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第680話 いつもの光景③ ―A side―




「アマリリス~」


姫様の花壇の前にしゃがみ込み、ジッと眺めて、摘んでも問題ない位置のもので綺麗に咲いているものを選び抜く。

といっても、精霊ソフィーが手入れしている花壇だから、どの花も遜色なく綺麗なのだけれど。

そうこうしていると名を呼ばれ、顔を上げると同時に覆い被さられた。


「きゃぁ!?」


私は思わず尻餅をついた。


「な、なに――」

「疲れたよぉ~~~!!」


グリグリと私の太ももに顔を押しつけてくるの止めてくれませんか。

顔を見るまでもなく、声だけで私の婚約者であるジェラルドだと分かるけれども。

私にこんな無遠慮なはしたないことをしてくるのもこの男だけだけれども。

ジェラルドは今日も、ラファエル様と姫様に言われた仕置きに出されていた。

アルバートも対象だけれども、今日はオーフェスが休みだから姫様付きだ。

次のヒューバートの休みの時は、ジェラルドが姫様付きになるのだけれど。

仕置きの内容は過剰訓練。

単純に騎士の基本訓練の倍やらされているらしいけれど。

それも騎士達の通常訓練時間と同じ時間で。

だから速度も大事になる。


「………はぁ。仕方ないでしょう? ジェラルドがいけないことをしたのだから」

「………ぅん……」


起き上がってその場に座り込み、シュン…とした顔をするジェラルド。

………ぐっ…

思わずときめいてしまった。

これが母性というものなのだろうか…

私より年上のくせにぃぃいい!!

って、あ!!

ハッとして手にしていた花を見る。

潰れてない!?

そこには、焦ったのが馬鹿らしいぐらいに摘んだままの状態で綺麗な花があった。


「ぁぁ…良かった……姫様のお花…」

「………むぅ……」

「………ぇ? ジェラルド…?」

「俺の相手よりソフィア様なのぉ?」

「当然でしょ。仕事中よ」


ぷくぅっと頬を膨らませるジェラルド。

………子供かっ!!


「アマリリスが冷たい!!」

「公私混同はだめよ」

「俺は疲れたの!! アマリリスに甘えるの!!」

「………はぁ……」


ため息をつけばプイッと顔を反らされる。

………本当に子供を相手しているみたいだわ…


「ジェラルド」

「………」

「ジェラルドってば」

「………」


返事もしてくれなくなった。

なんで拗ねるかなぁ……?

私は侍女服のポケットに手を入れる。

ハンカチを取り出して敷き、その上に花を置く。

今度は反対側のポケットに手を突っ込み、手に当たったものを取り出す。

そしてジェラルドの顎を掴み、強引にこちらを向かせた。


「ひ、ひたひよ!」


………多分痛いって言ったんだろうね…

口が開いたのを見て、ジェラルドの口の中に取り出したものをズボッと押し込んだ。


「むぐっ!?」


ちゃんと口が閉じたのを見て手を離す。


「………あ、美味しい」


きちんと咀嚼して飲み込んでから言葉を発するのは、やはり公爵家の人間と言えるだろう。


「今日の夕食の後に一緒に食べようと思ってたのが台無しよ」

「え? 今日一緒にご飯食べられる!?」


………そこなんだ…

餌付けして、いつもお菓子を強請ってたジェラルドだったのに。

いつの間にか食べ物より、私との時間の方が重要になったと思えば、嬉しくもなる。


「そうよ。ほら、機嫌直して一緒に姫様の部屋に飾るお花、選んでくれない?」

「やる! ソフィア様ならあの花が似合うよ!」


パッと笑顔になったジェラルドは、一目散に目当ての花の所まで走って行く。

あの勢いなら乱暴に摘んでしまうのではないかと、慌ててハンカチと花を回収して駆け寄れば、想像していたのとは違い、丁寧な手つきで優しく摘み取っていた。

唖然と見ていると、それに気付いたジェラルドが私を見て、ニコッと笑った。

いつものジェラルドの表情なのに…

意外な一面を見られ、私も微笑みながら隣に座ったのだった。


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