第698話 マジュ国⑤
ドスンッ!!
「いっ――!?」
思いっきり地面に叩きつけられた。
息が詰まり、ぷるぷると震え、暫く動けなかった。
動けるようになってようやく周りを見回す余裕が出来る。
「………ここ……」
起き上がって、改めて周りを見る。
廃村、と言えばいいのだろうか?
木片ばかり散らばって、その上に辛うじて屋根などが残っているのが見える。
放置されて大分経ってるのかな……?
つぅ……と木片に触れてみれば、ボロボロと落ちてしまう。
うにゃうにゃとうねる物が視界に入ってくる。
べちんっべちんっと、私に伸びてくるけれど、風精霊が作ってくれた風の壁に阻まれている。
精霊達が間に合ってくれて良かった。
………ぅぅっ……気持ち悪い…
ぬめりがある長い生き物は、触手という表現が1番しっくりくる。
おかげさまで私の服がぬめぬめして気持ち悪い。
せっかくラファエルの専属騎士の制服に似せて作ったのに!
「服の恨みは恐ろしいんだからね! 火精霊――はいないんだった」
火精霊はラファエル達と共にあの場所に拘束されてたから。
あれも触手だったと思う。
「雷精霊! 黒焦げにしちゃって!」
『畏まり』
ピシャンッと数匹(?)いる触手の全てに落ちた。
まるで避雷針のように。
黒焦げになったと思えば消えていった。
………あの触手も魔物だったのかな……?
ここが縄張りだった……?
でも、遙か上空、それも離れた位置にいた私を何故攫ってきたの……?
この場に私に用がある人がいると思ったんだけど……
ゆっくりと立ち上がる。
………取りあえず、火精霊の迎えが来るまで周辺を……
私は微かに、自分以外が歩いている足音を拾った。
その場を動かず、風精霊に風の壁を維持してもらったまま、その場に立ったまま待った。
暫く待っていると、ハッキリ足音が聞こえ、視界に入ってきた人物。
「……… で……」
ぁぁ、やっぱり……と思ってしまった。
私の前に姿を現した人は、私が会いたくなかった人物だ。
「………なんでお前がここにいる……」
「………ここにいた魔物達に連れて来られただけよ。逆に私が聞きたいわよ」
「黙れ!!」
………怒鳴られてしまった。
聞かれたことに答えただけなのに。
「私はラファエルを連れてこいと命じただけよ!」
その言葉だけでいくつか解決した。
私の連れ去りは間違いだったこと。
ラファエルを誘拐したがっていたこと。
――そして相手は魔物を操れるってこと!
私は大丈夫だと思いつつ、その場にしゃがみ込んで頭を腕で庇った。
その瞬間ガンッと風の壁に何かが当たった。
そっと見てみると、死角から触手が攻撃したようだった。
まだ残っていた…?
………それとも……
私は改めて相手を見た。
「死ねっ!!」
手の平を向けてきたと思えば、相手の足もとの土の中からもこもこと触手が次々と生まれていた。
まさかの触手召喚が出来る相手だった。
「貴女の思い通りにはさせないわよ! 聖女・アイ!」
私の前にいたのは、聖女として召喚された異世界の、そして恋奪2のヒロインだった。
聖女の力って魔物を操ることが出来るわけ!?
訳が分からないまま、私は彼女の攻撃を見つめていた。
防御は精霊にお任せします。




