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第683話 いつもの光景⑥ ―F side―




「姫様」

「………ん? どうしたの?」


姫様が一息つき、書類に目を通しているところに声をかける。

通常、そういう時は壁際で控えるのだけれど、今姫様が確認している書類について、聞きたいことがあったから。


「茶会に義母は参加されておりましたか?」

「うん。きちんと来て下さっていたわよ」


わたくしの義理の母、リリアも姫様の茶会に来ていた。

姫様が確認しているのは、侍女と使用人に扮した精霊達の報告書。

いわば誰々が誰と交流していた、とか、誰々が何を好み、そして誰と対立しているか、の詳細。

わたくし達が目にするのは姫様に許可貰ったものだけ。

現在姫様が確認中のため、わたくしは書類が目に入らないような位置で声をかけたのだ。


「元気そうでしたか?」


わたくしは裏方に回っていたので直接お会いしていない。


「ええ。きちんと普段着ドレスで来て頂けてたし」


嬉しそうに笑う姫様にホッとする。

やはり義理とはいえ、自分の親のこと。

気になってしまうのは当然だ。


「アシュトン公爵夫人は、サッパリしたお茶が好きみたいね」


丁度義母のことが書かれてある書類だったのか、わたくしに渡してくれる。

見てもいいということだろう。

視線を落とすと、事細かに分析されていることが書かれていた。


「逆に甘味は甘い方がいいのですね」

「甘いものを食べて、サッパリしたお茶で締めるのがいいのかもね」


笑う姫様に、わたくしも笑う。


「この辺りは全て目を通したわ。貴女達も見て記憶してちょうだいね」


書類をトントンと机で整え、渡してくれる書類一式を受け取る。


「はい。御前を失礼してから目を通しますね」


もし面会予定など希望されて会うことになれば、これらの情報は必要だ。


「………義母は、特に親しい方も、対立している方もいらっしゃらないようですね」

「そうね。アシュトン公爵が中立派っていうのもあるだろうけれど、北はそもそもそれ程他領との交流がないのも原因かもしれないわね」

「そうですね。スキー場が開放されれば、他領の方との交流は増えるでしょうが」


姫様が少し考えて頷く。


「………それで、旧国派に引きずり込まれなければいいのだけれど…」


その言葉にわたくしは即答できなかった。

なにせ、アシュトン公爵は良い意味でも悪い意味でも、良い方なのだ。

直接的に表現すると、頼まれれば断れない方。

つまり、騙されやすい方かもしれない、ということだ。

騙されて悪事に荷担させられるかもしれない。


「まぁ、そこは公爵だから、きちんと見極めて欲しいけれどね。起こっていないことだし」


そう言って姫様は苦笑した。


「そうですね。公爵ですから、その辺は上手くやってくれると思います」


多分、とは口にしなかった。


「………茶会で、アンドリュー公爵家が不参加だったのが痛いわね…」


アンドリュー公爵は、妻子がいない。

もう少しすれば、養子で男児を引き取るかもしれないという噂はあるけれど。

旧国派寄りの中立派。

お堅い人、とは聞いているけれど。

今後のために、アンドリュー公爵家の意向を探れなかったのは、姫様にとっては不服だっただろう。

女性がいないから仕方がないけれど…


「ラファエルに協力的になって欲しいけどね。こればかりは人の意思。気長にやるしかないわ」


そう言って姫様は話を終わらせ、棚へ行って裁縫道具を手に取った。


「………ですから姫様」

「ん?」

「そういう事も侍女の仕事です! ご自分でやらないで下さい!」

「………ぁ……」


つい癖で、と言って笑うけれども、おそらくこれもずっとやってしまうだろう。

いい加減、侍女を使うことを覚えて頂きたいものです。

心の中でわたくしは息を吐いた。


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