第735話 バッドエンドになりません?
魔王が聖女を拘束。
そしてマジュ国の魔王の住み家とやらに連れ去られていった。
これで終わったと思いたい……
でも、なんだかんだであの聖女、しぶとそうだったからな…
けどあの聖女、清々しいほど瞬時に魔王に惚れたようだったから、ラファエルを手に入れようとすることはないかな…
あの騒動の後、私はラファエルに抱き上げられ、自室へと戻った。
ラファエルは聖女を牢から逃がした騎士らに、処罰を与えなければならないと言って、名残惜しそうに出て行った。
私は今またベッドに横にならざるを得ないから、何処にも行かないんだけどね。
「アマリリス」
「はい」
お茶を用意していたアマリリスに声をかけると、すぐに反応して近づいてくる。
「貴女の知識ではこれで終わり?」
「おそらく、と言わざるをえないですが、聖女にとってはバッドエンドで落ち着いたでしょう。あとは魔王がどういう処理をするのかも不明ですし。一生住み家から出さなければいいのですが…」
全く安心できる要素がない。
「けれど、あれはどのみちバッドエンドと言うより、聖女にとってはある意味ハッピーエンドなのでしょうかね」
「え?」
「魔王に惚れたようですし」
あ、やっぱりそう思う?
っていうか、あの時いなかったのに何故知っている。
「ま、幸せな気持ちのまま天に召されるのであれば、罰にはなりませんが、こちらにはもう関係ないのでいいのではないでしょうか?」
………そう、だよね?
私ももう忘れた方がいい、と言外に言われたようで、そっと頷いた。
「姫様にとってはラファエル様との愛の勝利ということで、ハッピーエンドでよろしいのではと」
「………まぁ…」
元々私がラファエルと婚約した時点で、私にとってのハッピーエンドには間違いないのだけれど……
「………ねぇ」
「はい」
「やっぱり『恋奪番外編~モブ物語~』っていうの出てそうじゃない?」
スン…と一気にアマリリスが真顔になった。
何故に!?
「寝言は寝て言って下さい」
「酷い!!」
最近アマリリスが繕わなくなってない!?
私主なんだけれども!?
「あ!!」
私が急に大声を出したものだから、アマリリスがビクッとなった。
「な、なんですか……」
「アマリリス、『恋奪1』のラファエルの番外編って覚えてない?」
「………………………………はい?」
何言ってんだこいつ、みたいな目で見るんじゃないわよ。
「………何故です?」
「ラファエルの物語だけ思い出せないのよ。どうでもいいレオナルド達の事は覚えてるのに」
「………どうでも……一応彼らはメインヒーローですよ……?」
「私にとってはラファエルだけがヒーローだから、本当にどうでもいいのよ」
どうでもいいといいながら、選択肢の言葉を一語一句違えずに暗記できているのよね。
それも不愉快だわ。
「今更聞いても意味なくないですか? テイラー国王女ともカイヨウ国王女とも、婚約してないのですから」
「ラファエルの国立て直しの具体的な内容を聞きたいんだけど……」
「それも必要ないですね。姫様が何倍も発展させてますから」
何故そんなに頑なに教えてくれないのだろうか。
ずっと気になったままなんだけど…
「ラファエル様のお耳に入ってしまえば、姫様がマズいことになると思いますが」
「え……」
「姫様のアイデアに比べたら月とすっぽんです」
アマリリスが真顔で言った言葉に、私も思わず真顔になってしまった。
「………もういいです…」
「はい」
私は大人しくアマリリスが煎れたお茶に口を付けたのだった。




