第732話 バッドエンドはいりません㉑
庭園でお茶をしていたらラファエルから、精霊の力での通信があった。
罪人として捉えていた聖女が脱獄したという。
突っ込んでいいかしら…?
ランドルフ国の牢って、そんなに脱獄しやすいわけ?
これで2回目なんですけど。
ラファエルを責めるというより、牢番を責める案件だけれども。
そして脱獄犯が、私の目の前に立ち塞がるのも2回目なんですけれども?
「………やっぱり私、フラグ立ってない?」
「姫様」
現実逃避していたら、アマリリスに突っ込まれた。
「いや…ここまできたら、私が主人公のゲーム出来てそうじゃない? 『恋奪番外編~モブ物語~』みたいな」
「………なんですかそれ……」
呆れた顔を向けられた。
「………単純に姫様がラファエル様の婚約者様だから絡まれるのだと思われます」
「………いっそラファエルに整形してもらう? 普通の顔に」
「何バカなこと言ってるんですか」
「スミマセン」
ギロリとアマリリスに睨まれた。
酷くない?
私主!!
そんなことをアマリリスとボソボソと話していると、ボコッっと変な音がした。
「………ん?」
その方向を見れば、聖女の足もとの土が盛り上がっていた。
「………まさか……」
考えたくはないけれども、こんな所であの能力を発揮するつもり!?
私はバッと前に手を翳した。
と同時にドゴォォオオ!! っと一気に土の中から触手が!!
「って! 触手以外の魔物を召喚しないわけ!?」
ヌルヌルして気持ち悪いんだって!!
見た目も、感触も!!
「風精霊!!」
私の手の平からかまいたちみたいな風が飛び出していく。
「土精霊!! 土壁で花壇を守って!!」
花壇を囲っているレンガのような石の手前に数メートルある土壁が出来ていく。
「何なのよその力は!!」
聖女がキーッと頭をかきむしっている。
………もう取り繕うこともしないんだ。
………まぁ、お風呂なんて入ってないだろうしね。
「アマリリス!! フィーア!!」
アマリリスと共に私についていてくれていたフィーアにも声をかける。
「後方から王宮内に避難なさい!!」
「「っはい!!」」
足手まといだと分かっているから素直に立ち去ってくれるのが有り難い。
ここで「姫様が避難しないなら!」と残られたら困る。
私が守り切れるかどうかが分からないから。
「大人しく受けなさいよっ!!」
「受けるわけないでしょ!!」
オーフェスと共に今日の私の護衛担当だったヒューバートが、聖女に斬りかかろうとするも、触手に邪魔をされている。
『主。始末していいか』
『ダメ!!』
私の精霊達が怒気を放っている。
聖女の命を奪うと、告げてくるほどには。
『貴方達の力を、人の血で汚すわけにはいかない!!』
魔物だったら遠慮しない。
一種の偏見かもしれないけれど。
人は人の理で裁かれるべきだ。
そして精霊は精霊の理で。
『それにここで許可したら私刑になってしまう! 法の下で生きる人は、法によって裁かれなければいけないのっ!!』
それが道理であり、私やラファエルが守らねばならぬこと。
1度でも誤れば、もう私達に従う人はいなくなってしまう。
なんとか食い止めなければ!
「木精霊! 植物拘束!」
『はいっ!』
聖女の足もとから木の蔓が伸びるが、触手に引きちぎられる。
「っ……!」
あの触手をどうにかしなければいけないか。
「火精霊! 炎で触手を焼いて!!」
ボッと一斉に炎に飲まれる触手達。
「木精霊!!」
触手がいなくなった隙に再び木精霊に拘束してもらうようにするけれども、学習しているのか新たに出現した触手に防がれる。
最低限の食事しか与えられてない罪人に、まだそんな力が残っているのが不思議だ。
どうするか……
聖女を捕らえたときにいた騎士、もしくはラファエルとルイスが異変を感じて来てくれればまだ――
そこまで考えてハッとする。
『光精霊!! ラファエルに繋いで!!』
『はい』
オーフェスとヒューバートが触手をなぎ払い、それをすり抜けてくる触手は精霊達が防いでくれる。
そんな中、私はラファエルに繋いでくれるように願った。
お願い――通じてラファエル…!




