「俺はお前が嫌いなんだよ!」 (3)
『イケメン君』が、
私に面と向かって、
こう言った。
「俺はお前が嫌いなんだよ!」
まあね。
私は、
そう言われても、仕方が無い人間だった。
「お前は、
ろくな事をしなかった!」
その通り。
「お前がした事で、
唯一の良い事は、
『ぬう坊』を助けた、ただ、それだけだ!」
(へっ!?、
俺が『ぬう坊』を助けた!?
『ぬう坊』を助けようとしたのは、『釣り堀の孫』で、
俺は、
その『釣り堀の孫』に呼ばれただけで)
そう。
この『イケメン君』は、
私が中三の時に、
「『ぬう坊』をイジメるな!」
と怒鳴り込んだクラスの生徒だった。
私の記憶では、
私は単に自己満足のため、
『ぬう坊』の一大事に、『ぬう坊』の許へ馳せ参じたかっただけで、
(『ぬう坊』を助けたい)
とか、
考えていなかった。
そして、
力で鎮圧しようとしたけど、
無理だったので、
自己弁護に【新自由主義】的な【自己責任論】を
唱えて、
終わらせた。
それが、『ぬう坊』を助けた?
そう言われた時は、
驚いただけだった。
だって、
セクハラ被害者様に、
「人間は皆、平等に生まれて来たのだから、
俺と闘って、
勝て!」
と言ったんだぜ。
ぁんなんで良いのかよ?
今考えると、
この『イケメン君』は、
歪んだ立場の、
偏った考え方の持ち主だったからね。
「俺はお前が嫌いなんだよ」
と言われた時、
高三だったのだけれど、
その高校の同じ学年には、
『イケメン君』と同じ苗字の人が、
『イケメン君』を含めて、三人いた。
その三人は、
親戚同士。
しかも、
三人共、男。
つまり、
『イケメン君』は、
生まれながらにして、
同い年の親戚二人と比較される宿命を背負っていた。
『イケメン君』は、
底辺不良中学に通っていたのだけれど、
残りの二人は、
隣のエリート附属中学。
しかも、
家は、
『イケメン君』が、
附属に断トツに近い。
昔だったら、おそらく、
『イケメン君』の家の二階から、
附属中が見えたんじゃないかな?
底辺不良中学の二年生だったのに、
『イケメン君』が、
受かりっこない英検二級に挑戦したのも、
そうせざる得無い立場だったのでは?
高校入試は、
もっと悲壮だった。
高校入試の直前に、
私は、
公開模試を受けに予備校へ行った。
その予備校は、
高校受験に失敗した人達が、
捲土重来を期すので人気だった。
昔の地方では、
高校へ行くのに、浪人したんだよ。
模擬試験を受けた後、
試験会場に居た底辺不良中学の生徒三人で、
トップ高を見に行った。
私と『イケメン君』と、
第八話で書いた『トップ合格宣言男』と。
その時に、
『イケメン君』は、私に、こう言った。
「俺は、
この高校に、【来年】入るから。
その時、お前は二年生に成っているだろうけど」
そう言われた私は、
「えっ!?
私立高校に受かったんじゃないの?」
正直に書くと、
この時、私は、
(コイツの成績では、トップ高は無理だろう)
と思っていた。
「入学金を納めなかったんだよ」
それを聞いた私は、
(スゲーな! 気合いが入っているな!)
と、
感心しただけだった。
私は、
私立高校を受験した事さえ無い。
って、言うか?
これを言われた時は、
受験という物を、一度も経験していなかったので、
『合格したのに、蹴る』とか、
想像だにしなかった。




