第687話 仲直りは遠い…?
「サッパリした~」
ポカポカする身体に笑みが浮かぶ。
ドレスにインクをこぼしてしまい、今日は少し早い入浴タイムとなった。
ラファエルに貰ったドレスが台無しになってしまったけれど…
それに罪悪感…
ちなみに、いつの間にか衣装部屋に増えていたラファエルから贈られたドレスは、ラファエルの髪の色である黒、ラファエルの瞳の色である深紅が多い。
そして最近も更にいつの間にか増えていたドレスは、私のサンチェス国での禁色になっている紫のものが増えていた。
………気にしたら負けである。
っていうか、どれだけラファエルは自分色に私を染めたいのだろうか……?
恥ずかしくて着るのに躊躇するのだけれど…
ちなみに黒と言っても、重い感じには見えない作りになっている。
どう作ったのかは知らないけれど、光沢が入って綺麗なドレスなのだ。
もちろん、黒や深紅や紫以外のドレスもある。
その3色が多いってだけ。
メンセー国に卸す用に色々染料作っているから、試作で布を染めている。
………でも…出来上がった色で、次々に私用のドレスを作るのは止めて欲しい。
試作品で売るつもりない布だからって理由で……
『あれ? ソフィアいないの?』
部屋着用のドレスをフィーアに着せて貰っていると、部屋からラファエルの声が聞こえてくる。
『ソフィア様は入浴中でございます』
『そうなんだ。今日は早いね』
『そういうご気分だったのでしょう』
………おっと。
オーフェスが誤魔化してくれてるぞ。
すぐバレると思うから、誤魔化さなくていいんだけど…
私の口から言えってことかな?
『じゃあ俺もちょっと着替えたいし、後で来るって伝えて』
『畏まりました』
ラファエルが出て行く音がする。
また来たらちゃんと言わなきゃ。
貰ったドレスを台無しにしてしまったのは事実だし。
「姫様、髪型はいかが致しますか?」
「降ろしたままでいいよ」
「分かりました」
フィーアがドレスの裾を整え立ち上がる。
「ありがと」
「……姫様、侍女に一々お礼を言うのは……」
「私が言いたいからいいの」
渋るフィーアを置いて、私は部屋に戻る。
ソファーに座って風精霊に髪を乾かしてもらう。
気持ちがいい温風で、いつも寝てしまいそうになる。
ものの数分で髪が乾き、フィーアが髪を整えてくれる。
そうこうしているとラファエルが入室してきた。
………だからノック……
「ただいまソフィア」
「………おかえりなさい」
一瞬笑顔になりそうになったけれど、私は怒っていたのだと思いだして、無表情で返した。
誰かが大人げないって言っている気がするけれど、気にしない。
「………まだ怒ってる?」
「………怒ってないとは言えないけど、ラファエルのくれたドレスを台無しにしちゃったから、怒る資格はないかな……」
「え? どうしたの」
「ペンのインクをこぼしちゃって、真っ黒になっちゃたの。ごめんなさい……」
ラファエルは苦笑して私の所まで近づき、隣に座った。
「それとこれとは別だよ。ソフィアの身体は大丈夫だったの?」
「私は大丈夫」
「ならいいよ。たとえインクでも俺のソフィアの素肌を汚すのは許せないから」
「どういう嫉妬なの!?」
思わずそう叫んでしまった。
ラファエルの考えが時々分からなくなるから、そういう事を言うのは止めて欲しい!!
「ドレスぐらい気にしないで」
「………ありがとう…」
これ以上言うのは止め、ラファエルにお礼を言った。
「俺もごめんね。置いて行っちゃって」
「………また後日、連れて行ってくれる……?」
「完成したら1番に」
約束してくれるラファエルに私はこくんと頷いた。
………頷いて許したんだけどね……?
………何故にラファエルは私の手に小さな、綺麗にラッピングされた箱を乗せてくるのだろうか……?
「………これは?」
「お詫びの品」
「ラファエル!!」
散々贈り物は受け取らない(国が立て直すまでは)と言っているのに、何故に買ってくるのだろうか!?
ラファエルは私が怒るのを分かっていて、笑っているし!
まだ仲直りは出来なさそうだった。




