第722話 バッドエンドはいりません⑪
『拷問!?』
私はルイスが入室してきて、聖女の現状を聞いた。
すると、1月しかないからと、罰として騎士達に代わる代わるむち打ちの刑に処しているらしい。
思わず立ち上がってしまった。
いくら私に危害を加えたとしても、女――しかも召喚された異世界人に対して、それはやり過ぎでは、と思ってしまった。
こちらに召喚されただけで、こちらの世界のことを知らない。
おそらく、傷つけられたことさえないだろう。
そんな彼女が、堪えられるとは思えない。
可哀想、だからこんなことを思ったわけじゃない。
王族に手を出せば、それ以上に辛い刑罰が与えられる場合もある。
女だから、むち打ちですまされたのだろう。
「ソフィア」
咎められるような声でラファエルに呼ばれる。
『彼女は1月後に魔王に引き渡すのでしょう!?』
「そうだよ」
『だったら、彼女が生きていなきゃダメでしょ!?』
彼女自身のことより、魔王を万が一怒らせて、ランドルフ国に危害を加えられる方がダメだ。
………彼女の心配、ではなく、魔王からの報復を心配する私。
やっぱり私は聖女にはなれない。
こういう場合の私は、1国の王女としての考えしか出来ないのだ。
これが、私個人だけでの完結する刑ならば、他に思うことはあっただろうけれど。
「生きて引き渡せ、なんて言われてないけどなぁ」
『ラファエル!!』
ちっとも罪人を生きて渡す気がない風に言われる。
「確かにソフィア様に手を出した罪人を生かしておく必要はないですからね」
『ルイス!!』
「すみません」
便乗したルイスを睨む。
肩を竦ませて、ちっとも悪びれない風に詫びられる。
………こ、この2人は……
「冗談だよ」
『ちっともそんな風に見えないんだけど……』
「むしろ生ぬるいぐらいだよ。火あぶりっていうのもやってみたかったんだけど」
サラッと何言っちゃってるのこの人…
「ソフィアを直接害しているの見ちゃってるしね」
『………』
「ソフィア、あの時宙に飛ばされ、空中に舞うソフィアを見た時の俺の気持ち分かる?」
「………っ」
ラファエルに冷たい視線を向けられて息を詰める。
「あの高さから地面に叩きつけられたら、しかも頭部からだったら、間違いなく死んでたって自覚、ある?」
『ごめんなさい……』
精霊がいたから助かっただけに過ぎない。
私はなんの力も持たない、ひ弱な人間なのだから。
精霊に頼りっぱなしで、自分が強くなった気でいては、ダメなんだ。
「………本当は俺の手で八つ裂きにしたいぐらいなんだよ?」
『………ぅん。ごめんなさい…』
「だから、生かしておきたいなんてこれっぽっちも思えないんだよ。まぁ、1月後に生きてる姿を見れれば幸運だと思ってて」
ラファエルは何でもないような、むしろ聖女が死んでいればいい、みたいな感じだった。
私は何も言えず、そっと目を閉じた。




