第694話 マジュ国
一面焼け野原。
とは言えないけれど、それに近い状態の街並みが目に入った。
視界に入る所、全ての家は焼け落ち、人の気配はなく、ウロウロと魔物らしき生き物が徘徊している。
「こ、こは、マジュ国……なのよね……?」
「そうだろうね。背後に半透明の壁が見えるよ」
ラファエルの言葉に私は後ろを振り返った。
確かに半透明な結界らしきものが見える。
それに沿って上に視線を向けていくと、大きく円が描かれるようになっているようだった。
「落ち着いて下さいリーリエ殿下! って、ガイアス王太子殿下っ!!」
魔導士の制止も聞かずにガイアス・マジュが街へと走って行った。
魔物を蹴散らしながら。
リーリエ王女は魔導士の胸ぐらを掴んだまま、ポカンとガイアス・マジュを見送っていた。
「………何やってんのよあのバカ王子は!!」
………そしてキレた。
「追いかけるわ!」
「お待ち下さい殿下ぁ!!」
「待てないわよ!! あのバカ王子は今魔法が使えないように封印したままなのよ!!」
叫びながらマジュ国組が街へと消えていく……
「………ソフィアがいるよ」
「………否定できないのが辛い……」
ラファエルの言葉に、自分で頷いてしまった。
そしてガイアス・マジュは、レオナルドに似ていると感じた。
あの一直線な感じ…
「火精霊、それと……雷精霊にしようか。姿を消したままマジュ国上空を旋回。マモノ達を街から引き離して」
『了解』
『畏まり』
すぅっと2人が出て行く。
「水精霊は姿を消したまま街の上空へ。炎を雨で消して」
『はい』
未だに燃えている街を放ってはおけない。
まだ中に誰かいるかもしれないし。
「ラファエル」
「うん。追いかけようか。ユーグ、リーリエ王女の気配を追って」
ユーグが姿を現し、頷いて駆けていく。
私達はそれに続き、騎士達もついてくる。
素早くアルバートとジェラルドが私達を追い抜き、私とラファエルを守るような位置につく。
それを見てラファエルがため息をついた。
………え?
なんで?
「ソフィアの騎士は優秀だねぇ。俺の騎士もまだ鍛えなきゃダメかな」
「どういう意味……?」
「指示しなくても、主と仰ぐ人物の安全第一を考えて位置取りできるのは、優秀な護衛の証拠だよ」
「成る程…」
アルバートとジェラルドでも、優秀な部類に入る頭はあるのか…
と、少し失礼なことを考えてしまった。
だって、普段がアレだから…
こんな緊急事態の時に考えることではないのだけれど、考えてしまった…
精霊達のおかげで、魔物が襲ってこないから、更に騎士が私達を囲んでいるから不意を突かれることはなく、気にせずいられるからだけれど。
私は焼けた街中を走りながら辺りを見渡す。
人が瓦礫に埋まっているようなところはないみたいだけれど、油断は出来ない。
『みんな、散らばって家の中に取り残されてる人がいないか確認して』
それぞれの返事が聞こえ、気配が散っていく。
「ソフィア、身体は平気?」
「大丈夫」
まだ息も切れていないし、疲れてもいない。
究極精霊の中で力を使っているのは水精霊だけ。
力が出ない感じでもない。
まだまだ平気だ。
「ちゃんと疲れたり、痛かったりしたら言うんだよ」
「分かってる」
「………ホントに?」
信用皆無!!
自業自得ですけれども!!
「ホントのホント! っていうか、ラファエルは私の顔色で分かっちゃうでしょ!?」
「そうだね」
あ、あっさり肯定されちゃった……
「じゃあ、ちょっとペース早めるよ」
ラファエルの言葉にユーグの速度が上がり、私達はそのまま続いたのだった。




