第685話 進む② ―R side―
北のセンロの具合を見て、俺はルイスと連れてきた騎士と共にその場を後にした。
王宮に帰るその途中で、温泉街へと寄る。
ソフィアに似合いそうな装飾品でもあれば、機嫌を直してくれるだろう。
もちろんソフィアが嫌う贅沢品は、贈っても逆効果だってことは分かる。
だから、平民用の雑貨店へと足を踏み入れた。
「いらっしゃ――お、王太子殿下!?」
あ、変装してくれば良かった。
俺の姿を見た店員と客が一斉に固まってしまった。
「お邪魔するよ」
笑って言えば店員が慌てて近づいてくる。
女性店員なんだよな…
あんまり近づいてきて欲しくない。
「あ、あの、うち、何かしましたでしょうか……!?」
「いや? 愛しい婚約者に贈る物を探してるんだ」
「え……」
………ん?
何故かここにいる全員に奇妙な視線を向けられたぞ。
「あ、あの……」
「なに?」
「こ、ここに置いてあるものは、王女殿下が使用されるようなものは……」
………ぁぁ、そういうことか…
「私の婚約者は、まだこの国が立て直してないから、贅沢品は絶対に受け取ってくれないんだ」
「え……」
「店を間違えたわけでもなんでもないから。それに元々こういうものを好む王女だから、贈り物として見せてもらいたいんだ」
俺は質素な髪飾りを手に取って微笑む。
けれど納得してくれていない。
戸惑いが消えない。
当然だよね。
貴族令嬢――男爵令嬢でさえ、ここのものは購入などしないだろう。
この店に来たのは間違いだったかな?
ソフィアの店が出してくれた支店に行った方が良かったかも。
そう思いながらも店内を見る。
店員が、客が、固まっていようがどうでもいい。
ソフィアが喜ぶもので、似合いそうな物があればいいだけ。
「あ、ルイス」
「………何ですか?」
店の入り口に待機してたルイスを呼ぶ。
「こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
手に取ったのは花の形の髪飾り。
大きく1輪だけ付いたものと、小さいものが5輪ついたもの。
「………何故私に?」
「どっちも似合うと思うんだけど、2つも買っていったらソフィアが怒るから。仲直りの品なのに、また喧嘩になっちゃうでしょ?」
真顔で言うと、ルイスが頭を抱えた。
「私では選びきれないから」
「………1輪の方がいいと思いますよ」
「じゃあ5輪の方にするね」
1輪の方を戻し、サッと笑顔で購入して包んでもらった。
最後まで、店員と客の空気は変わらなかった。
「………何故私に選ばせたのにも関わらず、もう一つの方にするんですか。私に選ばせた意味は」
「他の男が選んだものを、私がソフィアに渡すわけないでしょ」
だから選んでもらったのとは違うものを購入すると決めていた。
「………何処まで独占欲が強いんですか」
「失礼だねルイス。ソフィアのことならこの世の誰よりも狭量になれる自信があるよ」
「その自信は今すぐに捨てて下さい」
ルイスと話しながら、店を後にした。
「後は帰って、ソフィアの好きな菓子を作ってから会いに行った方が良いかな」
「………そのまま真っ先に向かった方がいいんじゃないですか」
「なんで?」
「ソフィア様のご機嫌を取るのは、早いほうが良いということですよ。時間をかければかけるほど、きっかけを失いますよ」
「………それもそうか。わかった」
俺は急いで馬を繋いでいる場所まで向かった。
「………ソフィア様と喧嘩しているとラファエル様も不機嫌になって、こっちまで影響出ますしねぇ……」
ルイスの言葉を聞き流しながら。




