第701話 マジュ国⑧
聖女・アイが拘束された。
私はラファエルに抱きかかえられ、火精霊の背へと。
騎士は私の騎士だけ火精霊に乗り、ラファエルの騎士はラファエルの精霊のレッドの背に罪人となった聖女と乗った。
そしてリーリエ王女の元へと向かった。
火精霊が高速で飛ぶけれど、風精霊が風で身を守ってくれているから、私の怪我に響かず助かった。
「ソフィア、もう少し待ってね……痛いだろうけど……」
「大丈夫だよラファエル。大袈裟なんだから」
「いや、大怪我だからね!? 王女のソフィア本人が軽くみちゃダメだからね!?」
そりゃ打撲は多いだろうけど、血が噴き出てるわけじゃないし……
あえて言うならさっき自分で転んだときに出来た擦り傷から血が出てるけど……
うんうん、と頷いているんじゃない私の騎士らよ。
まるで私がダメっ子みたいじゃない。
「リーリエ王女の力がまだ残ってたら、治してもらえると思うから」
「でも、リーリエ王女は自国民の治療を優先させなきゃ。王族って言っても、私はマジュ国と同盟を結んでいる国の王族じゃないし……」
「………そうだけど…」
そもそも、王族といえども優先して治療しろ、なんて言いたくないし…
何処の悪人貴族だよ、っていう…
順番に並んで、治療してもらうなら分かるけど。
………まぁ、王族が並んでたら、平民が譲っちゃうかもしれないけどね…
「とにかく、急がなきゃ。罪人もいることだしね」
ラファエルは前を向き、聖女を一瞥もせずに言い放った。
………ぁぁ……怒ってる……
「………今度は守るって約束、果たせなくてごめん……」
ポツリと呟いたラファエルに目を見開く。
………ぁぁ……そうか……
ラファエルが怒っているのは、自分に対してもなんだ……
「ラファエルのせいじゃないよ。元々は、警戒してなかった私のせいだもの」
「それは俺の怠慢の免罪にはならないよ」
………怠慢って……
「ラファエルはちゃんと助けようとしてくれてたもの。ラファエル達も拘束されてたんだし、自分を責めないで」
「………ソフィア……」
泣きそうな顔で見下ろされる。
「………俺のソフィアが優しすぎる……」
「え……」
ギュッと、でも傷に障らないように抱きしめられる。
「ちょ、ラファエル!」
人目があるから!!
私の騎士だけじゃなくて、ラファエルの騎士もいるから!!
自重して!!
「ねぇソフィア」
「な、なに?」
少し離れて私を見つめてくる。
ち、近いっ!!
顔が火照るから止めて!?
「物理的に繋がっていようか」
「何処をどう突っ込めばいいのか分からない言動は止めてくれる?」
一気に冷めましたとも。
真剣な顔で何を言ってるのだろうか。
「ロープ用意するよ」
「圧迫しそうだから嫌だ」
私は全力で拒否した。
四六時中ロープで繋がっている婚約者ってどうなの。
「多分魔物の大量発生の原因は拘束したんだから、取りあえずその案はなしで」
「………チッ」
久々本気の舌打ち。
怖いから止めて欲しい。
『主、着いたぞ』
火精霊の言葉に下を見れば、リーリエ王女達と別れた所だった。
マジュ国の民を驚かせないように、少し離れたところに降りてもらい、私達は歩いて向かった。




