第720話 バッドエンドはいりません⑨
ラファエルに部屋まで運んでもらった。
って言っても、私が頼んではいないのだけれど。
そっとソファーに座らせてくれる。
「さて……」
対面にラファエルが座ったと思えば、笑ってない瞳を向けられる。
ひぃ……!!
「なんで最初に食べるの止めなかったの」
………聞かれるけれど、私喋ったらダメなんだよね……?
キョロキョロと周りを見渡し、前回に喋られなかったときに使用していたタブレットみたいなものを持ってきてもらう。
『残す残さない、矜持とか関係なく、魔王の――他国王の前で食事を残すとか、ありえないでしょ』
「ソフィア」
咎められるような声で呼ばれ、私は微笑む。
『こっちは接待している側だしね。残せば自分がもてなされている料理は不味いんじゃないかと、思われるでしょ』
「………それは……」
ラファエルも納得したようなので、私は心の中でうんうんと満足した。
目に見えて嬉しそうにすると、嫌がらせされて喜んでるんじゃない、と怒られるかもしれないから。
「………はぁ。それでも他にやりようはあったでしょ」
『他に……?』
首を傾げるとため息をつかれる。
「侍女に袋を密かに用意してもらって、魔王が見てないときにその袋の中に入れてしまうとか」
『でも……』
「残す残さない、以前の問題でしょ。あんな味付けのもの食べ続けたら身体壊すし、毒が入ってたの分かってたでしょ!」
最後に怒鳴るように言われて肩を竦める。
『わ、分からなかった……』
「舌がピリッとしたでしょ!」
『全部辛かったりとか酸っぱかったりで……舌が麻痺して……』
どれだか分からなかったし……
………ぁ、そうだ…
『最後に食べた卵を口に入れたらピリッとしたかな……?』
「………そう」
またため息をつかれた。
………なんか、申し訳ない……
「あの毒は今解析してるから、きちんとした解毒剤が出来たら飲んでね」
『え、でも……なんともないよ……?』
「今はね」
………ぇ?
「遅効性の毒だよ多分。まぁ、舌が痺れてお腹を壊すぐらいの緩い毒だとは思うけど」
『………ぁ……ラファエルこそ解毒剤っ!』
「俺の方が毒耐性は持ってるよ」
『でも……』
「俺よりソフィアが心配。今問題なく座れてるから多分大丈夫だろうけど、激しく動かないでね」
『………分かった…』
ラファエルも心配だけれども、これ以上言ってもダメだろう。
大人しくする他なかった。




