第733話 バッドエンドはいりません㉒
「余所事考えてるなんて余裕ね!!」
ラファエルに伝えることしか考えてなかった。
だからだろう。
聖女が私の足もとに魔物が出るように仕掛けたのに、気がつかなかった。
「「ソフィア様!!」」
「しま――っ!!」
また吹き飛ばされる!
そう瞬時に思って身構えた時だった。
ボコッと地面が盛り上がっただけで、そのまま辺りが静かになったのは。
「「………ぇ……?」」
奇しくも聖女と声が被った。
唖然と足もとを見続けてしまう。
てっきり土煙と共に舞い上がるだろうと思っていた私の身体は、その場に立っていた。
「な、何が起きて……」
聖女が焦り始める。
逆に此方にとってはチャンスだった。
私は聖女を捕らえるよう指示する為、オーフェスとヒューバートの方を見た。
その瞬間、聖女の背後にいた人物に目を見開いた。
「―――――――――――――」
相変わらず言葉は何を発しているのか分からない。
けれど、私の頭の中には響いていた。
『我が配下を我が物顔で使うな』
魔王が聖女の背後にいた。
冷たい瞳で背後から聖女を見下ろしている。
――怖い……
でも怯えちゃいけない。
けれど意思とは関係なく、勝手にガタガタと身体が震えてくる。
殺気、といえばいいのだろうか?
全身が寒気に襲われ、その場に座り込んでしまいそうだ。
「ソフィア様!」
ヒューバートが急いで駆け寄ってきてくれて、支えてくれる。
オーフェスは剣を向けたまま、ゆっくりと私の方まで後ろ向きで下がってきていた。
聖女はその私達を見て、ギギッとまるで油が切れた機械のようにぎこちなく背後を見た。
「~~~~~~!?」
その瞬間、声なき悲鳴を上げた。
恐怖で、と思うだろう。
けれど……
「きゃぁぁぁあああ!! 魔王!! シルエットだけでは分からなかった隠しキャラ!! うっわ!! 情報ではイケメンって聞いてたけどマジで超美形!! ヤバい!! ラファエルより断然こっちじゃない!!」
………歓喜の悲鳴だったようだ。
………イケメンなら何でもいいのだろうか…?
もう彼女の中には魔王しかおらず、今まで攻撃してきていた私達さえ忘れているようだった。
そして、間接的にこれはラファエルがフラれたと解釈していいのだろうか……?
もうラファエル取られるとか考えなくて済む……?
これからまとわりつかれるだろう魔王には悪いけれど。
「――――」
「え? なんて言ったの!? その美声で分かるように言って! その声で口説かれるとか最高なんだけど!!」
………気づけ……
気づいてくれ……
魔王からの殺気が強くなっていることに。
そして一応聖女なんだから、聖女らしい言葉遣いをして。
もう遅いけれども。
それでヒロインとか、ちょっと受け入れがたいかなと思うんだよね……
自分が害されることがなくなったせいか、客観的に見ている私。
チラッと魔王に『こいつをどうにかしろ』的な視線を向けられるけれど、私はその視線に応えない。
………だって、もう聖女に関わりたくないし。
その時スッと肩に手を置かれた。
「~~~っ!?」
ビクッとして慌てて背後を見る。
するといつの間にか来ていたラファエルの手が、私の肩に触れていた。
ラファエルの顔を見てホッとする。
「ラファエル……」
「遅くなってごめん。ソフィアの精霊から通信が来たと思ったらすぐに切れたから……心配した」
「ぁ……ご、ごめん…」
そうだ。
ラファエルに通信してもらおうとして、聖女によって攻撃を受けそうになったんだ。
「………で?」
怪訝そうにラファエルが魔王と聖女を見た。
「………なんか、聖女の異性への興味が、ラファエルから魔王に移ったみたい……」
「………なにそれ?」
「………よく分からない……」
取りあえず分からないフリをして、ラファエルと共に彼らのやり取りを眺めることとなった。




