第696話 マジュ国③
雷精霊の放った雷で、辺りは生き物が焦げたような匂いが充満している。
死すれば消えてしまう魔物なのに、匂いや攻撃されたときの痛みはあるっていうのも、可笑しな話だ。
こんな事を体験していれば、マジュ国には冒険者がいたり、ダンジョンがあっても不思議ではないな…
あればますます――……
私は遠い目をしてしまった。
アマリリスの言葉が思い出される。
確か5まで恋奪は出ていて、迷走しているんだった……
ここに来て冒険者やダンジョンが出てきても、ビックリより、ぁぁ…やっぱり……と思ってしまうだろう。
「ソフィア?」
「ぁ、なんでもない」
覗き込んでくるラファエルの顔が心配そうで。
私は知らぬうちに百面相でもしていたのだろう。
微笑んで誤魔化した。
あったらあったでいいや…と思っておこう。
「ホントに?」
「ガイアス殿下は何処にいるのだろうって考えてただけだから」
それっぽい言葉を言ってみる。
効果あるかは五分五分だけれど…
「………ぁぁ……」
ラファエルが1つ頷いた。
どうやら信じてくれたらしい。
「魔物に囲まれて怪我してなきゃいいけど…」
「それはそれで自業自得だからいいんじゃない?」
フイッと前を向いて素っ気なくラファエルが言う…
………これは同じ王太子の立場からして、怒ってるかな……
ガイアス・マジュも余計なことを…
「とにかく、あれだけマモノがいたんだから、何処かに原因となる場所か物があるはずだよ。それを精霊達に手伝ってもらって探そう」
「うん」
私達の言葉に精霊達が動き出したのを感じる。
ちなみにあの焼けた街の家の中には逃げ遅れた人はいなかったようで、ホッとした。
「………向かうとしたらマモノが集まっている場所、と思ったけど、あそこにはいなかったから……王宮か?」
「………ああ、王と王妃が無事かどうか確認するために、ってこと?」
「………民より自分の親優先してたら、本当に王太子の座に修まっているのが許せないんだけど」
………ラファエルの言葉には重みがあった。
ラファエル自信が民を大事にしているし、気持ちは分かる。
「………そうね」
私もお父様やお兄様を見ているから、ガイアス・マジュが本当に両親の無事を確認してホッとしているのなら、許せない。
リーリエ王女は真っ先に民の治療を優先していたのに。
民のために魔物を相手にしていたわけでもない。
私は気持ちの行き場が分からずに、そっと目を閉じた。
私も治療魔法みたいなのが使えたらいいのに……
精霊達は契約者の人の治癒の力を高めるだけ。
治療は出来ないのだ。
こういう時に本当に無力に感じる。
力さえあれば、リーリエ王女と共に民を救えたのに。
「ソフィア」
「………ぇ? あ、なに?」
話しかけられて顔を上げてラファエルを見る。
「ソフィアが気に病むことないからね。ここはマジュ国であって、ランドルフ国でもサンチェス国でもない。俺達が気にかける最優先の国じゃないんだ」
「………」
「俺達1人1人の力で出来ることなんてたかが知れている。何事も分業だよ」
「………それ、ラファエルが言う……?」
「うっ……」
仕事を何もかも抱えていたラファエルの口から出る言葉とは思えなかったけれど、私は嬉しさで頬が緩む。
ラファエルは励ましてくれていると分かったから。
ギュッとラファエルに抱きつき、今度は幸せな気分で目を閉じた。
早く解決してラファエルとゆっくり過ごそうと思いながら。




