第690話 侵入者③ ―R side―
薄暗い通路を歩く。
この王宮内に、侵入してくる人間がいるとは。
いや、他国の影が入り込んでいるのは分かっているけれど。
それ以外の、普通の侵入者はいないと思っていたんだよね。
普通、侵入するように指示するなら影だから。
「ラファエル様」
足早に前方から俺の騎士が近づいてくる。
騎士の中では小柄で、けれど小回りが利いて素早さは人一倍だ。
「シード、侵入者は捕まえたかい?」
歩みを止めぬまま聞く。
「はっ! 今、イーリア達が牢へ連行しています!」
「分かった。ルイスは何処だ?」
「現在騎士らに指示を出しております。終わったら合流すると聞いております」
「ご苦労様」
シードと共に牢へと向かう。
「王宮内の警備は?」
「今、伝令を騎士の寮に行かせてます。待機中の騎士がもう間もなく到着するでしょう。それから各所に配置予定です」
「そう」
俺が王太子になってから初めての招集だな。
問題なく機能しているならいい。
これで機能しなければ、それはそれで問題だけれど。
「シード」
「はい」
「彼らの服装、見たか?」
チラッと見れば、少しシードが視線を反らした。
すぐに視線を戻していたけれど。
「………はい」
「そう。どうだった?」
「似ていると思いました」
やっぱりシードもそう思ったか。
「ただ似ているだけ、ではなさそうだよね」
「私もそう思います」
牢へと繋がる道に入り、更に薄暗くなった通路を歩く。
カツカツという足音に気付き、入り口から1人の騎士が顔を出した。
「ご苦労様イーリア」
「いえ」
身長は俺と同じぐらいだが、筋肉質で横に大きく見えるイーリアが、扉を大きく開いて俺が通れるぐらいにした。
「大人しく掴まった?」
上から下まで一通り見て聞く。
「いえ、暴れました」
だろうね。
「怪我人は」
「いません」
「そ」
さすがだね。
「何処の者か分かった?」
「マジュ国の者です」
だよね。
ローブの下から見えたのは、マジュ国の魔導師達が着ていた服に似ていた。
そしてこの王宮を囲っている外壁を易々と越えられるのは、マジュ国のマホウぐらいしか考えられない。
………精霊がいたら別だろうけれど。
「目的は?」
「まだ口を割っておりませんので、分かりかねます」
「………」
俺は少し考える。
「シード」
「はい」
「ガイアス殿とリーリエ王女に連絡して、リーリエ王女にご足労願えたら連れてきて」
「ガイアス王太子殿下ではなく、ですか?」
「罪人をまだ自由にするつもりはないよ」
「畏まりました」
シードが出て行った。
ガイアス殿は、センロを設置している付近で寝泊まりしているけれど、リーリエ王女はこの王宮の客室だ。
ガイアス殿には伝令を飛ばし、そのまま待機してもらう。
さてさて……どうなるかな。




