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第714話 バッドエンドはいりません③




「………なに、これ……」


バタバタと走ってくる音がして、バンッと扉が勢いよく開いた。

走っていたのも、勢いよく扉を開けたのも、ラファエルだった。

私は魔王に解放された後、話をする、と魔王が了承したため、対面に座っている。

すぐに騎士にラファエルの元へ行ってもらった。

伝令を受け取ったラファエルは、急いで戻ってきてくれたのだろう。

背後にルイスがいないため、聖女の方はルイスが担当しているのだろう。

苦笑いしながらラファエルを見つめる。

暫く固まっていたラファエルは、ハッとして私の隣へと移動し、座った。


「―――――――――――――」

『待ちくたびれたぞ人間の王子』

「………え?」


ラファエルが頭を押さえる。

どうやらラファエルの頭の中にも魔王の声が響いているらしい。

私の頭の中にも聞こえている。

他の人達には聞こえてないようだけれど。


「あ、失礼しました。ランドルフ国王太子、ラファエル・ランドルフです」

「サンチェス国王女、ソフィア・サンチェスです」

『我は魔王と呼ばれている。名はない』


好きに呼べ、という魔王は、先程までの殺気みたいな雰囲気は一切ない。

怖くなければ、普通の男性、っていう感じだ。

………いや、イケメンだから普通じゃないわ。


『早速だが、我の配下を我が物顔で使い、死なせた人間の引き渡しを望む』

「マジュ国の聖女と呼ばれる者は、私達にも危害を加えました。従って、我々の方も裁く立場です。簡単に引き渡しなど出来ません」


ラファエルは魔王に対しても怯まなかった。


『被害はこちらの方が甚大だ。他ならぬ、お前達のせいでな』


スッと魔王が目を細めた。

私は息を飲み、心持ちラファエルの方へ寄りかかる。

王女としては毅然としていなきゃいけないのに、さっきの魔王を思い出してしまい、怖かった。


「私達も命がかかってましたからね。暴走したマモノを止められなかった、貴方にも責任があるのでは?」

『………』

「………」


ラファエルと魔王が睨み合う。

ぅぅ……怖い……


「襲ってきたマモノを全滅させたのは、確かに私達です。我々にとっての民を貴方に皆殺しにさせられた、ようなものです。その点だけは申し訳なく思います。けれど暴走の原因は聖女、そして御せなかった貴方の責任」

『………』

「聖女の力より、貴方の力が弱かったんですかね」

「ら、ラファエル!?」


喧嘩腰になっているラファエルに、私はギョッとする。

魔王が怒っちゃったらどうするのー!?


『フンッ』


魔王が鼻で笑った。

不愉快にさせた!?


『確かにな』

「………ぇ……」


ラファエルの言葉に頷いた魔王に、キョトンとしてしまう。


『あの時我は住み家で封印されていたからな。配下を御せなかったのだ』

「封印……ですか?」

『ある一定の期間経過しなければ解けない封印だった。約200年、ってところか。目覚めて異変を感じ住処を出たときには既にお前たちの攻撃が発動していた。止めるまもなく全滅したのだ』

「………封印ということは、何か人間に恨みでも買ったのですか?」


ラファエル直接的すぎるよ!?


『いや? 魔物は危険だというだけだな』


そ、れは……理不尽極まりない…

運営、だからストーリーの作り込み甘過ぎなんだって……


『魔物といえども色々なものがいる。瘴気が漂う山から出て行くものもいるのだ。人を襲う魔物は人に退治されても致し方ない。それは自然の摂理だ』

「……因果応報って事ですね」

「いん……なにそれ?」

「え? あ…えっと……簡単に言えば、良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが、自分に返ってくる。人を襲った魔物は人に襲われる。魔物を襲った人間は魔物に襲われる、自業自得ってこと」

「成る程ね」


ラファエルどころか、魔王にも頷かれる。


『山から出た魔物は自己責任にしてある。我が管理するのは我らが住み家のみ。だが、今回は人間を襲ってもいない魔物、つまり静かに暮らしていた魔物を無理矢理操って人を襲わせた。個々の意思ではない事をやらされて殺されたのだ。これは自然の摂理などではない』


魔王の言葉に私とラファエルは頷いた。

納得できる理由だ。


『我が目覚める前の出来事だが、到底許すことは出来ない』


魔王の言葉は正当で、私はラファエルがどうするのか気になり、そっと見上げた。


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