第702話 マジュ国⑨
「リーリエ王女!」
私はラファエルに抱きかかえられたまま、運ばれております。
なんだこの羞恥プレイ……
何事かと皆に注目されている…
リーリエ王女は怪我人全てを治療し終えていたようで、座って休んでいた。
「まぁ!? ソフィア王女!」
………私を王女と呼ばないで……
「この怪我は!?」
「あの者に負わせられたのだ」
ラファエルは何も隠さずに顎で後方を示した。
その場にはラファエルの騎士に拘束されている聖女がいる。
「まさか……聖女が!?」
リーリエ王女は声を落とそうともせずに叫ぶ。
………いいのかそれで。
内密にした方が良いんじゃないかな……?
「あの者がマモノを操り、ソフィアを攫って怪我を負わせたのだ」
………ラファエルも隠そうとしない…
というか、聖女とも呼ぼうとしない…
「すぐに治療いたします!!」
リーリエ王女が回復魔法を使ってくれ、私の身体の怪我も痛みもなくなっていく。
「………凄いですわ……」
改めて便利な魔法だと思う。
この便利さに慣れてしまったら、すぐに治療してもらおうと思ってしまうかも。
怪我は自然に治すもの。
自分に言い聞かせておかないと。
便利さと自分の身体の頑丈さ。
どちらかをと言われたら、私は後者を選ぶ。
だって、ずっとマジュ国の者が近くにいるわけでもないし、自分の耐性も無くなっちゃう。
治癒力が衰えるのもよくないし。
免疫力無くなっちゃったら、毒耐性も無くなっちゃったら困る。
………実際、私狙われやすいみたいだし…
身体も強くなきゃ、すぐに命を落としてしまうかもしれない。
「ありがとうございます」
治療が終われば、私はリーリエ王女にお礼を言う。
「いえ……ご迷惑をおかけしましたわ。これから城へ行こうと話してたんです」
「城、ですか?」
「はい。この者達も住むところがすぐに見つかる保証はありませんので、一先ずは保護をと」
「そうですね……」
辺りを見渡せば、去る前と何も変わってはいない。
復旧には時間がかかるだろう。
「建造物に特化した魔導士も城にいますし、順次直していこうと」
「建造物に特化した?」
「はい。土や木の魔法が得意な魔導士主導の下に、復旧作業をするのです」
成る程。
私が土精霊や木精霊に頼むようなことがやれる人間がいるんだ。
いいね。
それなら民も早い段階で戻ってこられるのだろう。
「罪人のことも王に報告しなければなりませんし」
チラッとリーリエ王女は聖女を見る。
私達の話を疑ったりしないんだ……
ちょっと意外だな。
良く思っていなかろうとも、相手はこの国にとって大切なことには変わらないから、保留するのかと思ったのに。
庇うことはしないだろうけれど。
それはリーリエ王女だからかもしれないけどね。
ガイアス・マジュは庇いそうだ。
「では皆さん、少し歩きますが、頑張って城まで行きましょう」
リーリエ王女の言葉に民は素直に動き出す。
それを見てて思った。
――子供の数が少ない…と。
「………リーリエ王女。子供が少ない気がしますが……」
「………ああ、元々このくらいの数です。なかなか生まれなく…」
ガイアス・マジュが言っていたことと一致する。
やはり子が出来にくいのだろう。
「そうなんだ。なら、死者はいないのかな?」
ラファエルがリーリエ王女に聞くと、彼女は頷いた。
「はい。幸いなことに」
嬉しそうに笑うリーリエ王女に笑い返し、私達は足を動かした。
ちなみに、私は未だにラファエルに抱きかかえられたまま。
恨めしく見つめると、良い笑顔が返ってきたので諦めました。




