あやかし没交渉

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第二十七話『裏工作!』

 自転車の俺と徒歩のミケさん。

 どうやって帰ろうかと迷っていたら、母から「用事が終わったら連絡を下さい。葛葉くずは様を迎えに行きます」というメールが入っていた。

 返信すれば、図書館の駐車場に母が車でやって来る。


 ミケさんと別れ、自転車で帰宅をした。

 家に着けば、ミケさんがモチと遊んでいた。

 モチが尻尾をぶんぶんと振ったので、俺の帰宅にミケさんも気付く。


「おかえりなさい」

「ただいま」


 ぴょこぴょこ跳ねるモチを撫で、散歩に行くために紐を結ぶ。

 ミケさんも行くと言うので、薄暗い中を歩き出した。


「とむ」

「何?」

「さっき、もちのお喋りを聞きたいと言っていましたね」

「そうだけど」


 返事をした瞬間に、ミケさんは俺の手を握ってくる。

 それから、モチの名を呼んだ。


「もち、お話をしましょう」


 あ、そういうことか、と納得する。ミケさんはモチの喋る言葉を聞かせてくれようとしていたのだ。意味もなく手を握るわけがないのに、ドキッとしてしまった。

 こちらの動揺をよそに、前を歩くモチは振り返って「わふっ」と鳴いた。

 が、同時に頭の中に言葉が聞こえる。


『なんでしょうか、葛葉様』

「お散歩、楽しいですか?」

『はい、とっても。こうして連れて行ってもらえて、光栄に思います!』


 うわ、モチの言葉が分かる!! 感動した!!


 ミケさんの言う通り、モチは謙虚な物言いをする犬だった。

 普段から慎ましい感じはするなと思っていたけれど。


「モチ、俺の言葉も分かる?」

『はわわ、つとむさん!』


 まさかの勉さん呼びに噴いてしまった。

 ミケさんと手を繋ぎながらモチと会話をする。とても楽しかった。


 帰宅後、父にコンビニ店長さんの話をした。

 あやかしを倒すには、その人自身に来てもらう必要があると。

 ついでにとあるアイディアも提案してみる。


「なんか、神社に泊まり込みでお祓いとか、そういうプランとかどうかな~っと」

「お祓い一泊プラン?」

「そう」


 父は七ツ星神社の長い歴史の中でそういうものは前代未聞だと言っていた。

 商業的な面が強くなるので、難色を示している。


「でもなんか最近、宿房しゅくぼうっていって、神社に一泊して神道の魅力を伝えるものがあってるみたいで――」


 宿房とは参拝者がお寺や神社などで一泊することを言う。またはその施設の名称だとか。

 気になる内容は、神社の案内から始まり、祈祷を受け、境内の清掃をする。夜は地元の食材を使った料理が振る舞われる。翌日の朝、本殿及び拝殿の掃除をして、朝拝をする。昼食前まで神社の歴史や希望者に禊の方法を伝授するなど、観光客向けにこのようなことを行う所もあるらしい。


「なるほど、宿房ねえ」


 しつこく説得をしたら、一応企画を立ててみると言ってくれた。店長さんがかなり辛そうだったので、なるべく早く用意するようにお願いをした。


 ◇◇◇


 翌朝、境内の清掃を終えて食事を戴く時間に父は一枚の紙を差し出してくる。


「勉、昨晩、こういうのを考えてみたんだが」

「ん?」


 『七ツ星神社・一泊厄払いプラン』

 厄年の方から、ちょっと最近災難や障りが多いなという方向けの企画です。

 心身共に清める禊講座から、悪い物を落とすお祓い、境内を清掃して徳を積むなど。

 清浄な境内の中で神様と共に在ることにより、心地よい時をご提供いたします。

 一泊二食付き、一万五千円から。


 プランの下部には食事に写真もあった。母が作った夕食と朝食らしい。

 父がたまにスマホで撮っているものを使ったとか。

 もちろん、下部に『写真はイメージです』と書かれてあった。


「うわ、すごい」


 どうやら朝方まで頑張っていたらしい。目の下には濃い隈が。

 デザインも手抜き感がないし、写真の料理も美味しそうに撮れている。


「じゃあ、これ、コンビニで働いている友達に渡しておくから」

「そうしてもらえると助かる」


 コンビニに直接行く覚悟もしていたと父は言う。けれど今まで営業をしたことがなかったので不安だったと呟く。


 時間になったので学校に行くことに。


 朝一で飯田にお祓い一泊プランのチラシを持って行くことにした。


「おお、すげえ、こんなのがあるんだ!」

「まあ、気持ちを軽くする程度だと思って」


 ごりごりに推したいところだけど、怪しまれたらいけないので、かる~くオススメするだけにとどめておく。


「な、なあ、これって巫女さんが世話をしてくれるのか?」

「いや、うちの父さんが心を込めてお世話を」

「なんだ。だったら俺は行かなくてもいいかな」


 巫女さんがお世話をしてくれるなら、飯田も来たかったのか。

 だが残念ながら、巫女さんはご多忙なのだ。

 今日はバイトがない日らしいけど、店長さんに渡しに行ってくれるらしい。

 うまい具合に乗ってくれたらいいなと思うけど、どうだろうか。


 父はちらし作戦が失敗したらすまないと謝っていたら、ミケさんは大丈夫だと言っていた。

 術を使って深夜の神社に呼び寄せるようなまじないがあるらしい。

 でも人を惑わす力はなるべく使いたくないと言っていた。

 なので、店長が申し込んでくれることを心の中で願う。


 帰宅後、父の手伝いをするために神社に向かう。

 社務所の玄関掃除をしていたら、電話が鳴った。


「もしもし、こちら、七ツ星神社、社務所でございます」

『あ、あの~、チラシを見て、電話をしました大村と申します。ちょっとお話を聞きたいなと思い~……』


 おお、チラシを見たということは、コンビニの店長さんだ!

 責任者に代わりますのでと言って、本殿に居る父を呼びに行った。


 電話をする父の後姿を見守る。


「はい、はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします。それでは、失礼を――」


 電話は終わったようだ。

 昔ながらの黒電話を置けば、チンと音が鳴る。

 振り返った父は、満面の笑みを浮かべていた。


「店長さん、申し込み、した?」

「ああ。三日ほどここで休養したいと言ってきた」

「おお!」


 さすがお金持ち。

 三日もあればどうにかなるだろうと思った。

 ミケさんにも言ってみれば、安堵するような表情を見せていた。


「その、大村さんはいつ、いらっしゃるのでしょうか?」

「明後日だって」


 まだ微妙に参拝客が多いシーズンなので、知り合いの神主を呼んで参勤に就いてもらうようにお願いするといっていた。


 料理を担当する母も張り切っているらしい。

 食欲がないということで、いろんな料理を少しずつ食べてもらおうかなと言っていた。


 翌日。

 教室に入った途端に飯田が話しかけてくる。


「おう」

「よう」


 用事は昨日のお祓いプランについてだった。


「店長、あのあとすぐに申し込んだってさ」

「へえ、そうなんだ」

「しかも三日間も!」

「それはすごい」


 あくまで自分は部外者です、と装っておく。

 父親から聞いていないのかと突っ込まれたが、個人情報なのでと誤魔化しておいた。


「なんか、他の従業員も誘いたいって言っていたけど、予定が合うのか分からないってさ」

「そっか」


 あまり大人数を止められるようなスペースはない。多くてもニ、三人くらいだろう。

 男女別れた部屋を用意するとなれば、さらに大変なことになる。

 まあでも、その辺の心配は父に任せることにした。


「神社も手広くやっているんだなあ」

「……まあね」


 そういうことにしておこうと思った。


 放課後、白石さんが妙にそわそわしながら時計を見ていた。手には箒を握っている。今日は掃除当番なのだろう。

 基本的に、掃除はメンバーが集まらなければ始められない。

 だいたい、HRが終わってから三十分ほどで開始される。

 もしかして、急ぎの用事があるのだろうか。

 目が合ってしまったので、声を掛けた。


「今日、用事でもあるの?」

「え?」

「なんか、落ち着きなかったから」

「え、あ、うん。ちょっと」


 白石さんはバス通学だったような。

 バスは三十分に一度しかやって来ない。なので、時間との勝負なのだろう。


「次のバスって五十分だっけ?」

「そうみたい」


 残り十五分。これから全力で掃除をすれば間に合うけれど、残念ながらメンバーは集まっていない。


「掃除当番、代わろうか?」

「そんな、悪いし」

「大丈夫。今日用事ないし」


 その代わり、今度数学で分からないところがあったら助けてくれとお願いをした。


「じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「どうぞどうぞ」

「ありがとう、水主村かこむら君」

「いいってことよ」


 白石さんは笑顔で帰って行った。


 いいことをした! と自己満足をしていたけれど、トイレから帰って来た掃除係の男子一同に、どうして白石さんが居ないんだと怒られることになった。


 なんとも世知辛い話だと思う。


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