5 問題提起する上で使う三つの構成要素
世の中に脚本術などの創作ハウツー本は溢れている故に、まだ名も無き素人の自分が発言する出番はないのではないか、と感じる場面に直面することがある。
だが、それでも私にしか解説できない仕組みとその発想方法があることは、たとえ自分の中だけであっても自認しているつもりである。今はまだそれが構造的かつ体系的な意味合いとまとめに付随した、全体的で具体的な全貌が立像化されていないだけであって、書き続けることを諦めさえしなければやがてはそれが功を奏して実を結んでいくのであろうことは、無名の私の憶測であってもある程度の確信がつく。だから、このブログを更新し続けていくことに最低限の必要性はあると思っているし、こんなつたないブログを読んでくださっている方々がある程度いらっしゃるということはそれなりに影響を持っているからなのかもしれない。つまりは、読んで下さる方々の中で何か納得のいくものが落とし込まれていっているからなのだろうと、勝手ながらに認識させて頂く次第である。更新した時間に読んで下さるいわばフォロワー様のような有り難き読者たちのためにも、このブログは継続させていくべきであると、そう強く自覚して更新していきたいと感じている。
前回のおさらいとして、問題提起を行う際にまず最初に定義することはアクシデントやハプニングという意味をはらんだ「登場人物を追い込んだり、または世界の均衡を崩すほどの巨大な出来事になる何らかの危機」という認識を持つことであるということをお伝えした。また、その危機はストーリー上で主人公にとって敵対者として位置付けられる存在によって意図的に引き起こされる、ということも示したと思う。本記事ではその「危機」とはどのような環境や状況で発生するのか、ということを「システム」「クライシス」「ソリューション」という3つのワードを使って解説していく。この記事では手始めに「システム」について解説していこう。
ストーリーには基本的にその世界で展開される舞台、いわば世界観という要素とその舞台の中で起きていく主人公を中心とした出来事、そしてその出来事を収束していく解決方法あるいは解決手段がそれぞれ存在している。これらのことをこのブログでは「システム」「クライシス」「ソリューション」という表現として定義している。ここでいう「システム」とは簡潔に言って「舞台」のことを指し、「クライシス」とはストーリーで引き起こされる「危機的な出来事」のことであり、そして「ソリューション」とはその危機を「解決する手段」のことを意味する。
それぞれ詳しく解説していこう。
まず「システム」とは先ほど挙げた通り、ストーリー上の舞台を意味する。その中には世界観やその規模、時代設定、社会構造、歴史背景などといった要素が含まれる。ここで挙げた要素を一括して「システム」と呼ぶ。
システムという言葉には多くの物事や一連の働きを秩序立てた全体的なまとまりという基本的な意味を持つので、これらの要素を総称してこの言葉を使っている。一つの体系的な概念として定義づけたこの「システム」は全て先の内訳を全て内包しているが、ここで挙げている「クライシス」「ソリューション」の2つの構成要素と連動した意味を含む限定的な含みとして、ここではその中にある「社会構造」に着目したい。
ここでいう「社会構造」はその名称の通りその世界で築かれている社会の仕組みを意味するが、2つの構成要素と連動させるという意味で具体的に絞って定義づけると、均衡が保たれていた世界がのちに崩壊し維持が困難になる何らかの欠陥あるいは不和が目に見えない形で内在化している点を重点的に意味している。ここで登場した「欠陥や不和」がのちに何らかのきっかけによって「危機」、つまり「クライシス」へと発展する引き金の役割を持っているというわけだ。
なぜ、「欠陥や不和」が内在化しているのか?
それは社会の中で欠けている何かがあり、かつそれがその世界の中で表面化されずに潜んでいると、その欠如したものは目に見えないところで温床の源となって徐々に肥大化していく性質を持っている故に、それが世界の闇の部分として敵対者を生み出すきっかけとなるからである。敵対者はストーリー上で均衡を乱す役割を持っているが、それも何かしらのきっかけがあって形成されていく。したがって、敵対者となる存在がのちに均衡を乱すことになるまでのきっかけ作りとしての土台や環境が必要不可欠なのである。それがこの「欠陥や不和」というわけなのだ。この「欠陥や不和」がのちに「危機」へと変貌した時に解決すべき問題が発生することになる。このプロセスを脚本術などの間では、一般的にこうして発生した「危機」を解決することを目的とした表現を「ストーリークエスチョン」と呼んでいる。「ストーリークエスチョン」とはストーリーにおける「中心的な課題」を意味し、主人公の目標や強い願望など、何かしら達成すべきことがあり、その実現が可なのか、不可なのか(大抵のストーリーは大団円に終わるものが多いので可となることが多い)をいろんな過程を通して描いていくことを端的に表現したワードである。ストーリーの主な目的を話の中心に沿えた概要と言い換えてもいい。
補足すると、はじめに行う「問題提起」はこの「ストーリークエスチョン」ともほぼ同義的な意味合いとして位置づけている。そして問題提起とは「因数分解」であり、元々一つだったものが二つに分かれて変化というプロセスを経た後に全く別の性質を得たものとして置き換わることだと前回で述べた内容を踏まえると、この「欠陥や不和」が敵対者を生み出してさらにその存在が危機を引き起こすという流れが、はじめは何も問題が起きていなかった世界(元々一つだったもの)が味方と敵に分裂して存続の可否を問われることになる事態(二つに分かれる)へと至る、という「変化」が生み出されることになった初めの段階が作られるということになる。
つまるところ、「変化」を生み出すには、この「元々一つだったものが二つに分かれる」という因数分解、つまり「問題提起」が必要になるということであり、「ストーリークエスチョン」を先ほどの定義になぞらえるとするならば、これら一連の流れを含んだ問題提起をストーリークエスチョンとしてストーリーの「変化」を描いていく過程を、初めにする作業とするべきなのだ。つまり、最初に行う必要がある作業は「問題提起としてのストーリークエスチョン」なのだ。ストーリークエスチョンは、世界という舞台「システム」の均衡が崩れて危機「クライシス」が発生し、それを解決すること「ソリューション」を目的とした「中心的な課題」といった、一連の流れを最も簡潔に表した作業という意味で最初に創作するもの、という認識をこのブログでは位置づけている。
こういった流れが「システム」「クライシス」「ソリューション」がそれぞれ連動した問題提起の内訳である。
そのうちの一つである「システム」にはこれまで説明してきた一連の流れを組ませるために、「欠陥や不和」を必要とするといった理由がお分かり頂けたかと思う。別の表現で復習しておくと、世界という舞台にはその「欠陥や不和」という面の中に空いた「穴」のようなものとして認識してもらえると分かりやすいかもしれない。
次回は簡潔に解説した「クライシス」についてお伝えしていく。




