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第684話 進む ―R side―




「ユーグ」


名を呼べばユーグが力を使う。

北のスキー場予定地までセンロを引けた。

エキの設置も出来、そこまでのセンロの中に、温泉街に源泉の道を別に引き、そこからセンロの中に流し込む作業。

俺はスキー場のエキに立ち、ユーグに源泉を操って流し込むように指示をした。

1本分の設置場所を空け、そこからまたテイラー国までのセンロを引くように作業員に言っているから、周りは凄い音がする。

防寒具を買えてない、元サンチェス国公爵子息の双子と、ガイアス殿は身を震わせながら作業しているけれど。

防寒具の支給はしてないからね。

リーリエ殿はマホウとやらで自分の周りだけ冷たい空気が入らないようにしているのだとか。

それをガイアス殿にしないということは、彼女なりの彼への罰なのかもしれない。

元々ランドルフ国民だった平民の作業員達は、服を重ね着出来るから問題ない。

優しい者達はガイアス殿と双子に自分たちの服を着るように渡したようだけれど……

矜持が邪魔をしているのか、双子は受け取らなかった。

ガイアス殿は有り難くもらっていたけれど。

それも器の違いだ。

双子がサンチェス国の公爵の跡継ぎではなくなったのは、ある意味良かったのかもしれない。

そんな事を思っていると、温泉街方向のセンロの周りの雪が徐々に溶けてきた。

ユーグが上手くやってくれたらしい。

取りあえずは良さそうだ。


「これで様子を見よう」

「はい。様子見はどれぐらいにしますか」


ルイスに聞かれ、少し考える。


「取りあえずは7日。それだけあればどれだけ周りの雪が溶けるのか観察できるだろう」

「分かりました」

「それと、温泉街とここの中間地点でいい。ロメンデンシャを停車させておけ」

「はい」


なんの疑問もなくルイスは頷いた。

街の地面は問題ないが、源泉をセンロに流して熱で雪を溶かすのだから、周りの雪が溶けて地面は泥濘むだろう。

それでロメンデンシャの重みに耐えられるか分からない。

耐久面の問題はなにもセンロだけじゃないからな。

それに速度も合わされば、更に地面が沈み込むかもしれない。


「………ふっ……」

「ラファエル様?」


急に笑った俺に、ルイスが首を傾げる。


「いや。なんでもない」

「左様ですか」


ついつい思い出し笑いをしてしまう。

今日、ここで試しに源泉を流してみるから王宮を空けるとソフィアに言ったときだ。


『私も行く!!』


と、当然食いついてきたのだ。

でも、俺は許可しなかった。

体調がもう戻っているのは知っている。

けれど寒い北に来るのだから、風邪をぶり返したら困る、と止めた。

するとソフィアがぷくっと頬を膨らませて拗ねた。

侍女らに窘められてたけど、ソフィアは頬を膨らませたままそっぽを向いたのだ。

今まで俺は許可してたから、そうすれば許可すると思ったのだろう。

俺もソフィアに嫌われたら嫌だから、今まで一緒に連れ回してたんだけど。


『ロメンデンシャは俺の案だし、北は特に難しいだろうから、スッとソフィアに代案を出されたら困る』

『そんなにガチガチに拒否しなくていいじゃない!! 路面電車はラファエルの案でしょ! 線路とか地面に対して対策案を出しても揺るがないでしょー!?』

『俺がヤだ』

『ラファエルのケチ!!』


と、そっぽ向かれたまま、俺は時間の関係でそのままソフィアと別れることになったのだ。

帰ったらご機嫌取りが大変だ。

どうしようかと困ってしまうのに、思い出し笑いをしてしまったのは、あの時のソフィアが可愛かったから。

駄々を捏ねられるのって、嫌いな人間だったらイライラするけれど、なんで惚れちゃったらあんなに可愛く、そして微笑ましくなるんだろうね。


「ラファエル様」

「ん?」

「気持ち悪いので、その思い出し笑い止めて下さい」

「失礼だな!」


ルイスに指摘された。

しかも王太子に向かって気持ち悪いって!


「それより次の案件ですが」

「容赦ねぇな…」


書類を捲りながら次の仕事の話になり、俺は苦笑した。

ソフィアのご機嫌取りに、帰りに通る温泉街で装飾品でも買おう、と思いながらルイスが持っている書類を受け取った。


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