表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
681/740

第681話 いつもの光景④ ―A side―




コトッ…と花瓶を置けば音がする。

私とジェラルドが選んだ花が、姫様の部屋の机に飾られる。


「アマリリス怪我はなかった?」

「はい。姫様のおかげです」


………というか、見習いに心を砕くことなんて必要ないのに。

姫様は最初からこうだ。

普通の貴族令嬢なら使用人は身の回りの世話をして当然。

揉めても興味なく、興味があるのは自分のこと。

一々使用人が何を知って何を思っているかも興味は無い。

あの場に他の令嬢がいたとして、汚された通路を見て知らないフリするか、あるいは罵声を浴びせるか。

後から気遣うことなどない。

………それは昔の私も当てはまる。

自分はヒロインだから、と男爵家で好き勝手してた。

あの時の私が姫様の行動を知れば、それこそ鼻で笑っただろう。


「姫様はお気になさらなくていいんです。侍女に、それこそ自分付きの侍女、それも見習いなど、してもらって当たり前。他の者にちょっかいかけられようとも自分で解決しろ、と突き放すのが正解です」


私の少しなっていない口調も、言葉も、姫様は笑って流すのだから…


「私付きの者を気にかけて何が悪いの」


むしろ胸張って当然って顔で、更に誇らしげに言うものだから、苦笑するしかない。


「しょうもないことだったら私も口出ししないわよ」


………姫様、その言葉に壁際に立っているヒューバートの視線が鋭くなったわよ。

しょうもない、なんて姫様が使う言葉ではないでしょう…


「でもあの場所は多くの人の通行があるのよ? そんな場所をわざと汚したり、水浸しにしたり」

「………」


確かにあの通路は人の往来が結構ある。

呼び出しを受けた貴族や、謁見を申し込んで許可が出た者なども通る。

今は制限されているけれども。

もし、あの行為で貴族位の人達が足を取られて転んだら……


「第一ラファエルも私も使うのよ? ありえないでしょ」

「はい」


それこそ騒ぎにならないはずもない。

あのまま姫様が気づかずに――他の者と会話してて足を取られたら……?

………考えたくもない!!


「それにアマリリスの安否は部屋の中で聞いたじゃない。あの場では心配でも口に出さなかったでしょ」

「そうですね」


………でも姫様。

怪我しているかもしれないのに、聞く前に花を摘みに行かせましたよね。

まぁ、あの場から離れさせる目的だったんだろうけど。


「今後もそれでお願いします。部屋での心配も不要ですけれど」

「心配も口に出せない王女って最悪ね!」


ぷりぷりと姫様は口調上では怒る。

けれどその顔は別に気にしてはいないのだろうとわかる、いつもの表情だった。

これは今後も変える気は無いのだろう。

姫様が、たかだか侍女見習いの注意を聞き入れる必要はないのだけれど…

………誰にも(姫様付き以外に)知られてないのだからいいのだろうか…

私は思わず息を吐いた。


「あ、ごめんアマリリス」

「………ぁ、はい?」


突然姫様に謝られ、首を傾げた。


「随分服を汚しているわ。私が止めるのが遅れたから」


そう言われて見下ろすと、酷い有様だった。

びちゃびちゃのドロドロ。

汚れた雑巾に水濡れ、そしてジェラルドの突撃のせいで。

これで今まで姫様の前を彷徨いていたの!?


「申し訳ございません!! すぐに着替えと掃除を!!」


姫様の返事も聞かずに、私は侍女待機室へと飛び込んだ。

予備の制服はここにも置いてある。

手早く脱いで洗濯用の籠に放り込み、汚れている肌を手早く拭いて新しい制服を着込む。


『アマリリス。気持ち悪いでしょ? 入浴してきていいわよ』

「勤務中です!!」


優しい姫様の言葉を聞いて、思わず涙ぐみそうになり、慌てて叫んだ。

有り難いけれど、こんな状況でのんびりお風呂なんて入っていられないわ。

部屋に戻ると、姫様は困ったような顔で笑っていた。


「姫様のお心遣いは感謝してますが、私を仕事を投げ出す侍女にしないでくださいませ」


キッパリ言うと、姫様は苦笑し、分かったと折れてくれた。

それに感謝しつつ、業務へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ