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第716話 バッドエンドはいりません⑤




取りあえず宮廷の料理人に、今日の夕食は豪勢に、と伝えた。

いつもならアマリリスに私の食事を用意してもらい、ラファエルもアマリリスの食事が食べたいと言ったときには作ってもらっていたけれど…


「………さすがにアマリリスには荷が重いものね……」


チラッとアマリリスを見れば、ぶんぶんと力一杯首を振っていた。

………グギッといかないかハラハラするぐらいに……


「そうだね。アマリリスの食事は斬新だから」


私が好むから和食メインの食事は、さすがに魔王の言う豪勢な食事にはなり得ない。

やはり前の私が知っている洋食系統や中華といった方が、豪華に見えるのだ。

和食系は食材が今のところ限られているし、家畜が食べる餌と知られている穀物を出して怒り狂われても困る。


「でもこれでちょっとは王宮料理人も溜飲が下がるんじゃないかな」


面白そうに笑うラファエルだけれども、私は笑えない。


「いくらラファエルが許可しているとはいえ、アマリリスは厨房で冷ややかな空気に晒されているのよ……?」


私の食事はアマリリスの作るものが身体に合うから、と言っているからともかく、ラファエルは今まで王宮料理人が作った食事を食べていた。

そのラファエルが身体に合わない、と言っても説得力はない。

だからラファエルがアマリリスの食事を求めると、いい気がしないのは理解できる。


「仕方ないじゃないか。ソフィアと同じ物を食べたいんだから」

「う……っ」


こ、ここでそういう言葉入れてくるの止めて欲しいな!

なんか恥ずかしくなるのは何故だ!


「アマリリスの食事が美味しいのも事実だけど、質素に見える料理を食べるソフィアの前で、俺が豪勢に見える食事を取ってるところを見られてごらん。ソフィアが冷遇されていると思われるじゃないか」

「それは無いでしょ」


思わず即答してしまった。

だって、ラファエルと食事をするのは、王族が食事を取る大食堂ではない。

いつだって私の部屋なのだ。

これも可笑しな話だけれど。

使用人が壁際にズラリと並び、テーブルの端と端に座って会話もままならない大食堂でなど、1度も使用した経験がないのだ。


「王宮の使用人が私とラファエルの食事風景を見ていないから、冷遇されているなんて思うはずがないし」

「でも食事を作っている厨房から、使用人に噂で広まっていないとは限らないじゃないか」


ラファエルの言葉に、思わず半目になってしまう。


「………それ、余計なこと言った料理人の首が跳ねていく結果に繋がるのでは……?」

「うん。当然でしょ?」


何を当たり前のことを、と言いたげな顔で首を傾げないで。

それが分かっているから、料理人は口を噤んでいるだけだと思う。


「きっと張り切ってるだろうね」

「………そうね」


余計なことは言うまい……

私はそっとため息をついた。


「アマリリス、消化の良いお茶はお願いね」

「心得ております」


サンチェス国の料理より、ランドルフ国の料理の方が私の味覚好みに近い。

けれども全く味の濃いものが出てこない、とは言えないのだ。

サンチェス国の王女として食事を残すことはありえないから、味の濃いものを全て食べる必要もあるだろう。


「残しても良いんだよ?」

「それはあり得ないから」


ラファエルの気遣いも有り難くも断らせてもらう。


「サンチェス国の王女としてもだけど、目の前で残った食事を見るのも私自身が嫌なの」

「ソフィアらしいね」


ラファエルに微笑まれ、私は苦笑する。

私の性格はラファエルにもう熟知されている証拠だ。

嬉しくもあり、恥ずかしくもある。

私は立ち上がったラファエルに手を差し出され、それに応えてラファエルの手に自分のを乗せて立ち上がる。


「魔王はいなくなったし、仮眠室で少し横になってて。俺は仕事の続きをするから」

「ラファエルが働いてるのに私が眠るなんて……」


私よりラファエルの方が休むべきだと思う。

私はガイアス・マジュに回復魔法をかけてもらっているから、精霊の力を使った反動は少なくなっているのに。


「休まないと、休めるようにキスの嵐の刑だね。俺としてはそっちの方がいい――」

「おやすみなさいっ!!」


ラファエルが言い終える前に私は仮眠室へ駆け込んだ。

背後から可笑しそうに笑うラファエルの声を聞きながら、私は扉を閉めたのだった。


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