第二十六話『呪われたコンビニ!?』
「ごめんなさい。今日は何も持っていないの」
ミケさんは集った鳩に謝っていた。
「鳩、なんて言った?」
「そういう日もある、仕方がない、と」
「な、なるほど」
そういえば、モチの言うことも分かるのだろうか。気になったので聞いてみた。
「ええ。動物の喋る言葉は一通り理解出来ます。もちは謙虚な犬ですね」
「いつもありがとうございます」とか、「恐縮です」とか言っているらしい。
ちょっと面白いなと思った。
本日のミケさんは白いハイネックに青系チェックのスカートを合わせている。
若干スカートが短い気がしたが、分厚い黒タイツを穿いているからOKなのか。
個人的にはかなり好きな格好だと思う。多分、母が用意してくれたのだろう。
Good job母!!
ミケさんにどうしたのかと聞かれ、慌ててなんでもないと首を振る。
「さ、さて、行きますか!」
「はい」
とは言っても、ここから駅のコンビニまで徒歩五分ほどだけど。
飯田は五時半過ぎからの勤務と言っていた。
現在五時前。微妙に時間があるけど、まあ、いいか。
調査を始める。
「ミケさん、ここなんだけど」
「これが問題のこんびに、ですか」
「そう」
駅から出てすぐにあるコンビニ。
隣は塾で、その隣は美容室。どこも店内は人で賑わっている。
見た感じは普通の建物だと言っていた。周囲に古い石碑や井戸はない。
「どう?」
「特に、不思議なところはないように見えますが」
「そっか」
だったら、問題は建物の中なのか。店内に入ってみることにした。
「いらっしゃいませ~」
「!」
店内に入れば店員が振り返り、笑顔で挨拶をする。
その姿を見て、ミケさんはぎょっとしたのだ。
強張った顔を逸らし、店の奥へと歩いて行く。
ミケさんはおつまみの売り場で立ち止まった。
「ミケさん、何か見つけた?」
「え、ええ」
怪しまれないように、スポーツ飲料とお茶、板チョコとビスケットを買うことにした。
ミケさんはレジに近づかず、少しだけ離れた場所に居た。
レジに居たのも先ほど「いらっしゃいませ」と言った店員だ。
ちらりと顔を見れば、確かに痩せている。
頬はこけて、目は落ちくぼみ、腕は枯れ木のようとは言いすぎかもしれないが、ガリガリに見えた。病的な痩せ方と言えよう。
そんな状態でも、店員は丁寧な接客をしてくれた。
駅前だけど、このお店が流行る訳だと思った。
買い物袋を受け取り、店から出る。
自動扉が開いた瞬間に、見知った顔と鉢合わせをする。
「うお!」
「あ!」
飯田がびっくりした顔で見ていた。
即座に腕を掴まれ、外に連れ出される。
「おい、トム、早えな」
「HR終わってすぐ出て来たから」
ミケさんを待たせていると思って、自転車を全力で漕いで来たのだ。
飯田は深刻そうな顔で質問をしてくる。
「それで、見たか?」
「中の男の人?」
「ああ。あの人店長なんだ」
「へえ、若いなあ」
二十代前半くらいに見えた。聞けば、二十五歳らしい。大村さんという古い歴史のある家の息子だと教えてくれた。華族制度が廃止される前は、伯爵家だったらしい。そんな、やんごとない家の出身者だと言う。
「なあ、店長、すげえヤバかっただろう?」
「ああ確かに、酷く痩せてた」
霊的な何かを感じたかと聞かれたが、分からなかったと首を振る。
「そうか。そうだよな」
「病院は?」
「異常なしだったらしい。……や、やっぱり、祟りなのか?」
「さあ、どうだろう?」
「そういえば、神社ってお祓いとかしているよな?」
「やってるけど」
神社でお祓いを行う場合はお金が掛かるからと、先に言っておく。
「神社に来られるなら五千円から。出張は数万円」
「店長に言っておく。金持ちだからなんとかなるだろ」
ここで別れようとしたら、背後に居たミケさんに気付く飯田。
「あ、その子、この前の」
「そう。親戚の子。神社で巫女さんをしているんだ」
「へ、へえ~」
あまりにも飯田が覗き込むので、紹介をすることになった。
「葛葉三狐さん」
「あ、ど、どうも。飯田っす」
「はじめまして」
ミケさんは飯田に丁寧なお辞儀をする。
顔を赤くしながら遠慮なくじろじろ見るので、バイトの時間は大丈夫なのだと指摘した。
「うわ、もうこんな時間じゃん!」
片手を挙げ、飯田は店の中に入って行った。
再び図書館前の公園に戻る。
ミケさんにお茶と板チョコを渡した。
「話、聞いてもいい?」
「ええ」
一体何に驚いていたのか。彼女は静かに語り始める。
「あの、店に入ってすぐに居た男性に、あやかしがとり憑いていました」
「!」
まさか人にとり憑いていたなんて。まったく気づかなかった。なんでも、生気を奪っているらしい。本人だけでなく、周囲の人からも奪っているとか。
激痩せの理由が判明する。
「とても大きなあやかしで、店の中に真っ黒い霧が漂っていました」
その霧に触れた者の生気をも奪っているらしい。
中でも、呪いの依り代となっている店長さんが一番影悪響を受けていると。
「ちょっと何か情報を握っていないか、聞いてみましょう」
「え、誰に?」
「あちらの方々に」
ミケさんの指さす方向には、ポッポッポッと鳴きながら地面を闊歩する鳩ご一行。
もしかして、鳩からあやかし情報を得るというのだろうか。
聞けば、そうだと頷いている。
「手を貸してください」
「ん?」
お手と言われた犬の如く腕をピッと伸ばしたら、ミケさんが手のひらをぎゅっと握った。
一体どうした!? と一人で動揺をしていたら、俺の手の甲に指先で何かを書いている。
「動物の声が聞こえるようになる呪文です」
「あ、そうなんだ」
説明もなしにしてくるので、びっくりした。
ちなみに、ミケさんと手を握ったままじゃないと効果は持続しないらしい。
「次回からは、手を繋いだだけで動物の声が聞こえるようになります」
「へえ、そうなんだ~……」
便利な力だなあ。モチの喋っている言葉の意味も聞きたい気がするし、今度試させてもらおうかな。
そんなことはさておき、鳩の事情聴取を開始する。
まずは集合をして頂かなければならない。
俺達が何も持っていないと学習したからか、鳩は一羽も近寄って来なかった。
「ミケさん、鳩呼べる?」
「いえ、あの者達は私の管轄ではないので」
「そっか」
ならば、最終兵器を使うしかない。
鞄の中からビスケットを取り出し、鳩に掲げて見せた。
すると、目の色を変えて近づいて来る。
『うお~~、それ、コンビニのメープルクッキーじゃんかよお』
『クッキーじゃなくてビスケットだろ?』
『クッキーもビスケットも外国に行ったら同じ意味だろ? globalに生きようぜ!』
おお。本当に鳩の言葉が分かる。話している内容はよく分からないけど。
とにかく、ミケさんの術すごい、と思った。
「まず、お話を聞きたいのですが」
『なんだよ、無償じゃくれねえってのか!』
『Give and takeだよなあ、世の中』
『仕方がねえ。早く言えよ』
ミケさんは鳩の物言いを気にすることなく、丁寧な態度で周辺の異変について情報を求めた。
『ああ~、知ってる。最近、バイトの姉ちゃん来てくれなくなったんだよ!』
『なんか、具合悪いらしいな』
『この前見かけたけど、ヤバいくらいげっそりしてたもん』
コンビニ店員の激痩せは鳩の食料事情にも影響を及ぼしていたらしい。
何か原因があるのか、鳩に聞いてみる。
『ああ、あれだろ? 同じ店で働いている、ここの藩主だった男の子孫に妙なものがくっついているんだろ?』
『らしいな。その影響でこの辺も怪しくなってきたぜ。あれ、そのうち死ぬって』
『バイトの姉ちゃんも危ねえなあ……』
店長はこの地の藩主の末裔らしい。
「もしかしたら、藩主だった血筋に結界を施したのかもしれません」
「子孫が続けば、結界も保たれると」
「はい」
あの様子だと、早くて一か月後には命を落とすかもしれないとミケさんが言う。
なんとか店長さんを連れ出して、あやかし退治をしなければならない。
その前に、いろいろと問題が生じる。どうやって店長さんをうちの神社に留めるかとか、どうやってあやかしを店長さんから離すか、とかとか。
「とりあえず、父さんに相談をしてみるか」
「そうですね」
鳩にお礼を言ってミケさんから手を離し、ビスケットを三枚地面に置いた。
鳩達は嬉しそうにビスケットを嘴で突いていた。
時間を確認すれば五時半だった。ちょっと気になることがあるので、資料館に寄ってもいいかと聞いてみる。
「ええ、構いません」
「すぐ終わるから」
公園の後方にある図書館に行って、資料館への階段を上る。
係のお姉さんに会釈をして、目的の物がある所まで向かった。
「……やっぱりか」
藩主の家系図の巻物が広げられた展示には、家紋が描かれていた。
それは、有馬大神の鎧に描かれていた家紋によく似ていた。
家系図を辿れば、大村家は有馬家と繋がっているところがある。
「有馬大神の子孫は、コンビニの店長だったのか」
これが判明したからと言ってどうにもならない。
有馬大神に縁ある刀があれば協力をすると言っていたが、資料館に刀らしきものは置いていなかった。
館長に詳しい話を聞いてみたい気もするけど、外も暗くなってきたので、家に帰ることにした。




