第699話 マジュ国⑥
バシンッバシンッと風精霊の作った風の壁に、触手が絶えず振り下ろされる。
その向こうに怖い顔をしたマジュ国の聖女がいる。
彼女は私と同じ転生――いや、召喚された恋奪を知っている人間。
自分がヒロインで、何をやってもゲーム補正が自分を味方すると信じているのだろう。
だから、こんな事が出来る。
………っていうか、聖女の力って、魔物を消す力じゃなかったわけ?
なんで魔物だと思われる触手を操っているの……?
「このっ!」
ガンッと、触手の攻撃ではないような音がした。
見ると、触手がその辺にある石――いや、もはや岩、を風の壁にぶつけている。
ちょ、ちょっとっ!?
風精霊の風の壁があると安心しきっていた私は、動揺してしまう。
『ら、雷精霊!!』
ピシャンッと空から雷が落ち、触手を次々と消していく。
「何なのよアンタ!! ただのモブのくせにっ! マジュ国の者でもないくせに!! 何なのよその力はっ!!」
精霊の力です。
とは言えない。
王以外は本来知るはずのないことだから。
「………こちらもお聞きしたいことがあります。何故貴女は聖女と呼ばれているのに、魔物を操れるのですか」
「はぁ?」
「本来、貴女の力は困っているマジュ国の助けとなる、つまり魔物を消滅させる力だったはずです」
「あははははっ!」
………何故か笑われてしまった。
………え?
聖女の力って、そういう事じゃないの?
「さすがモブね! 何にも知らないんだから!」
………勝ち誇ったような顔はカチンとくるわね。
「聖女の力は魔物に語りかけ、本来あるべき場所へと戻ってもらう、つまり説得する力もあるのよ」
………つまり?
「語りかけても全く応えない魔物には、消滅してもらうけどね!」
………ファンタジーでいうテイマーみたいなもの?
魔物との意思疎通できる、ということは。
なんか違うような気もするけれど。
「だから、私の味方をして悪いやつをやっつけてって言えば、この通りよ! あははははっ!」
「………」
「魔物を操れる私、消滅させられる私! 男が寄ってこないわけがないでしょ? 1番欲しいラファエルだって、私を見るわ! ………そのはずだったのに」
ギロリと血走った目で睨まれた。
「アンタは邪魔なのよ。アンタがいるからラファエルは私を見ないんでしょ? だから私がラファエルを誑かすアンタを消してあげるわ!」
………楽しそうでなにより、と言いたい――わけがない。
勝手な理由で消されたら堪ったものではない。
なにより……
「………ラファエルを………物扱いするな!!」
感情が制御できなかった。
冷静でいられるように、心を落ち着かせようとしたのに……
ドーーンッ!! っと辺り一面に爆音が響き、土埃で何も見えなくなった。




