第736話 従者達のひととき ―S side―
「お待たせしてすみません!」
本日休日のヒューバートが、城門前で佇んでいたわたくしに駆け寄ってくる。
わたくしも本日は休みを貰い、せっかくなので何処かに出かけないかと先日誘われ、思わず固まったのが遠い日に思える。
通路のど真ん中で真っ赤になって固まっている2人が目撃され、更に姫様まで話が行き、随分からかわれた。
そんな恥ずかしい思いをしていたのだけれど、ヒューバートの私服を見ただけで何もかも吹き飛んでしまう。
「出ようと思ったらアルバートに捕まっ……て……………」
何故かヒューバートがわたくしの目の前で固まった。
首を傾げるも、ヒューバートは動かない。
………もしかしてわたくしの格好が可笑しい!?
慌てて俯いて確認するも、特に可笑しな所はない。
………ということは、似合ってない、とか!?
「あ、あの……」
「え!? あ! そ、その……! あの!」
あわあわと今度は慌て出すヒューバートに、わたくしはますます不安になる。
「あの……へ、変なところがあったのなら着替えて……」
「き、着替えなくていいですっ!!」
何故か顔を真っ赤にして力説された。
変じゃないのなら、どうしたのだろうか…
というか、ヒューバートはまた敬語になってしまっている。
『こいつまた自分の女に惚れてやんの』
スイッとわたくしの横を1人の精霊が通り過ぎた。
その後次々と精霊達が現れる。
『ホント、この人貴女のことが好きよねぇ』
『いいじゃない! 一途な男の人って素敵よねぇ!』
『オシャレしている彼女に見とれて、褒め言葉を忘れるなんて本当にヘタレだよねぇ』
『軽いよりかはいいんじゃない? 浮気者はダメダメよ~』
『そんな事言って、貴女の彼氏はダメダメ精霊じゃない』
『そんな事ないわよぉ』
くすくす周りを飛んでいく精霊達が、わたくしに聞こえるように話ながら通り過ぎていく。
姫様の周りの精霊の言葉は、姫様に聞こえないように究極精霊が止めているらしい。
けれどわたくしの場合はそんな力もなく、弱い精霊達からの言葉までもが聞こえてくる。
姫様の傍にいれば聞こえないのだけれど。
こうやって余計なことまで聞かされるのは、本意ではない。
そして、ヒューバートが慌てている理由も、真っ赤になっている理由も、察するのではなく、聞かされて分かるなんて。
わたくしの顔も赤くなっているのだろうか。
酷く熱い。
「そ、ソフィー殿? まさか熱が?」
「あ、ありませんっ! あ、あのっ……ヒューバート殿、と、とても…その……似合ってます…」
お忍び貴族、みたいに見えるシャツとパンツ姿で。
いつもきっちり騎士の制服を着ているのを見続けているせいか、少し着崩した格好をしたヒューバートを見ると、なんていうか、色気が凄い…!!
「なっ……ぅっ……」
更に真っ赤になるヒューバート。
何か返してくれないと、わたくしも恥ずかしすぎるんですけどっ!!
2人して固まってしまう。
「………あのさ…」
背後から声をかけられ、ハッと振り返ると、何故か姫様がいらっしゃった。
………姫様!?
腰に手を当てて、呆れた顔を向けられていた。
というか、まだ動く許可はもらってないのでは!?
「姫様、王女としてその格好はっ!」
「2人に呆れてるのよ。王宮に用事がある人が困るから、さっさとピンク色の空気をしまってデートでもなんでも行ってくれない?」
ハッと城門を振り返ると、注目されていた。
………ですよね!!
2人して更に真っ赤になってしまう。
この様子を見て、騎士が姫様に伝令を送ったのかもしれない。
「い、行ってまいります!!」
「はい、いってらっしゃい」
わたくし達は慌てて出発した。
「………私がラファエルとデート出来ないのに。なんで従者をさっさと送り出すように言ってくれ、と言われなきゃならないわけ? 嫌みにしか聞こえないんだけど」
姫様の恨みがましい声が聞こえ、思わず振り返ってしまったけれど、姫様はスタスタと王宮内へと戻って行っていた。
姫様へのお土産は絶対に買って帰ろう、と思いながらヒューバートの後を追った。




