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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第一部 見習い神主と狐神使の、あやかし没交渉

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第十八話『井戸の怪』

 ミケさんの教えてくれたことは、正直に言って嬉しかった。

 あやかし退治を頑張るのはミケさんばかりで、どうしても役立たず感を覚えていたからだ。

 祝詞を奏上することによって彼女の力になれる。とても素晴らしいことだと思った。


 だが、この前のように拙い祝詞を詠むわけにもいかない。

 父の声を録音して、聞きながら練習をしなければと思った。めざせ、Speed Learning!

 祝詞の詠み上げ練習は将来神主になってからでも役立つだろう。

 俗っぽいことだけど、神社経営で一番の収入はお祓いや祈祷をして得る祈願料になる。

 全体収入の六十パーセントほどになるとか。よくお賽銭で儲けているだろうと聞かれる。その辺については参拝する方との御縁だからと、父は話をはぐらかしていた。そこまで多くはない模様。

 祈願の種類はいろいろあって、七五三に地鎮祭、商売繁盛や無病息災など多岐に渡る。

 神社で行う厄除けなどは一回五千円から。

 神社の外でやる儀式は、家を建てる時に行う地鎮祭とか工事成功を祝う竣工式の清祓いとか。


 そういうわけで、祝詞とは神職者にとってとても重要なお仕事の一つと言える。


 あと、龍笛の練習ももっとしようと思った。昨日の演奏はところどころ音を外したりして、舞をしていた父がズッコケそうになっていた。大いに反省すべきだと思った。


 放課後。

 掃除当番を無難にこなし、本日は日直だったので日誌を職員室に持って行った。

 職員室は何も悪いことをしていないのに、入ると緊張する。ピリっとした空気が何とも言えない。

 担任の先生は不在だったので、机の上に日誌を置いてさっさと出ようとすれば、数学教師の西川に掴まってしまった。


「水主村、ちょっと来い」

「はい?」


 ちょいちょいと、指先で手招きされた。嫌か予感しかしない。

 西川は学生時代ラグビー経験があり、無駄に大きな体をしている。加えて顔も厳つい。

 何故か一年中ジャージで、体育の先生みたいな恰好で居るのだ。やたら熱くて、口うるさいところもあるが、授業はそこそこ分かりやすく、真面目ないい先生だ。

 それにしても、一体なんの用事なのか。はらはらしながら近づく。


 西川は隣の席の安田先生の椅子を引き、座れと言う。

 先生の椅子に座るなんて恐れ多いと思ったが、言いつけとおりに腰掛けた。

 なんでしょうかと聞けば、神妙な顔つきで話し始める。


「――お前の家、神社だったよな」

「そうですが」

「お祓いとかもしているよな?」

「はい」


 なんでも、最近ラップ音のようなものが夜中に聞こえてくるらしい。獣のような鳴き声も。


「あれ、絶対犬とか猫じゃないんだよ。気持ち悪くって」


 もしかして、西川の家に近くに結界があるのだろうか?


「先生の家に周囲に、大きな木とか像とか、古い何かがあったりしますか?」

「や、やっぱり、そういうのには何か憑いていたりすんのか!?」

「そうですね。というか、この世のものには全て、霊が宿っているとも言われていますが」

「さすが、神社の息子だな」


 聞けば、西川のアパートの近くには古い井戸があるらしい。

 大変古いもので、井戸の近くに住民が近づけないように柵で囲まれているとか。

 口には石の蓋のようなものが被さっていたらしいが、いつの間にか崩れてしまっていたと話す。


「危険だから管理人さんに相談もしたが、不良グループのいたずらだろうって」

「なるほど」


 不思議な現象も起きている。ますます結界であるという可能性が高まった。


「それで、お祓いをと思っていたんだが、その、なんだ、お祓い代とか……」

「出張の祈祷料は二万から三万くらいですね。詳しいことは父に聞かなければ分かりませんが」

「にまんからさんまん……。そ、そうか」


 まあ、あやかしの仕業だったら、お祓いをしても意味はないだろう。

 それにお金を払うのかいささか気の毒な感じがする。


 西川も神社へ依頼をすべきか迷っているように見えた。


「先生の家ってどの辺ですが?」

「お前、まさかお祓いとか出来るのか!?」

「出来ません、まったく」


 ついでに霊感も何もないことを伝えた。西川はがっくりと肩を落とす。


「家は、あれだ。個人情報。教えるわけにはいかない」

「そうですよね」


 とりあえず、鈴と盛り塩の効果などを教えてあげた。それから、神社へのお参りも勧めてみる。


「お前のところ、稲荷神社だったよな。やっぱり強い神様なのか?」

「ええ。五穀豊穣と商売繁盛のご神徳があります」

「今回の件に関係ないじゃなか」

「あ、厄除けと家内安全の神様もいますよ」

「それだったら、まあ、行ってやらなくもない」

「よろしかったら是非。お守りやお札もありますので」


 営業が終了したところで、帰宅をすることにした。


 今日も自転車で神社に向かった。

 社務所に行ったら瀬上さんが居たので、質問をする。


「瀬上さん、この辺のアパートで井戸があるところとか知っていますか?」

「井戸?」

「はい」


 一応、周辺を探す予定だったが、誰か知っている人が居ないかなと聞いてみた。

 あまり期待はしていなかったが、一人目で耳寄りな情報を得ることに。


「うちのアパートに井戸があるけれど」

「本当ですか!」

「ええ、でも不気味で」


 瀬上さんのところにある井戸も蓋がなくなっているらしい。

 もしかしたら、西川と一緒のアパートかもしれない。


「でも、なんで井戸?」

「え!? い、いや、今、地域研究で井戸を調べていて」

「そうだったの」


 苦し紛れの理由であったが、信じてくれたようだ。

 今日はこれで終わりなので、今から一緒に行くかと聞いてくれた。


「いいんですか?」

「ええ」


 瀬上さんのアパートはここから車で十分ほどらしい。


「あ、ミケさんもいいですか?」

「え、あの子、学生じゃないでしょう?」


 そうだった。

 ミケさんの詳しい事情は家族以外知らない。うっかりしていた。


「まあ、別にいいけど」

「ありがとうございます」


 父に言いに行って、井戸調査に向かうことになった。


 ◇◇◇


 瀬上さんの車に乗り、神社から十分ほど走らせた距離にあるアパートに向かった。

 駐車場に車を停めたあと、建物の裏に井戸があるからと教えてくれる。


「柵の中に入ったりしたら駄目だからね、危ないから」

「了解です!」

「帰りはどうする? 何時くらいになるか携帯に電話をしてくれたら――」

「大丈夫です。バスで帰りますので」

「そう? ごめんなさいね。用事がなかったら送って行ったんだけど」

「いえいえ、とんでもないことでございます」


 瀬上さんはこのあと用事があるらしい。もう一度、お礼を言った。


「じゃあ、葛葉さんもまた明日」

「お疲れさまです」


 瀬上さんはそのまま車に乗って出かけて行った。


「さてと、ミケさん、調査をしようか」

「そうですね」


 話に聞いたところ、こちらのアパートは築四十年。なかなか時代を感じる建物であった。

 二階建ての計四部屋という、小さなもので、二部屋はカーテンも何もないので空室のようだ。

 郵便受けを見れば、一階に西川の名前が。ここに住んでいることに間違いない。

 裏手に回れば古井戸を発見した。

 石を積んで作った物のようで端が若干崩れかけていし、危ない。それに、若干不気味でもある。


「これは――」

「明らかに怪しい。空気も変だ」


 霊感がない俺でもここは変だと分かった。嫌な空気がびゅうびゅうと井戸の口から出入りしている。


「あやかしがこの地に固執して、居着いているのでしょう。姿は見えませんが、近くに居るのが分かります」

「うわあ……」


 まさか、ここで戦うのだろうか。聞いてみれば、ミケさんは首を横に振る。


「神社外での戦闘は不利になりますので」

「あ、そうだった」


 なんとかおびき寄せなければならない。


「このあやかしが、何にこだわってこの地に居るのか……」

「う~ん」


 さきほど瀬上さんにも霊障に遭ったことがあるかさり気なく聞いてみた。

 答えは「ない」の一言だった。

 ということは、霊障に苦しんで居るのは西川だけになる。


 ミケさんにも事情を話した。


「待ってください。ちょっと調べてみます」


 ミケさんは周囲を歩き回る。

 すると、西川の部屋の前で何かを発見したようだった。


「とむ、露台にある石が目的だったようです」

「石?」


 ミケさんが持って来た。

 なんの変哲もない手のひらサイズの石ころに見えるが、井戸の欠片らしい。


「あやかしは井戸そのものに執着をしているようですね」


 西川が石の欠片の近くに桶を置き、中に水を張っていたので、それが小さな結界となって近づけなかったのではとミケさんは推測している。

 目的の石に近づけなくて、西川にラップ音や鳴き声などで訴えていたと。


「じゃあ、この石を持ち帰れば、あやかしが来ると?」

「そうですね」


 あやかしをおびき寄せるために、石を持ち帰ることにした。


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