第709話 マジュ国⑭
比較的大きな攻撃が辺りに一斉に広がった。
それから音がなくなり、風精霊が風を使って周りに盛大に広がっている、戦闘での土煙やら攻撃の名残の煙を一斉に散開させた。
見渡す限りの焼け野原、そしてあちこちにクレーターが出来ている。
激しい戦いの跡を残す場所ではあるけれど、周りに魔物の1匹もいなくなっていることを確認。
「うぉぉおおおおお!!」と一斉に魔導師達が声を上げた。
喜び、泣き、その場に崩れ落ちる者まで。
それを他人事のように見ていたけれど、精霊達が次々に私の中へと戻ってきた瞬間に、足もとが崩れるような感覚がした。
「ソフィア!!」
ガッと強い力で支えられ、倒れ込むのを防いでくれた。
地面が崩れたのではなく、自分の足に力が入らずに、倒れ込みそうになっていたと気付く。
………凄く……眠い……
「ソフィア? ソフィア!」
何度もラファエルに呼びかけられる。
口を開いて名を呼ぼうとしても、口が重くて動かない。
瞼も重い……
だめ……
ラファエルが……心配……する……
ギリッと唇を噛む。
目を覚ますように。
つ……と何かが顎を伝った感触がする。
「………ラファエル……」
おかげで目が覚めたように、重かった瞼も、重かった口も開ける。
「ソフィア……ごめん、無理しないで」
クイッと顎をラファエルに触れられ、その手が離れるとラファエルの指が赤く染まっていた。
「っ……ラファエル、怪我を……?」
「とぼけてる場合じゃないでしょ」
何故か苦笑される。
「ソフィアが力一杯唇を噛むから、怪我したんだよ」
ラファエルの指についているのは私の血なのか…
ラファエルが怪我したんじゃなくて良かった。
「ガイアス殿! ソフィアの治療を!」
「任せて!」
「え……」
私は有無を言わさずガイアス・マジュに治療魔法をかけられる。
怠かった身体が、徐々に回復していく。
………ぁぁ……これは慣れたら絶対にダメなやつだって、改めてそう思った。
ポカポカしてくる身体。
暫くしてガイアス・マジュが離れ、私は自分の力で立てるようにまでなった。
「相変わらず不思議だよねマホウって」
ラファエルが感心する。
ガイアス・マジュを嫌っていようが、素直に認められるラファエルは凄い。
「応急処置ですが……恥ずかしながら、魔力がもう残っていなくて……申し訳ない……」
「いえ。ありがとうございます」
………無表情でお礼は怖いよラファエル……
「それよりラファエルは大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。これでもソフィアより鍛えてるんだから」
「それはそうですけど…」
ラファエルが鍛えているのなんて、分かりきってる。
「とにかく、これで解決したね。マモノがここにいない以上、俺達にもう用はない」
「え!?」
「帰るよソフィア」
この場合の「帰る」は、もしかしなくてもランドルフ国へ、ということだろう。
「待ってくださいラファエル殿!!」
引き留めるガイアス・マジュの言葉は無視して、スタスタと歩いて行くラファエル。
それに引っ張られている私も当然その場から離れて行く。
追いかけてくるガイアス・マジュは騎士に阻まれ、追ってくることが出来なかった。




