第688話 侵入者 ―? side―
「………これは…」
サクッと足もとで音がする。
フード付きマントを羽織り、頭から足もとまで覆っている2人。
辺りは真っ暗で、マントも黒のために、暗闇に溶け込んでいる。
「どういう事でしょうか……?」
「分からないわ……とにかく、急ぎましょ」
2人は早足でその場を走り抜けた。
不法入国している2人は、見つかると咎めなしとは言えない。
見つかる前に移動する必要があった。
「………早く行かなければ…」
素早く移動した2人は、聳え立つ王宮を前にして1度足を止めた。
「………不法入国の上に、こんな深夜に謁見なんて夢のまた夢ね」
「忍び込みましょう。話を聞いて頂ければ、手助けして下さいますよきっと」
「ええ」
2人は正門から離れ、城壁の比較的侵入しやすいところを探した。
見られているのも知らずに――
――――――
穏やかだった空気が何処か緊張した空気へと変わった。
スッと自然に目が覚めた。
「………なに……?」
寝ぼけ眼で起き上がる。
隣にラファエルはいない。
懲りずにお詫びの品と称して私にものを買ってきたお仕置きとして、今日は一緒に寝ないと突っぱねた。
ラファエルが絶望的な顔をしたけれど、無視した。
私だってラファエルと一緒に寝たかったけど、お仕置きだもん!
2度と買ってこないように!
「姫、何者かが侵入してきているようです」
「………は……?」
この警備が厳重な王宮へ?
隣でそっと囁いてくるライトの言葉が信じられずに、思わず凝視してしまう。
常駐している騎士は勿論、精霊達も常に監視している。
死角などない。
まぁ、精霊のことは知らないだろうけれど。
「ラファエルはっ」
「カゲロウに知らせに行かせてます。姫、ここから動かぬよう、お願いします」
そりゃ、私は戦力にはならないから分かっているけれど…
『………侵入者は今どの辺り?』
『まだ下の階です。庭園から侵入し、迷いながらも確実にこちらへ向かっております』
ラファエルが目的?
それとも王との交渉?
ないとは思うけれど、私…?
お披露目はされていないけれど、他国に私とラファエルの婚約は伝わっているはず。
だから、私がここにいることも分かっているだろう。
ラファエルと部屋が隣だから、どちらにしてもこの部屋に辿り着くのは時間の問題だろう。
私はベッドから降りる。
「姫」
「寝室からは出ないわよ」
隣室の――ラファエルの部屋へ続く扉に向かい、鍵を開けた。
すぐさま向こう側から扉が開き、人影が滑り込んでくる。
一瞬身構えたけれど、回された腕と香りに、ラファエルだとすぐ分かった。
「ソフィア、まだ無事だね」
「当たり前でしょ」
ラファエルが後ろ手に鍵をかけ、私をベッドへと促した。
「今精霊達が動いてくれているらしいから、人型で騎士も誘導してくれているだろう」
「そうみたいだね。………侵入者は何が目的なんだろう……」
「すぐに分かると思うよ」
言外に、すぐに捉えると言っている。
私は頷いて、そっとラファエルに抱きついた。
恐怖心ではない。
寂しかったのだ。
………こんな時に不謹慎だけれど、私はラファエルに抱きしめられたまま、目を閉じた。




