第726話 バッドエンドはいりません⑮
ラファエルが研究室へ向かった。
私と同じく禁止令出されるかと思ったのに…
なんで私だけー!?
現在ベッドに座ったまま、チクチクと裁縫中だ。
プクッと頬を膨らませたのは1度や2度じゃない。
「姫様、一息入れますか?」
「………ん~………これ仕上げてからにする~……」
もうちょっとで完成する。
切りのいいところといえば、完成まで。
ちゃちゃっと終わらせよう。
そう言えば、アマリリスが完成のタイミングを計って、お茶を煎れてくれる。
「よし、出来た!」
パッと広げたのは真っ白なハンカチに、ラファエルのイニシャルを刺したもの。
シンプル故にそんなに時間がかからない。
朝からこれで3枚目。
黒地と青地と今回の白。
綺麗に折りたたんで置き、アマリリスが煎れてくれたお茶を口にする。
「そう言えば姫様」
「ん?」
「姫様自身のハンカチに刺繍は刺されないのですか?」
「………」
アマリリスの言葉に固まる。
………私用のハンカチ、ね…
「………? 姫様?」
「その場合、S・S、よね?」
「そうですね」
「でも、ラファエルに見られたら……」
「………ぁぁ……」
みなまで言わなくてもアマリリスは分かったみたいだった。
「間違いなく、責められるでしょうね……」
「そうなのよ……」
グッタリと肩を落とす。
ラファエルに見られたら最後、「なんでS・Rじゃないの!?」と責められるのだ。
まだ結婚してませんけれども!?
そんな事言えば、「ソフィアは俺と別れる気!?」となる。
正式に書類提出するまでは、私はソフィア・サンチェス・ランドルフと名乗っちゃダメなのに……
ラファエルは時々変なところを譲らない。
………ま、まぁ、嬉しいんだけどね。
それだけ私は望まれていると思えるから。
もちろん、普段……その……好きとか、か、可愛いとか、言ってくれるから分かってるんだけど……
………あー!
顔が赤くなる!!
考えるな私!!
「と、ところで、魔物の長って魔王でいいんだよね?」
「はい。ただ、ビジュアルはハッキリとは描かれてなかったので、顔は初めて見ましたが、見た瞬間分かりましたね」
あの時のことを思い出したのか、ぶるりとアマリリスが身体を震えさせた。
………この話題に触れなかった方が良かったか……
「でも、魔王はあの瘴気だらけの山から出ることはないはずなのですが……」
「………アマリリス」
「………ぁっ! す、すみませんっ!!」
ここはゲームじゃない。
そういう意味で嗜めるように名を呼ぶと、すぐに気付いてアマリリスは頭を下げる。
「性格も違うかもしれないから、本当に初対面の人、そう思って接しなさいね」
「心得ます」
アマリリスが頭を下げ、私は頷き、次の生地は何にしようかな……とベッドに並べている生地を見ていった。




