第689話 侵入者②
「………侵入者はまだ捕らえられねぇのか…?」
寝室にフィーアがお茶を用意してくれ、ラファエルと共に口にしていた。
侵入者がいるのに呑気なものだ。
呑気にお茶を飲んでいるのは私もだけれど。
ラファエルと騎士と影がいれば、私に怖いものはない。
だから悠長にしていられるのだけれど。
アルバートが痺れを切らしてそう零すぐらいには、時間が経っていた。
「わざと泳がせてるんだよ」
ラファエルの言葉にアルバートが振り返ってこちらを向く。
今までは扉を睨みつけていた。
「わざと?」
「目的がハッキリしないからね」
飲み終えたカップを戻せば、フィーアがお代わりを煎れてくれる。
「この国に入ったときからじゃないと、会話を拾えないから」
他国に精霊を送り込むのは御法度だものね。
暗黙の了解、だけれども。
「彼ら……彼女かもしれないけれど、目的は王宮。そして何かを願いたい、みたいなことだったね」
「………今、何処かで目的をポロッと漏らさないか、様子見してるってこと?」
「そうだよ。分かって、それが害になるなら即捕縛。純粋な懇願だったら禁止区域の手前まで来るのを待つ。分からなかったときも同様だけど」
「でも……もし暗殺だったら……」
目的が分からなくても捕らえるべきでは?
そう思ってラファエルに言うけれど、ラファエルは首を横に振った。
「影達が見たローブの下、その服装が気になってね」
「………服装?」
「見知ったものによく似てたから」
それを聞こうとして、王宮中に鳴る大きな音が響いてきた。
ビービー! と比喩ではなく、大音量で。
「うるさっ!?」
咄嗟に私達は耳を手で塞いだ。
「………まぁ、これ以上待つまでもなく、指紋認証の所まで来ちゃったね」
音はすぐに止まり、それが無許可の者が指紋認証扉から手を離し、捕らえられたという合図らしい。
「ソフィアはここにいて」
「え……」
咄嗟にラファエルの服を握ってしまったけれど、やんわり外される。
「侵入者の姿を、何も分からない状態でソフィアに対面させるわけにはいかないからね」
「でも、それならラファエルも……」
「既にルイスが動いて、侵入者を牢に入れるよう動いているだろうから」
鉄格子越しに面会すると知り、少しは安心する。
けれど、問題は何一つ解決していない。
相手の目的すら分からないのだから。
「ソフィアを頼む」
「「「「はい」」」」
騎士達が頷き、ラファエルは寝室を出て行った。
「………またラファエルが1人で抱え込まなければいいのだけれど…」
「この騒動がソフィア様に既に知られているのですから、隠したりはしないでしょう」
「………そうね」
真っ先に当番じゃなかったアルバートとジェラルドも、私の部屋に飛び込んでくるぐらいだ。
さっきの音のこともあるし、王宮の人間全員が知ることとなった。
「………そういえばさっきの音は城下にも……?」
「それは無いと思いますが……」
それこそ国中に響くような、大きな音だった。
鼓膜が破れるかと……
まぁ、アレなら例え寝ていても、飛び起きるわよね……
ラファエルを心配する私に、フィーアがお茶を勧めてきて、私は素直にそれを受け取った。
また厄介なことにならなければいい、そう思う。




