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第737話 従者達のひととき② ―S side―




姫様にさっさと行けと叱咤されて、わたくしとヒューバートは城下へと向かった。

賑わっている城下を目的なく歩き、ドキドキと煩い心臓をどうしようかと考える。

ちらりと見上げた彼の横顔。

その顔は笑みを浮かべていて…

勝手に熱くなる頬を手で押さえる。


「………」

「………な、何をお考えで……?」


わたくしの声にハッとしてヒューバートが見下ろしてくる。

その途端に彼の頬が赤らんでいく。


「えっ、いや、その……っ!」


ますます真っ赤になって取り乱す彼に、クスリと笑ってしまう。


「そ、ソフィー殿……」


ガックリと肩を落とす彼にますます笑みが込み上げてくる。


「ごほんっ」


何とか持ち直すためか、咳払いをするヒューバート。


「それで、何をお考えになっていたのですか?」


高鳴った胸の鼓動はそのままだったけれど、気持ち的には落ち着いた。


「いえ、あの……」


わたくしの顔を見ながら狼狽えていたけれど、徐々に落ち着いてきたのか、やはり真っ赤になったままだけれどわたくしと同じくいつも通りになれたのだろう。


「昔のランドルフ国とは随分と様変わりし、皆が笑顔で歩いている。本当に、ソフィア様は素晴らしい人だな、と」

「まぁ……わたくしといるのに姫様のことを考えていらしたんですか?」

「え!?」


冗談だったけれど、怒った顔でそう詰め寄れば、みるみるうちに真っ青になり慌てだした。

赤くなったり青くなったり、忙しい人だ。


「そ、それは主君として尊敬しているだけで! ソフィー殿はソフィア様とは全然違って!」

「そうですわね。わたくしは姫様の足もとにも及びませんし」

「そ、そういう意味ではなく!!」

「ではどういう意味ですか?」


必死になるヒューバートを内心可愛いと思いながら、怒った顔を作るのを止めない。


「ソフィア様は主君で、俺が膝を折るお方であって! 俺が、俺と並んで歩んで欲しいと願っているソフィー殿とは立ち位置が違――」


言葉を切ったと思えば、両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んでしまうヒューバート。


「お、俺は往来で何を……!!」


どうやら恥ずかしさがピークになったらしい。


「………つまりわたくしはヒューバート殿の恋人でいたままでよろしいと?」

「一生そのままですから!!」

「あら。つまりわたくしは生涯独り身でいなければならないと」

「はっ!? い、嫌ですよ! 俺の奥さんになっていただか、ない、と……」


気づいたときには遅く、ヒューバートは首まで真っ赤に染めて、往来にも関わらず膝を抱えて拗ねてしまった。


「………ソフィー殿が俺を虐める……」


なんだこの可愛い人は。

からかうだけのつもりだったのに、思いもよらないいい言葉を聞けた。

嬉しくて笑うことを止められない。


「………ソフィー殿?」

「すみません」


くすくす笑いながらヒューバートを立たせ、わたくし達は城下巡りを再開させた。


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