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見習い神主と狐神使の、あやかし交渉譚  作者: 江本マシメサ
第一部 見習い神主と狐神使の、あやかし没交渉

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第十七話『新たな挑戦!』

 とりあえず、話の主導権はミケさんに任せているようだ。

 父は未だに額に汗を浮かべている。

 狐の耳もぺたんと伏せられた状態になっていた。


「それで、結界が壊れてしまったので、どうにか出来ないかと……」

『それは壊したおまえらの責任であろう?』

「え?」

『結界の礎は鳥居の前の対となった神使像だったか。永久とわに変わらない物を選んだつもりであった。まさか狐の置物が人の子に恋をして、身を滅ぼし、結果、守るべき子孫を危険に晒しておったとは、愚かとしか言いようがない』


 おお、ほどよく荒んでいらっしゃる。さすが、荒魂あらみのたまとして祀られた神様だ。


 祖父さんやミケさんがフレンドリー過ぎて忘れていたけれど、神様ってこういうもんだよなあと、思い出してしまった。


 祈りを聞いて貰うには、神様に感謝して礼儀を尽くさなければならない。

 俺達は蘆屋大神あしやのおおかみが土地を守る結界を張ってくれていたことなんて知りもしなかった。本来ならば感謝を捧げるまつりを行わなければならないのに。

 社の扉を開かない小祭は行っていたが、大々的なものは無かったように思える。

 あのように怒るのも当然だった。


 蘆屋大神様が作った結界は千年もの間、あやかしの脅威から守ってくれた。

 まずはお礼を言うべきだと思った。


 まあ、この場であれこれ物申すのは油に火を注ぐ行為なので言わないけれど。

 というか、神主でない俺が神様に直接話し掛けるなんて恐れ多いことだ。

 今はひたすら平伏するばかりである。


 結局、交渉は決裂した。

 ミケさんは最後まで強気な態度で居たけれど。


 蘆屋大神様の体はすうっと消えていく。


 シンと静まり返った中で、申し訳なさそうな顔をしたミケさんが振り返る。

 ちょっとだけ涙目になっているのは気のせいだろうか。

 こういう時、夜目が利くのは良いことなのか、悪いことなのか。


 今日は気付かない振りをした。

 俯いたまま言葉を発しないミケさんに声を掛ける。


「ミケさん、帰ろう」

「そう、ですね」


 いろいろと後片付けをしたのちに、帰宅をすることになった。


 ◇◇◇


 翌朝。

 本日も学校に行く前に神社の清掃を行う。

 末社前は平穏そのものだった。

 昨日、蘆屋大神が荒ぶった様子でご降臨されて、説教をして帰って行ったなんて信じられないような気がする。

 朝の挨拶は今までしていたけれど、今日からは結界を作ってくれたことへの感謝の気持ちを伝えることにした。


 そろそろ登校時間になろうとしていたので、竹箒を掃除道具置き場に直しに行く。


「とむ」


 振り返れば、ミケさんが居た。無表情だけど、沈んでいるようにも見えた。もしかして、蘆屋大神とのあれこれをまだ引きずっているのか。


「ミケさん、どうしたの?」

「いえ、昨日の……」


 昨日のことは仕方がないとしか言いようがない。

 困ったからお願いをして、希望を叶えて貰いましたなんて、神様はそんな都合のいい存在ではない。

 ついでにお願いする相手もただ者ではなかった。

 蘆屋大神こと蘆屋道満。

 伝説が本当か分からないけれど、物凄く厳しそうな人だと思った。

 それに、結界が壊れたからまた直してくれだなんて、普段礼もしていない相手に突然言われたら、怒るのも無理はない。


「陰陽師大作戦は諦めよう」

「え?」

「何かいい方法があるから、ミケさん、一緒に考えよう」

「ですが……」

「大丈夫、上手くいくから!」


 言葉には霊が宿っている。故に、口に出したことは叶うと信じられていた。

 自らの実力に伴わない状態で発した言霊は、よくない形で返ってくることがある。でもこれは『驕り』ではない。どうしてか、ミケさんと二人で頑張れば、必ず解決出来ることだと確信していた。


「刀のこともまだ調べていないし、もう一人の神様だっている」


 刀は確か鎌や包丁を作る刃物工芸店があったような気がする。もしかしたら、そこで作られた品かもしれない。

 刀はもう一人の神様に関わりあるものかもしれないのだ。

 有馬大神ありまのおおかみは家内安全のご神徳がある神様だけど。

 蘆屋大神みたいに、調べてみなければ分からないのだ。

 可能性に賭けてみようと、前向きに考えている。

 次に神様を降ろすことがあれば、もっと慎重に行動しなければ。昨晩の失敗をしっかり胸に刻んでおく。


「とにかく、落ち込んでいる暇はないってこと」


 あやかしを倒す手段を得るだけでは根本的な解決にはならないけれど、とりあえず、出来ることから始めようと思った。


「そういうわけだから、よろしく」


 手を差し出せば、ミケさんはそろりと指先を差し伸べつつ、優しく握ってくれた。


「あの、とむ」

「何?」


 手を離そうとしたら、ミケさんが話し掛けてくる。


「前に、あやかしと対峙をしている時、祝詞を読んでくれたことがありましたよね」

「あ、うん」


 あの日の拙い祝詞は思い出すだけで恥ずかしい。

 風の音で聞こえていないだろうと思っていたが、しっかりミケさんの耳に声が届いていたようだ。


「それで、まだ誰にもいっていないのですが」


 なんだろう。発音を間違っていたとかの駄目出しだろうか。

 なんだか動悸が激しくなっている。……あ、このドキドキは手を繋いだままだからか。


「いいですか、言っても?」

「あ、はい、どうぞ」


 視線が手元に行っていた。今度はしっかりとミケさんを見る。


「とむの祝詞を聞いていたら、神力が大きく回復をしたのです」

「え?」

「その日から何回か、水主村殿の祝詞も聞いてみたのですが、回復量はほんの僅かで……」

「そ、それって、どういう奇跡なんだろう?」

「多分、相性が良かったのかなと」


 相性!

 そういう奇跡だったのか。ちょっと、いや、かなりびっくりした。


「その、毎日ではなくてもいいので、読んでくれないかと思って。神力が戻れば、あやかしとの戦う手段も増えますし」

「それは勿論」


 まだまだ練習しなければならない部分があるけれど、ミケさんの力になるのならば喜んで奏上したい。


「ありがとうございます。それを、お願いしたかっただけです」

「そっか」


 ミケさんの神力が戻れば、いろいろと対策も練れるだろう。

 思いがけないところで希望が見えてくる。

 ピコン、とlineの着信音が鳴った。ここでミケさんがパッと手を離す。

 残念に思いながらもスマホを開いたら、修二が学校行かないのかというメッセージが入っていた。


「あ、学校行かなきゃ。じゃあ」

「あっ、鳥居まで見送ります」


 悪いなと思ったけれど、せっかくなので、ありがたく見送りを受けることにした。


 手を振るミケさんが可愛くってニヤニヤしていたら、修二から「新婚夫婦かよ」と突っ込まれてしまう。


 そ、そんなんじゃないってば。


 ◇◇◇


 休み時間にうちの神社にある刀について調べてみることにした。

 名物・永久とこしえはなづき。左矢川八之丞作作。

 室町時代の刀であると聞いていたけれど、webページではヒットしなかった。残念。


 続いて、刀を作ったのではと思われる刃物工芸店をググってみた。

 なんと、そこは操業五百年の歴史があるところで、始まりを辿れば刀剣を作っていたとか。


 行ってみる価値はありそうだ。


 とは言っても、ミケさんと共に刀を担いで行くわけにはいかないので、父が休みの日などに車で持って行くしかない。


 刃物工芸店で気になるものを発見した。

 包丁作り体験。所要時間六時間で、お値段一万五千円ほど。

 熱い鉄を打つとかロマンだなあと思った。大人になって、余裕が出来たらぜひとも体験してみたい。


 放課後。

 図書館で借りていた本を返してから、帰宅をしようと思っていたら、途中で飯田に掴まった。


「おい、トム!」

「なんだよ」

「バイトの許可証貰った」

「へえ」


 なんでも、コンビニのバイトに挑戦してみるらしい。

 有り余る情熱の注ぎ口があるのは大変結構なことだと思った。


「放課後、働くのか?」

「ああ。これで、女子高生の同僚が出来る……」

「……」


 どうやら可愛いバイトが居るコンビニの面接を申し込むみたいだ。

 なんていうか、動機がちょっとアレだった。


 でも、労働を通じて社会を知るのはいいことだ。

 ついでに彼女が出来れば儲けものである。


「まあ、頑張れ」

「おうよ!」


 求人誌を片手に持ち、期待と希望に満ちた目を輝かせながら、飯田は去って行った。

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