第727話 バッドエンドはいりません⑯ ―? side―
薄暗い通路。
その暗闇をものともしない人物が悠々と歩いて行く。
王宮の庭に出たところで、キンッと金属がぶつかり合う音がした。
「………ここをサンチェス国王女に与えられている、王女の許可無き者は立ち入れない庭園だと知って入ったのか」
鋭い声がする。
「………」
「答えろ」
何も答えない相手に、剣を向けている者――巡回騎士が更に剣を押しつける。
「待て!」
その巡回騎士に走り寄る騎士がいた。
「この方は――ラファエル様とソフィア様の客人だ」
「え!?」
走り寄ってきた騎士、オーフェスの言葉に巡回騎士が狼狽える。
2人の客人なら、相当上の階級の方だと察する。
「し、失礼しましたっ!!」
慌てて剣を収める。
そんな巡回騎士に、オーフェスは手を振り立ち去らせる。
充分に距離が空いたのを確認し、オーフェスは魔王に向き直った。
「失礼致しました」
「………」
「けれど、先程の者が言ったとおり、ここはソフィア様の大切な庭園です。許可無き者の立ち入りを許すわけにはまいりません。今回は良いとしても、例え魔王様であらせられても次はありません」
恐れもせず、キッパリとこの場に立ち入った魔王に告げるオーフェスは、怖いもの知らずだ。
けれどもソフィアに忠誠を誓っている彼は、ソフィア自身もさることながら、彼女の大切な場所へ許可無き者が立ち入るのを許すはずもない。
「~~~~~~~~~」
魔王が何か言うがオーフェスには理解することが出来なかった。
けれどもその鋭い視線を和らげはしない。
王宮へと戻るように手で示し、魔王が従うまでその体勢のまま動かない。
「~~~~~~~~~」
魔王が何を言おうが、その言葉を理解できなくとも、例え理解できたとしても譲らない。
その姿勢を目の当たりにした魔王は、諦めて元いた場所へ戻るために足を動かした。
それを動かずに見届けたオーフェスは、軽く息を吐いた。
「………まったく……厄介な御方を滞在させたものだ……」
主であるソフィアにも、そしてその婚約者であるラファエルにも、オーフェスは呆れていた。
魔王がこの国に滞在する理由が分からない。
罪人を必ず引き渡すように見張っているのか。
それとも何か別の目的があるのか……
おかげで気が抜けない。
オーフェスは頭痛がし、額を手で揉む。
「厄介ごとを持ち込むのは、いつものことか……」
半分諦めの領域に入っている。
サンチェス国にいたときから常にお転婆だったソフィアを思い出し、オーフェスは苦笑しながら庭園を見渡す。
異常は見られず、その場を立ち去った。




