第706話 マジュ国⑪
火精霊に勘で上空を飛んでもらっていた。
なにしろ私達に魔物を感知することなど出来ないからだ。
リーリエ王女か常識ある魔導士を借りれば良かった。
ランドルフ国に来てくれていたヨウフとかミュールとか。
さっさと魔物を殲滅してランドルフ国に帰るためにも、早く場所が分かった方がいいのだけれど…
『主』
火精霊に呼びかけられて顔を上げる。
「どうしたの?」
『前方に戦闘らしき煙が見える』
「え……?」
私は身を乗り出し、急にそんな態勢になった私に慌ててラファエルが腰を抱く力を強めた。
「ソフィア!? 危ないよ!」
「あ、ごめん」
謝りながら目を凝らすことを止めなかった。
確かに遙か先で灰色っぽい、雲の色にそっくりで区別はつきにくいけれど、不自然な煙が出ている。
火精霊は目がいいね。
「ラファエル、多分あそこで戦闘中!」
前方を指差してラファエルを見上げる。
「ホント!?」
ラファエルも私を抱いたまま少し身を乗り出す。
「火精霊! 急いで!」
『………分かった』
火精霊の移動速度が速まり、私達は戦闘をしているだろう場所へと短時間で辿り着いた。
火精霊の言っていた通り、その場は酷い戦場となっていた。
私が聖女と対峙して戦った魔物の数より、ランドルフ国やサンチェス国で戦った魔物の数より遙かに多かった。
「これは……」
地上は魔物で黒く塗りつぶされているように見える。
地面の色なんて見えやしない。
「目算でかるく1万以上はいると思います」
騎士が申告してくれるけど、聞きたくなかったかな!
「ソフィア、あそこ」
「え……?」
ラファエルが指差した場所。
そこには、先頭で指揮を取っているガイアス・マジュが――
「ガイアス王太子!?」
マジュ国へついた途端に、一目散にいなくなっていたマジュ国王太子が、最前線で戦っていた。
「………成る程ね。まぁ、各地に散らばっているマモノより、最前線が最優先。目的地はここだったのか」
どうやらラファエル的には納得だったらしい。
「………間違ってはいないけど、一言言おうよ」
………まぁ、うん。
そうだね…
って、こんな所で話している場合じゃない。
ガイアス・マジュ含め、魔導士達が魔物に食らいつかれようとしている。
突破されるのは時間の問題だろう。
「オーフェス! ヒューバート! アルバート! ジェラルド!」
「「「「行きます!」」」」
バッと、なんのためらいもなく、比較的高度を下げていたけれども飛び降りていった。
「君達もだよ!」
「はい!」
ラファエルの騎士達も飛び降りていった。
何匹かの魔物を下敷きにして、無事に着地できてるみたいだけれど。
「究極精霊の半数は人型で加勢! もう半分は姿隠して上空旋回!」
『『『『了』』』』
『『『『はい!』』』』
私の言葉に従って、精霊達が出て行く。
「ソフィア、体力は?」
「まだ元気!」
「じゃ、行こうか」
ラファエルと共に私も戦闘に参加するために、ラファエルに抱かれたまま火精霊から飛び降りた。
勿論、風精霊に着地寸前で減速してもらいましたとも。




