第691話 侵入者④ ―R side―
「殿下!」
パタパタと走ってきたリーリエ王女を迎え入れる。
まだ俺は侵入者と面会してはいない。
マジュ国の魔導士なら、リーリエ王女がいた方が話はスムーズに済むと思ったから。
「申し訳ございません! マジュ国の者が不法入国したあげくに不法侵入したと聞きましてっ!」
「ええ。まだ話は聞いていませんが」
「ご迷惑おかけしてしまい、お詫びのしようもありません……」
頭を下げるリーリエ王女を見下ろし、俺は心の中でため息をつく。
何処マジュ国の問題がうちに持ち込まれるのだろうか…
「とにかく貴女がいた方が話が早いと思って」
「しっかり灸を据えるので、お許し下さい」
「………他国の、それも王宮に忍び込む行為が、許されるわけないよね?」
影もだけど、こればっかりは敵意なしと判断したら捨て置いてるけど。
サンチェス国のとか、メンセー国のとか。
最近テイラー国のは来てないみたいだけど。
「………はい」
「まぁ、とにかく目的が知りたいから、お願いできる?」
リーリエ王女は深刻な顔をして頷き、捕らえている侵入者の牢へと向かった。
そこには男女それぞれ1人ずつ、2人揃って入れられている。
「王女殿下!!」
「良かった! 無事に会えました!」
………良くはないんじゃないかな。
「良くありませんわ!! 不法入国と不法侵入とは、どういう事ですか!?」
「す、すみません!!」
「急いでいたもので…」
「急いでいたからなんです!? そんな理由が他国に対して通じるとでも!?」
だよねぇ。
君達、連絡手段はあるんじゃないの?
前に頭の中で会話してたよね?
「………その問題は後にして、そうまでして急いでこちらに来た理由はなんですか」
「あ…!!」
「マジュ国の魔物が溢れ、新たに作った結界も破られそうなんです!」
「………何ですって……?」
リーリエ王女が眉を潜める。
………なんだかきな臭い……
「殿下達に連絡をしたのですが、他国に逃げ出した魔物の対処で手一杯で、帰国できないと返答があったのです!」
「何故か王太子殿下と王女殿下に通信できず、こうして参りました!」
………通信できない……?
「王太子殿下がこちらで罪を犯し、わたくしはその見張り役として、役目を果たさなければなりませんでしたから。魔法は一切受けつけないようにしていましたので」
………つまり、自分が使う分には問題ないけれど、他人からの魔法は受けつけないようにしていた、ということだろうか?
よく分からないけれど。
「………魔物の規模は?」
「………今までにない規模です。単純に……3倍程かと。今も増えているかもしれません」
「なんですって……?」
………ランドルフ国でおよそ200匹ほど。
サンチェス国でも同等数と推測し、他の国にも逃げたということは……
………単純計算で万、かな?
………ヤバくない……?
「わたくしと兄が戻ったところで、どうにもなりませんわよ!?」
「しかし! 我が国で尤も魔力が多いのは殿下達です!!」
「っ……!」
「国民のために、戻って下さい!!」
連絡が付かないから最速で不法入国も侵入も仕方がないね。
………さて……うちも他人事ではないな……
もしマジュ国からそのマモノ達がこちらへ来てしまったら、うちの国民にも被害が及ぶかもしれない。
「………分かりました」
リーリエ王女が頷き、俺を見てくる。
事情が事情だけに、今罪を償わせることは得策ではない。
「………こちらでも人を出そう」
「ですがっ……!」
「幸いこちらのマモノは処理し終えてる。今溢れそうなマモノをマジュ国から出されて、また被害に遭うのは御免被る」
………ソフィアにまた負担をかけるかもしれない。
でも、多分……いや、絶対に行くと言うだろうし。
今度は俺と一緒だから無茶はさせない。
「俺とソフィアなら、充分戦力になるだろう」
「それは……そう、ですが……」
「ソフィアにも事情を話す。君達は準備を。不法入国と不法侵入は、マジュ国の問題が解決してからにするよ」
俺は一方的に言い、騎士に指示を出してその場を後にした。
………やっぱり巻き込まれるんだよね…
ため息を隠さず、俺はソフィアの部屋に足早に戻った。




