第697話 マジュ国④
暫くマジュ国上空を火精霊に飛んでもらっていると、ゾクッと悪寒が走った。
思わずラファエルにしがみつく力を強くしてしまう。
「ソフィア?」
顔を覗き込まれるけれど、すぐには反応できなかった。
自然とカタカタと身体が震える。
「ソフィア! どうしたの!」
ギュッとラファエルに抱き込まれる。
その体温に、ホッと息を吐く。
「な、んか……寒気がしたの……なんか、誰かに殺気を向けられている……というか……嫌な気配、というか……」
私の言葉に全員が警戒態勢に入った。
ラファエルがジッと地上を見つめる。
「………マモノの気配?」
「たぶん、違うと思う……私には魔物の気配を感じることは出来ないし……」
「じゃあ、ソフィアの中の精霊かな?」
私は話しかけたけれど、全員が否と答える。
「私の精霊は出払っているけど、みんな何も感じないって……」
「………そう。こっちも何も感じてない」
私も地上に少し乗り出す感じて視線を向ける。
勿論ラファエルに支えてもらっている。
「………なんか、あっちの方からした気が……」
指差しながら言えば、その先に何か靄がかかっていた。
「………何……? あの黒い霧みたいな……靄みたいな煙……」
「え? どこ?」
「あそこ」
手を目一杯伸ばして示す。
けれど、全員が首を傾げた。
………ぇ?
「ごめんソフィア。見えない……」
「そんな……」
目をこらさずともハッキリと見えている。
指差した方向の地上から空へ向かって広範囲で上がっているのに。
………私にしか見えていない……?
【――――ぃ】
「………ぇ」
何か声みたいなのが聞こえた気がする。
耳を澄ます。
【―――ぇ】
やっぱり何か聞こえ――
「ソフィア!!」
「ぇ――」
声に気を取られ、私は自分の周囲を警戒していなかった。
シュルリと何かに腰を絡め取られたと思えば、グンッと一気に引っ張られた。
ラファエルが抱きしめる力を強め、更に騎士が手を伸ばしてくれたけれど、私の身体はそれ以上の力で引っ張られ、火精霊の背から引き離された。
ラファエルと騎士は別の何かに絡め取られ、身動きが出来ないようだった。
「ぐぇっ……!」
淑女?
何それ?
っていう感じで、構ってはいられない。
腹部を凄い力で締められれば、当然吐き気が相当なのよっ!
引っ張られるまま私は地上に向かっていく。
その方向は、あの黒い煙が立ちこめているところだった。
………あ、これ私目当ての騒動だ。
と何処か他人事のように思った。
これはシナリオなの?
イレギュラーなの?
分からぬまま、そして届かないと分かっているのに、ラファエルに向かって手を伸ばしたまま、私は引っ張られていった。
腹部の圧迫に気が遠くなりそうになりながらも、散開している精霊達に集合するよう通達できたことは、幸いだと思いたい。




