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『隣の奴』

 『隣の奴』は、

私に大怪我させられたのに、

私を嫌わなかった。


 中三の三学期、

私立高校の合格発表の日、

私が通っていた底辺不良中学では、

この『隣の奴』の話題で、持切りだった。


 落ちたのだ。


 偏差値が70くらい有るのに、

偏差値40でも入れる私立高校に。


 その私立高校を受験した連中の話に依ると、

集団面接で、やらかしたらしい。


 「こんな低レベルの私立高校に、

俺が入学する訳無いだろ!」


 露骨に、そんな態度だったのだそうだ。


 だから!! 他校の生徒の前で豹変するのは、止めて!!


 その合格発表の日に、

偶々、『隣の奴』を、学校で見掛けたので。


 話はズレるが、

昔は、

「イジメられたから!」

とか、

「高校入試に失敗したから!」

とか、

そんな些細な理由で、学校を休む事は、許され無い。

現在は、

甘やかし過ぎだろ?

そりゃ、日本が衰退国になるわな!


 話を戻すと。


 私は、

『隣の奴』を怒鳴り飛ばした。


 「お前! 何やってんだ!」


 (ふざけ過ぎだろ! あんな所、落ちるなんて!)

と、

思って。


 すると、

『隣の奴』は、

泣きながら、


 「△△(注、私の苗字)! 

俺の気持ちを理解ってくれるのは、お前だけだ!」


 何故? こんな優秀な人材が、底辺不良中学に居たのか?


 と言うと、

「落ち続けた」

のだそうだ。

隣の附属に。

地元の国立大学の附属幼稚園、附属小学校、附属中学校に。

そして、

ショボい私立高校までも落ちてしまったので、

最初に合格したのが、

トップ高だったのだそうだ。

でも、

それ以降は全勝して、

結局、コイツも早稲○大学ヘ行った。

まあ、

日本は【資本主義社会】だからね。

彼も、

出世とは無縁の人生を送った様だが。


 そのトップ高でも、また、『隣の奴』と一緒だったんだけど、

高三の時だったか?

彼に、こんな事を言われた。


 「雑魚と喧嘩するのは、大変なんだよ」


 コイツもね。

子供の時から、

低学歴正義教の方々に妬まれていて、

敵だらけだったのだろう。


 「雑魚は、急所を攻撃して来るから嫌なんだよ。

キン○マ守らなくちゃならないから」


 「その点、

お前みたいな大物が相手だと、

絶対に、卑怯な真似は、しないから」


 話はズレるが、

戦前の日本には、

【喧嘩の美学】が有った。

ルールを守れば、暴力はOKだったのだ。

それが、

敗戦後、アメリカから民主主義が持ち込まれ、

暴力は全否定されてしまった。

でも、

この頃は、まだ、戦前の価値観が残っていた。


 話を戻すと。


 「お前が相手なら、

顔さえガードして置けば済むから、楽なんだよ」


 それを言われた時は、複雑な気分だった。

確かに、

中一の時、

『隣の奴』は、

ボクシングの様に顔を両手でガードして、

防御に専念していた。

それを見たウルトラパーな私は、

(俺のパンチにガードは効かないぜ!)

と、

そのガードを狙った。

ガードの上から攻撃しても、

十分威力が有ると自惚れていたので。


 それでも、

『隣の奴』は、

大怪我をした。


 『隣の奴』の父親が、

「ここまで完膚なき程に叩きのめされるとは!

私の息子にも、何か? 悪い所が有ったに違いない」

と、

勘違いしてくれたんだけれど。


 昔の大人は小さかったからね。

『隣の奴』の父親は、

大人よりも背の高い中一生を見て、

そんな勘違いをしてくれるのだろうか?


 その他、

『隣の奴』には、

こうも言われた。


 「医学部を受けたら?」


 (えっ!? 

俺が、医者に相応しく無い人間だって事は、

お前が一番良く知ってるだろ?)


 この時は、

マイク○ソフト社が、

アメリカで起業して、三年目くらいだった。

日本では、

数学や物理の才能が、そこそこ有る若者は、

「医者になれ!」

と勧められていた。


 暴力被害者様御本人様からさえも。


 その事が、

【日本の発展を阻害する】と、

当時から言われていたが、

あの頃は、

まさか? 日本が、こんな悲惨な国に成るとは、

夢にも思っていなかった。



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